第14話 客は俺ですが
「え……見習いではなく本登録ですか?」
先ほどまでの大きく輝いていた瞳が一転して驚きの瞳に変わってリストを見上げた。
目の前にいるのは冒険者協会の登録窓口のお姉さん。
リストに連れられて冒険者協会の中へ入った途端、そこにいた全ての女性職員の視線がリストへ向けられた。それはどれもとても好意的なものばかり……。
そうだよな。Sランクは数多いる冒険者の中でも数人しかいない規格外らしいので、現実的なトップ層冒険者とはAランクを指すのだろう。
俺の想像ではAランク冒険者ともなれば収入が良くて、強い。それに加えてリストの人畜無害そうな性格と人懐っこさ。そして……まぁ顔もいいんじゃないかな……改めてムカつくなと思い、軽くリストの脛を蹴っておいた。
「あの……カズキさん?そういうの俺以外に簡単にやっちゃダメだぞ?」
唇を歪ませてプルプルとした笑顔を貼り付けてリストは引き攣った声を出した。『弁慶の泣き所』はAランク冒険者様にも効くらしい。
「で?登録するにはどうしたら良い?」
「まずカウンターで話を聞こう……」
少し足をひきづりながら……大袈裟なやつめ。
リストが一つの窓口を目指して進むと小さいが「きゃあっ」と嬉しそうな黄色い声が上がる。くそ、アイドルかよ。どこの世界もこういうところは変わらないんだな。
「お久しぶりですリスト様!!本日はどういったご用でしょうか?」
嬉しそうにキラキラした瞳をリストへ向ける受付嬢と、悔しそうにこちらを睨むめが怖い。
「この子の冒険者登録をお願いしたいんだ」
誰がこの子だ。お前より年上だと話したのに、まあまあと言って子供扱いをやめる気配はない。
リストに背中を押され、ここで件の受付嬢はようやく俺に気がついたらしく、俺とリストの顔を交互に見比べた。
「え……見習いではなく本登録ですか?」
「ああ、推薦は『ドラゴンステーキ』で頼む……これがギル様からの推薦状だ」
いつの間に推薦状なんて……リストの一言で途端に職員だけでなくフロアにいた全ての人の視線がこちらに向いた気がした。気のせいだろうと思いたいが好奇の視線を背中に感じるので、怖くて周りを確認したくない。
「大丈夫ですか?Gランクといえど依頼となると危険も伴いますが……」
「暫くはドラゴンステーキのメンバーでサポートするつもりだ。依頼内容に直接手を貸すのは駄目でも付き添いは禁止されてないだろう」
協会内のざわつきに受付嬢には届かなかっただろうが、俺の耳にはリストが「ま……俺たちの方が足手まといになるだろうがな」と吐き捨てるように呟いたのが聞こえた。
「ドラゴンステーキのメンバーが総出で……この子は一体……」
「冒険者志望者への過度な詮索は無粋だよ」
「はっ!!はいっ!!すぐに手続きさせていただきます!!」
……けっ。
まるで漫画やゲームのアイドルのようなリストのウィンクに受付嬢は顔を真っ赤にして奥へ走っていった。ジト目でリストにガンを飛ばすも全く何もわかっていない。無意識アイドルか。天然タラシだ、こいつ。
「こちらが冒険者登録用、こちらがギルド加入契約の誓約書です」
慌てて戻ってきた受付嬢から紙を二枚渡されて、ざっと説明を受けた。内容はリストから前もって聞いていた通りの内容で、低ランクのうちは協会からの依頼を、所属ギルドから無茶ぶりされた時の相談の方法などが書かれていた。
なんと……身分証明書の提示など何もなく、誓約書には署名一つ!!自由すぎて心配だ。このシステム大丈夫かと他人事ながら不安になりつつ『カズキ』とだけ書いて提出した。頷く受付嬢。本当にそれで良いんだ。俺の名前はこの世界で珍しいらしいからともかく、姓が貴族以外にない世界で同じ名前の人なんて何人いると……。
「それでは冒険者登録料とギルド証明証の発行に合わせて金貨5枚になります」
「え……高っ……」
金銭の価値の詳しい認識はないけれど、こういう系の世界で金貨5枚はなかなかの価値ではなかろうか?思わず声に出てしまった。
ギルバードは恩をきせる風でもなくサラッとお祝いだと渡してきたから、実は『金』と言っても大した価値ではないのかも?
「冒険者の管理、入国料などいろいろ保障あるからね。誰でもどうぞじゃ管理しきれないだろ?」
そういうところで一応フルイにかけてるんだな。
『高い』という感覚は間違ってなかったか。
「そんなに高ければ誰でも夢を見られるわけじゃないんだな……」
冒険者といえば、一攫千金を夢見るものや、自分を強くしていく為など自由で夢ある職業だと思ってたからちょっと寂しいな。裕福な者しか夢も見られないとか……。
「だから、最初は『冒険者見習い』として冒険者の下について協会が斡旋するギルドの拠点内の雑用などをこなして稼ぐんだよ。リアルな冒険者の生活を見て理想だけでやっていける世界じゃないって事も知ってもらう意味もある」
多少、人の命や将来も考えられているんだな。
全て自己責任で生きている世界ではないんだ。
「カズキは俺たちギルドが全てを保証してるから大丈夫だよ」
「それって俺がやらかしたら……」
「俺たちの信頼が下がるってだけだ」
信頼。『ドラゴンステーキが推薦する』と言った時の周りの人たちが見せた反応が気になる。良い意味での注目か、悪い意味での注目か。
リストは自分達のギルドについて、貧乏ギルドで加入者が少ないと言っていたが……それはおいおい、街の人たちと顔馴染みになったら聞いてみよう。もし評判が最悪だったら脱退だって自由ってギルバードは言っていたしな。
「こちらがカズキ様の冒険者プレートになります」
俺の署名した紙を持ってどこかに消えていた受付嬢が戻ってくると小さな金属のプレートをカウンターの上に差し出した。その金属のプレートには俺の名前とギルド名が打刻されている。
「これからはこれがカズキの身分証になるから、失くすなよ?俺は腕輪に埋め込んで貰った」
誇らしげに見せてくれた細身の腕輪、気にしてなかったが確かに同じプレートが付いている。
「俺は鞄に入れとこ」
同じものを作るか?というリストの言葉は無視して受け取ったプレートをマジックバッグに……入れるふりをしてアイテムボックスへ収納した。ここなら絶対無くさないからな。あ……でもさっきはなんでアイテムボックスが使えなかったんだろう?
部屋にこもって魔導具を作り続けるだけではわからないことってたくさんあるんだな。少しづつこの世界の体や魔法の仕組みについて勉強し直さないと、下手したら意味もわからない死が待っている。
落ち着いたらギルバードにもう少し話を聞いてみよう、ちょっと躊躇っちゃうけど。
ギルバードの纏う空気の様なものはとても暖かくて居心地がいいのだが、ギルバード自身には絶対逆らってはいけないと言う脅迫概念に似た畏怖の念が湧いてくる。怖いというわけではないのだが、神聖というか絶対王者というか……とにかくなんか逆らえないし、身が縮こまる。
あんなに王子様みたいなのにドラゴンステーキって名前をつけたのはあの人なんだよな。リストの方がギルド長だと言われた方がしっくりくるのに。
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