第18話 歓迎会?いや、肉祭り

「リストの生還とカズキ君の加入を祝して、乾杯!!」


ギルバードさんの音頭で広場に集まった人間は皆、歓声と共にコップを空高く掲げた。

みんな良い香りのする果実酒を楽しんでいるのに俺だけ果汁ジュース……解せぬ。なぜそこまで頑なに子供扱い?


歓迎会で保管庫にある肉をいっぱい焼くとはいっていたが肉しかねぇ。野菜の一枚もないのはおかしいだろ。本部前の広場に設置されたテーブルの上には『○○の肉』『○○の肉』の文字が乱立している。


「いやぁギルの目に止まった冒険者がこんな無愛想なガキとはびっくりしたが、強いのか?今度手合わせ願えんか?」


酒を飲みつつ寄ってきたおっさんはこのギルド最年長で『ゴレン』という名の戦闘狂。ギルバードの父親の戦友らしい。


「戦闘は得意じゃないです。買われたのは荷物運びじゃないですか?」


マジックバッグの事は先ほどの紹介で話に上がっていたので隠す必要はないし、珍しい魔道具もリストから聞いていた希少性の割にみんなの反応は薄かった。ここのメンバーの反応を普通と思うなとリストに耳打ちされたので、外で大っぴらにして使うつコリはないが。


「ゴレンさんすぐに決闘したがるんで無視しといて良いですよ。それよりカズキちゃんは魔法が得意なんだよね?どんな魔法を使うのか見たいなぁ僕の実験室来ない?」


助け舟を出しにきたのか、さらなる泥舟を持ってきたのかわからない目の下のクマが印象的でヘラヘラ笑う男は『ノートン』。リスト曰く魔法狂。


魔法の研究に熱心……なのならいいが、あらゆる魔法をその身に受けてみたいという変わった男。魔法が不得手なリストにとっては無我らしいが……。


「風だっけ?良いなぁ……風圧で空も飛べるはず?焚き火起こすのに火も使ってたらしいね。ああ……焼かれたい、爛れたい、そしたらサーラのエクストラヒールかけてもらえる」


ヒッヒッヒ……と笑ってサーラを見たノートンに、サーラは無言で引き攣った笑顔をむけていた。流石のサーラもノートンには引くのか。


「「ノートン、キモい」」


はっきりとした辛辣なハモリと共に近づいてきたのは双子の兄弟『メル』と『ナル』多分最年少。小柄な体躯で白と黒の猫耳と猫のしっぽがトレードマークなのだが……。

メルが白猫、ナルが黒猫。耳を付け替えられたら気付けないかもしれないほど似ている。

ちなみにこの世界に獣人はいない。つまりはコスプレ。


「ねぇ、カズキくぅん……リストに聞いたんだけど」

「カズキくんの持ってる香辛料をかけたらお肉が劇的に美味しくなるってきたんだけどぉ」


両脇から腕にしがみつかれ、先ほどノートンにかけた声とは罰人のような甘え声で体を密着してくる。

可愛い双子の女の子だったらあざと可愛いで済むのだが二人とも男の子で、可愛いと思うには俺にはちょっと特殊すぎる性癖だ。しかも二人とも性格が……。


「「僕たちもカズキくんのの食べたいなぁ〜」」


いちいち言い方に含みを持たせてくる。


「……ショタ三人……それもいいわね」


ボソリと呟きが聞こえサーラが何かブツブツと呟きながら考え込んでいる。

そのサーラの肩越し、一人夢中で呑んで食っているのは『メイビ』特徴は……謎、いつもどこにいるのかわからない。神出鬼没で突然現れ突然消えるとのことだが、今日は流石にずっと会に参加してくれるつもりらしい。


一言ぐらい会話しといたほうがいいんだよな……。


「メイビさんはキングシャドーシャークの肉よりグランホースボースの肉のほうが好きなんですか?リストなんかは涙流して夢中でキングシャドーシャークを食べ続けてますけど」


そう俺がメイビに話しかけた瞬間、みんなが一斉に俺の視線の先、メイビへと振り返った。その反応にビクッと体を撥ねさせたメイビは皆の視線を一身に受けて……泣き出したぁ!?


突然号泣されても……なに?極度の人見知り?


「え?メイビさんいつからそこにいたの……」


「メイビ……帰ってたのか」


「え?メイビさん挨拶の前からずっと皆さんと一緒にいましたよね」


 「「え?ずっと?」」


どういうこと?俺が広場に着いた時にはもうすでにいて、みんなが焼いた肉をテーブルに運ぶ手伝いをせっせとしていたはず。


「カズキ君……ありがとぉぉぉぉぉぉっ!!」


両脇を双子二人に固められていルので逃げることができずに、真正面からメイビに抱きつかれ防御もできないまま涙と鼻水を胸に擦り付けられ……。


「メイビ汚〜い」

「メイビサイアク〜」


最悪と思うなら手を離せ双子。


「俺の存在にちゃんと気づいてくれるなんてギルバード様以来だよぉぉぉぉぉぉっ!!」


視線を泳がせリストに助けを……駄目だ。まだキングシャドーシャークを頬張り陶酔している。

ギルバード……リストとは違う上品な所作だがもう数キロ分の肉を食べているんじゃないかというギルバードと目が合うとニコッと微笑まれ、俺も微笑み返す。


……違う、そうじゃない。助けてください!!


どこが「気の良い連中だ」誰も助けてくれねぇぇぇぇぇっ!!!!!!

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