第12話【リスト視点 1】

「リストかい?どうぞ」


ドラゴンステーキギルド長室をノックすると名乗る前から既に名を当てられる。

遠慮なく扉を開けるとソファーの上に寝転がったままで片手を上げるだけの軽い挨拶。


「おかえり、今回はなかなか早い帰還だったな」


俺の生死に興味がないのではない、それは俺が死んだということは全く頭にないからだ。俺を信じてくれているとかではなく、この人なら本当に俺の生死まで全てわかっていそうだ。


目の前に横になってくつろいでいる男はこの世界で数人しかいないSランク冒険者、我がドラゴンステーキのギルド長であるギルバード。


「うんうん、そんな怖い顔しなくてもキングシャドーシャークの肉は君の分もあるよ。メイビとサーラが仕留めてくれた肉がまだ保冷庫に残っている」


「それはありがとうございます。俺もそれが心残りで、死ぬに死に切れんと必死に戻ってきました」


クスクスと笑う様子はどこかの貴族の御曹司か王子様然としているが、どこかズレた受け答えは貴族様寄りかもしれないな。


「それより……随分面白いを見つけてきたみたいだね」


さすが、この敷地に入った時点でお見通し……いや、この街に入った時からすでに知られていたのかもな。


「そうですね。俺は船から転落した後、ラクドリアへと流れ着きました」


「ラクドリア!!それはすごい!!あそこへ流れ着いてこの日数で帰ってこれるなんて奇跡だよ!!」


世間では一度その島へ入ったら二度と出られないと言われているんだけどな、普通に帰ってくる気でいるよ、この人は。


「その奇跡を起こしたのが、その島であった『カズキ』と名乗る少年です。彼は幼いながらあのラクドリアで傷ひとつ……汚れひとつなく生活をしておりました。加えて魔導具をいくつか所持しているものと考えられます」


「ふーん……少年ねぇ。そんなに幾つも魔導具を持っているのは怪しいねぇ」


ギル様は立ち上がると窓辺に移動して……これは俺の家を見てるな。

確実にそこにカズキがいる事を確信している。家に入るところを見られていた気配はなかったんだけどな。


「はい、しかもその魔導具を簡単に盾一つで俺に譲ると……」


カズキから譲ってもらった魔導具をギル様の前へと差し出した。


ーーーーーー


俺は漂流してから、ここまでの事を包み隠さず全てを報告した。彼が隠そうとしている彼の特異性も含め。


「今は俺の家で休ませていますが、どうにも謎が多くて……けして悪い人間とは思えないのですが、本人は隠しているつもりでも身体能力が高すぎます。あの荒波で振り落とされないのもそうですが、上陸してからこの街まで、俺の全力に涼しい顔をしてついてきてたんですよ」


「リストの全力に……それはすごいな」


普通の人間なら目の色を変えて速攻彼の秘密を暴こうとするだろうに……ギル様はそこに対してはあまり興味を持っていない様子だった。


「解体も完璧。料理の腕と知識、ぜひ仲間に誘いたいのですが如何せん表情が乏しすぎて心の内が全く読めないんです」


「だから俺に判断してくれって?安心していいよ。ではないと思うな」


ギル様の言葉にホッと息をはいた。

彼は自分を商人の息子だというが、それにしては商いに対する知識もこの世界の常識について疎すぎる。あの容姿で俺より年上だと言い張るしな。子供扱いするなと拗ねたようにそっぽ仰向く姿を思い出して思わずにやけてしまう。


「嬉しそうだね。そんなに気に入ったんだ?」


「ギル様も会えばきっとわかりますよ」


無表情ながら、なんとなく伝わってくる喜びや怒りや焦りは正直可愛かった。料理の腕や、その能力や、持ち物全てが魅力的ではあるが……それ故に何か落とし穴があるのではないかとギル様へ相談をしにきた。


「そうだね……とても面白ろそうだ。少し彼に挨拶をしてきても良いかな?」


「どうでしょう……人見知りな雰囲気もあったので……」


人と関わるの面倒そうにしながらも、人を放っておけない優しさ、危なさも感じる……が、ギル様なら悪い様にはしないだろうし、人の懐にさらりと入り込めそうなので問題はないだろう。


「たぶんいま彼はそれどころでは無いだろうから大丈夫だよ。それより……リストと出会って数日、彼はずっと一人だった?誰かと接触している気配は?」


「それは無かったと思います。他に人の気配はありませんでした」


「そうか……ならどうしようかな。こういう事は初めてだ。ああ、リストは少しここで待っていてくれ。悪い様にはしないから安心して」


ギル様は考え込む様な素振りを見せて魔石を幾つか持ち出し部屋を出て行った。


「何なんだ?」


一人残された部屋で考えてみてもギル様の考えは微塵も読めなかった。だが、ギル様が悪い様にしないと言えば悪い様にはならないだろう。あの方ならきっと彼を仲間に引き入れてくれる。頑なに本心を見せようとしない彼の心を開いてくれる。


そんな確信めいたものを感じつつ窓からギル様の背中を見送った。

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