第17話 腹黒癒し系
拠点の敷地入り口の門をくぐる前から肉の焼ける匂いが辺りに充満していた。
「やってるなぁ。うん、腹が空いてくるな!!」
「さっき串焼き2本も追加してたのによく言えるな」
敷地の奥から昇るモクモクとした煙も見える。すぐにでもパーティーが始まりそうな気配……初めての街だったからか、島にいた時よりも何だか疲れた気がして…ちょっと休みたい。
「今日はメンバーも全員揃ってるらしいから後でみんなも紹介するよ。みんな気のいい奴らだから気負わなくていいよ」
そう言っているうちに向こうから一人の女性が歩いてくるのが見えた。
白い膝下丈のドレスに近いワンピースを身につけたブロンズ美女……うっ、眩しすぎる!!
「あらぁ?リストさんおかえりなさぁい。ギルさんが心配ないとは言ってたけど本当に生きていたんですねぇ。さすがのしぶとさですねぇ」
ちょっと間伸びした喋り方だけど、腹黒そうな気配も感じるが!?気のいい?本当か?
「あ、その子が新メンバーさんのカズキさんですねぇ?初めましてサーラです。回復魔法が得意なのぉだからいっぱい怪我してきてねぇ」
ぽわっとした笑顔なのに背中がゾクリとしたぞ。
その子扱いも気にならないぐらい恐怖を感じた。女性怖い。
「あ……カズキです。よろしくお願いします」
顔が引きつってないかだけが気がかりだが何とか挨拶を終えたのだが、サーラさんの真っ直ぐな視線が外されることがない。普通の人間からこんな視線を向けられたら失礼だと思うところだが、美人からの視線は気恥ずかしさしかない。
「あの……俺そんな変なとこあります?」
「んんん〜?ギルさんがねぇリストさんのお気に入りだからぁいじめちゃダメなんだって。どんな子かなぁって興味があったんだけど……いじめるならカズキさんをネタにリストさんいじめる方が楽しそぉ」
「はぁっ!?俺!?」
慌てるリストにサーラはニコッと笑顔でだけ返した。
聖女系ぽわぽわドS。クセしかないじゃん。
「サーラ、カズキ君が引いてるよ」
「引くとかギルさんひどぉい。挨拶してただけなのにぃ」
プクッと子供らしく頬を膨らませるサーラ、大変可愛らしいがその姿すら恐怖……だが、それ以上の天敵の登場に身が引き締まった。
「おかえり二人とも。登録は問題なくできたかな?家の用意も済んでるからカズキ君の家に案内しようかな?」
「あらぁ?ギルさん自らぁ?あらあらあら……」
意味ありげな目をサーラさんに向けられてリストはプイッと顔を背けた。もしかして俺にギルバードを取られたとか思ってる訳?なにそれ子供か。俺も生ぬるい目をリストに向けて置いた。
「カズキ君こっちだよ」
手を握られて引かれる。なんでわざわざ手?と思ったけれど自然に離そうという気も起きないくらい……握られた手の暖かさのせいか、やはりギルバードには何かしら力があるのか自分から握り返して後をついて歩く。
「フルジラールの街は初めてだったんだよね?楽しかった?」
「はい、とても食材が豊富だと思います」
「ドラゴンステーキの拠点のある街だからね。この周辺のどこよりも食の文化は進んでるよ」
ドラゴンステーキの影響力たるや……この世界の台所といったところか?
「装備は?買えた?」
「僕の装備より品質の良いものは置いてないらしくて……せっかく予算を用意してもらったのにすみません」
「気にしないで、さあここだよ。本部からは離れてるけど俺とリストの間、何かわからないことがあったらいつでも相談に来てね」
紹介されたのは小さめの平家、リストの家と比べると石よりも木材が多く使われている印象。
鍵を開けようとギルバードが繋いだ手を離そうとしたが……手が離せなかった。離したくなかった。
「カズキ君?」
ギルバードに疑問の声を向けられ慌てて手を離した。何を考えているんだ俺は。
「すみません、何か僕、ぼうっとしてたみたいで」
「良いんだよ。街の中は魔素が薄いからね。疲れたでしょ?歓迎会まで少し休んでいていいよ」
「ありがとうございます……あれ?でもそんなに疲れてないみたいです」
感じていた疲労感がすっかり抜けていた。サーラさんが気づかないうちに回復魔法でもかけてくれたのだろうか?
「そう?家の作りは一般的なものと一緒だから大丈夫だと思うけど……どうしようかな?もう歓迎会始める?みんなお腹が空きすぎてつまみ食いがつまみ食いの粋じゃなくなりそうなんだよね」
「はい」
ギルバードは広場の方を向いてクスクス笑った。
俺には何も見えないが、この人には何が見えているんだろうか。
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