第15話 高級装備も素材にしか見えない
受付嬢が意を決した一言。
「新しく出来たレストランの評判がとても良いんです!!良かったら今夜二人でっ!!」
顔を真っ赤に染めて必死さの伝わってくる顔……いいなぁ、かわいいなぁと思うのだが、その言葉を向けられた本人はなんの躊躇いもなくにこやかにバッサリとその覚悟を切り捨てた。
「悪いな、今日はカズキのお祝いを兼ねてギルドメンバーでキングシャドーシャークパーティーなんだ。シャドーシャークであの美味さだからきっとキングは……」
情けなく涎を垂らしそうにしているリストの腕を掴んで協会から引き摺り出した。チラリと振り返り伺った受付嬢の顔は傷ついたというよりも「ちっ、逃したか」と言わんばかりの表情だったので、あわよくば程度のお誘いだったのかもしれないと安心した。
俺だったら、女の子にあんな顔されてお誘いされたら舞い上がっちゃうけどな。リストにとっては日常なのかもしれない。俺もAランクになったら……。
「カズキ、そっちじゃない。装備を揃えにいくんだ」
腕を引いたまま拠点に戻ろうとしていたが、急に立ち止まったリストに逆に体を引っ張られる。
「そっちじゃないも何も、情けなく涎垂らして妄想世界に入り込んでたのはお前だろ」
みっともないツラを女の子たちに見させない様に配慮した俺にお礼を伝えるべきだ。
「ああ、悪い悪い。今日の夕飯が楽しみでさ。なんせ念願のキングシャドーシャークだからな」
キングシャドーシャークは一年に一度だけ繁殖のために深海から顔を出すレアモンスターらしい。シャドーシャークの群れの中に一頭だけ存在し、それがいつ現れるかは予測不能。唯一の予兆はシャドーシャークのメスの体の色が僅かに薄紅色がかるってだけらしい。その予兆も変化が現れてから数日のうちに繁殖は終わるので狙って出会うのはなかなか大変らしい。
興味のさしてないキングシャドーシャークへの熱意を聞いているうちに大きな店の前にたどり着いた。ここが目的の店だろう。装備を整えるって言ってたから防具屋とか鍛冶屋かな?
「いらっしゃいませ」
厳ついドワーフのおっさんを想像しながら店内に入ったが、懇切丁寧な接客。セバスチャンって感じの品の良いおじいさんに恭しく頭を下げられた。
「リスト様がご来店とは珍しいですね。ドラゴンステーキの皆様は装備を破壊されるなどそうそうありませんからね」
「さすがはキングシャドーシャークってところかな。壊れたというより失くしただな」
なんか強者そうな会話をしてる。なるほど、ドラゴンステーキのギルドメンバーは皆強い……と。確かメンバーは8人って言ってたっけ?ギルドメンバー人数の普通はわからないけど、リストは少ないと言っていた。少数精鋭なのか?
会話を交わす二人は放っておいて店内を見渡すと……。
おおお……王宮で支給されていたような高級そうな素材がふんだんに使われた防具屋や武器が並んでいる。
お、すごいじゃん。この『銀竜の鱗』とか兵士がすごい希少性を自慢してた気がする。ちゃんとミスリル製品とかもあるんだ。ミスリルで作った刃物は他とは全く違う切れ味なんだよな。ああ、この弓矢に使われているユカドリーって鳥の羽毛で布団とか作ったら気持ちよさそう……。
「カズキの得意武器は弓か?」
作りたい物を想像していると、いつの間にか背後にリストが近づいてきていた。
「いや?使った事もない」
「なんだそれ。必死に見てるから弓が欲しいのかと思った」
「この弓に使われているのはドリアンドの木材と雷帝馬の尾となっております」
誇らしげな店員さんの姿に高級なんだろうという事を感じ、この矢の羽に夢中でしたとは言いえなくなってしまった。
「装備はどういったのが欲しい?」
「え?俺?リストの装備じゃないの?俺はまだお金ないしいいよ」
買うつもりなんて全然なかった。そもそもいきなり冒険に出るつもりもなかった。
「ギル様から祝いで揃えてこいって言われたからな。そんな軽装じゃ危ないだろ?」
改めて自分の姿を見る。
ケープとシンプルなワンピース型の……チュニック?にズボンとブーツ。
一方のリストは重装備というわけではないが、胸当てや籠手など全体的に強度のありそうなとした革系だ。リスト達からしたら登山にサンダルで向かうような舐めた格好なのかもしれない。
「あまり重くても彼の体格では難しいかもしれませんね。今の装備とあまり変わらないようにこちらで見繕ってみましょうか?」
店員さんの申し出にリストが頷くと、店員さんは奥の金庫へ向かい何かを取り出した。虫眼鏡……魔導具だ。素材とか魔石の質なんかの詳細を確認するやつ、こういう店では必須のアイテムだよな。
虫眼鏡で俺の服を確認していく店員さんは、一通り確認し尽くすと虫眼鏡をカウンターに置いて頭を抱えてため息をついた。
「申し訳ありません、リスト様。こちらの装備を超えるものは当店では取り扱っておりません」
「は?」
店員さんの姿に、リストはポカンと口を開けた。
そうか、そんなに良い装備なのか。さすが王族が用意した物だ。
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店の端に用意されていたソファーで待つ様に言われて大人しく待っている。
どうやら俺に必要なものは何もないそうだ。
「もっと見てたかったな。面白い素材とかありそうなのに……」
こちらでお待ちくださいと、お菓子とお茶まで用意されては店内をうろうろするわけにいかず、出されたお菓子をつつきながらリストと店員さんの様子を眺めていた。
お菓子……やはり甘みが少なく甘酸っぱいクッキーみたいな物、ちょっと固め。
お菓子も食べたいなぁ。ケーキ的なのだけじゃなくスナック菓子、ポテトチップスとかなら俺にも作れそうな気がする。
王宮では料理なんてとてもさせて貰えなかったけど、ギルバードが用意してくれるという『家』がリストと同じレベルなら小さいながら台所がある。
人目も気にしなくていいし、休みの日は色々作ってみようかな。
あれ?あるよね?休日……。
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