第16話 知識は異世界漫画から

リストが注文した防具類は、リストの身体に合わせて微調整をする為、数日後に引き渡しらしい。そりゃあそうだ。誰にむけているわけ無いものがピッタリだ!!なんてそうそう無いよな。


「なぁリスト、ギルバードさんって強いんだよな?あんまり強そうには見えないっていうか、リストの方が冒険者って感じがするよな」


「強そうには見えないってお前がいうか?まぁギル様は強いぞ」


「ふーん……前に言ってた魔導具が強いってこと?どんな魔導具?」


追尾機能付きの弓とか、金属すら溶かす炎を纏う大剣とかそんなかな?もしかしたら……人の精神を、人を操る力のある魔導具とか……。


「さっき見ただろ?あの眼鏡だよ。人や魔物なんかに宿る魔力の質や流れを見ることができるらしい。その流れを読むと急所がわかるらしいんだが……俺たちには無理だった」


あの眼鏡が魔導具?気がつかなかった……というかそれどころではなくギルバードに気を取られていた。


しかし魔力の流れを読む眼鏡ってただのメンテナンス用の魔導具じゃないか。魔導具にちゃんと魔力が流れているかどうか確認する為のもの、それにそんな使い方があって、それを使いこなして世界で数人と呼ばれるまでの人物になるとは……。


ギルバード、やっぱり只者ではなさそうだ。


「そっか……人の心を操るとかじゃ無いのか……」


無意識に口に出てしまった言葉にリストの視線がこちらに向けられた。その顔はムカつくぐらいにニヤニヤと笑っている。


「……なに?」


「いやぁ〜ギル様の前では随分しおらしかったなぁと思って?」


む……自覚があるだけムカつく。


「お互い様だろ?リストだってペコペコしてたじゃん。真面目ぶった顔して別人かと思ったよ」


「俺はギル様を尊敬してるからな!」


臆面もなくドヤ顔で言いきったリストを置いて歩き出すが、すぐに足が止まった。


来た時はリストからはぐれないように気を向けてたから気が付かなかったが、噴水のある広場には幾つもの露店が並んでいて野菜や果物を売っていた。


これから自炊になるなら買っておきたい。肉と多少の果物は島を出る前に取ってたからあるにはあるけれど……種類は多い方が良い。


醤油とか味噌とか砂糖とか……あったら良いなぁ、無いだろうけど。


鑑定の力を借りつつ店先に並ぶ商品を見ていると、いくつか気になる物、ほしい物の目星をつける。今は無一文だけどこれから冒険者としてお金を貯めて……あても無い自由を満喫するつもりだったけど、こういうのも目標ができたみたいで楽しいな。自分で目標を決められるのがいい、上の人間から押し付けられたノルマとは違う。自分の為に自分の生活を良くしていく為の目標。


「気になるものがあったか?」


金貨の入った小袋を取り出そうとするリストの手を止める。


「自分の稼いだ金で買いたいんだよ。これから冒険者になるんだからな。目標があった方が楽しい」


「それはそうだな、それが一袋鉄貨3枚の豆でも」


賛同してくれているのか、呆れているのかわからないリストの言葉は無視してさらに野菜や種も眺めていく。


自慢じゃないが異世界転生系の小説や漫画を、バトル系ライフ系問わず読み漁っていたので、実は調味料とか料理の何となくの工程の知識だけならあったりするのだ。現実はそうじゃ無いとか知らん。俺には優秀な『鑑定』という味方もついているから、失敗しても毒を食らうことはないはずだ。


今もデンプンが豊富だとか油分が多いとか細かく俺の知っている言葉で教えてくれる。頼れる相棒だな。


「お待たせ、悪かった。つい夢中になって……」


一通り満足いくまで付き合ってくれたリストにお礼を言うと、どこの屋台で買ってきてたのか串焼きを一本渡された。

かなりの重さ、コールゲンの串焼きと名前が浮かぶが、何の肉だかさっぱりだ。


「ありがとう?」


「カズキの作ったのに比べたら美味くはないかもだけどな。ここいらでは一番人気のヤツだ」


この後、パーティーだと言ってたのに……と思ったが、初めての街で一般的に流通している肉、定番の物を紹介してくれたということだろうか?


リストに倣って一段目は噛みごたえのあるしっかりとした肉、少し野性味があるのが気になるが不味くはない。しっかり味付けすれば美味いだろうな。二段目にかぶりつくと想像以上に柔らかくプルンとした食感の肉だ。本当に同じコールゲンなのかと疑うほどの違い、部位でこんなに肉質が違うとか、生きている姿の想像ができない。

三段目は脂がこれでもかというほど乗っていて、四段目は逆にあっさりコリコリした砂肝の様な食感。


「コールゲンが人気な理由はこの二段目の頭部の肉、食べると肌が綺麗になるって女性に人気なんだ」


ここは頭なのか……ますます想像できん。


「美味いし食感は面白いけど、あと一味欲しいな」


「だよな!?俺も今まではこの串焼きが美味いと思ってたんだけどさ、カズキの串焼き食ってしまうとなぁ……物足りなく感じるわ」


屈託ない笑顔だけど、言外に催促が含まれてないか?

でもこうして褒められると悪い気はしない。


「俺の役に立てば、たまにはご馳走してやってもいい」


ここで喜んでいつでも食わせてやるなんて言って、また仕事を押し付けられるのは嫌だからな。俺はやりたい事をやりたい時にやりながら生きると決めたんだ。


「食材提供なら喜んで」


ここで金を払うではなく、食材提供とはさすが魔物肉グルメ追求ギルドのドラゴンステーキのメンバーだ。


「まぁ……俺が自分で料理して食いたいと思うような肉の提供を頑張ってくれ」


一本で結構お腹に溜まった。

リストはまだまだ足りないのか他の屋台に目を向けている。冒険者とはやはりイメージ通りみんな大食漢なのだろうか?


この後のパーティーはどうなることやら……。

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