第10話 お気楽な遭難です

何故魔法が使える事を黙っていたのか、魔石はどうしたのかなど、捲し立てる様に降り注ぐリストの質問を、のらりくらりととぼけながら躱していく。


「そんな事より、ドラゴンステーキの事……冒険者の事とか教えてよ。今まで冒険者と関わった事がなくて決まりとかそういうの全然知らないんだ。リストは?強いの?」


「強い……かわからないけど、一応Aランク……ランクはわかる?」


「なんとなく……上?一番上のランクはやっぱりSランク?」


リストは誇らしそうに頷いた。その辺は異世界物の常識が通用しそうだな。


「その数少ないSランクが我がギルドのマスターだ!!凄いだろ?本当に凄い人なんだよ!!なんでギルド加入者が少ないか意味わかんねぇ。拠点だってフルジラールの一等地にあるってのに!!」


少ないんだ。

ギルドといえば冒険者ギルドって一纏めかと思ったけど、冒険者達が集まってギルドを結成し、冒険者協会に登録をするパターンらしい。


ギルドによって、力を入れている事に特色があるらしく、ドラゴンステーキが得意とするのは食材集めらしいが……なかなかに貧乏をしているらしい。

やはり魔石や宝石、珍しい素材の方が金になるとの事。


実績を積めば依頼主から指名で依頼を貰えるらしいが、依頼そっちのけで自分達が食べたい物を狩りに行き、その時手に入れた素材を売って細々と活動しているそうな。それが貧乏している一番の理由だと思うけどな……。


楽しそうにギルド内で起きた事を話すリストを見る限り、本人達は楽しそうではあるが……いいなぁ。前世での会社の事も、王宮で魔導具作りをしていた間事も、こんなに楽しそうに話せる事が俺には何もないや。


「もしカズキが冒険者として登録をしてくれたら、まずはGランクから始めてもらうことになるな。一人前と呼ばれるにはDランクからだ。G、F、Eの間は冒険者協会の方で受注しているEランクまでの依頼しか受けられないがDランクになれば各ギルドに任される事になる」


「登録した瞬間から完全自由ってわけじゃないんだな」


「冒険者協会だって未来ある新人の命を無碍に捨てさせるわけにはいかないからな」


波が穏やかになったので、舵は完全にリスト任せて寝転がって空を見上げている。こっそり回復魔法で楽にはなっているのだが、これ以上魔法が使えることを見せるのは面倒だった。


冒険者は全て自己責任でもっと自由かと思っていたが、研修期間などしっかり決められているようだ。ちゃんと育ててしっかり働いてくれた方が冒険者協会にとって良いに決まってるよな。初心者にいきなり無茶をさせるギルドがないようにとの配慮だろう。

Dランクになってからどんなギルドに所属するか、どんな仕事を請け負うか『自己責任』になる。そこからが俺の想像する冒険者の姿だな。


「GランクからだけどカズキならすぐにBランクまでは上がれると思うぞ?魔導具持ちでAランクより下のやつは見た事ないからな。俺は持ってないけどギルド長は持ってるぞ?昔あのオダルカナのダンジョンで手に入れたらしい」


ふ〜ん……『あの』って言われても知らんけどな。


魔導具を持ってるだけでAランクなら御貴族様はみんなAランクじゃないか。貴族はそんな命を懸けるような事はしないか。庶民や冒険者の間ではやはり魔導具はとても貴重らしい、ダンジョンから手に入れてもすぐに貴族に没収とかって感じか?


「俺の持ってる魔導具は戦闘向けじゃないよ。それにリストももう魔導具持ちじゃん」


「マジックバッグはかなり有能だぞ?持ち運べる素材の量は全然違うし食料問題だって悩む必要なし。俺もこれからは飲み水に悩む必要がなくなりSランク目指せるかもな」


照れくさそうにリストが笑う。結局あの水筒はリストに譲り、リストの盾は俺のマジックバッグに入っている。鍋を作る機会は無くなったのだが……俺の護衛をするってことで取引終了だ。


「戦闘力なくても雑用で役に立つってことか……」


冒険者になっても馬車馬確定か?冒険者チームの雑用といえば『無能』と馬鹿にされるか強い魔物にあった時の囮役しか想像できん。

まあ、俺は雑用と呼ばれようと囮にされようと戦えないことはないんだがな。


「それは捉え方だろ?雑用ではなく俺たちがカズキの依頼の護衛をするって形になるんじゃないかな」


「リストが俺の護衛?」


「美味い飯を食わせてくれるやつはそれだけで偉大だ。どんな事があっても全力で守ると誓うよ」


「美味い飯って……ただ焼いただけの肉だよ」


あれだけの飯でそこまで絶大な信用を寄せられるとこそばゆい。

貴重と呼ばれる魔導具より飯かよ。


「焼いただけの肉があの味なんだ。ちゃんとした場所で素材が整った状況でカズキが作る飯が楽しみだな」


目的もなく自分が何をしたいのか明確なものなんてない今は……。

リストのため、こんなリストが所属しているギルドのためなら少しぐらい一緒に冒険してみても良いかなって思えた。


「なぁリスト……迷いなく漕いでるけど、方角はこっちであってるのか?」


「さあな!!冒険者のカンだ!!」


俺の命は冒険者のカンに預けられてるのか、とんでもない護衛もいたもんだ。

後方を見張るフリをしてリストに背を向けてMAPを開いた。

拠点はフルジラールと言っていたか?

『目的地、フルジラール』と願うとフルジラールへの向かう道筋が示された。


マジかよ……冒険者のカン、馬鹿にできねぇ。

リストのとる舵はほぼ外れることなく、そちらに向かっている。


「俺が船から落ちた後、誰かしらがキングシャドーシャークにとどめを刺してると思うからな!!早く帰らなきゃ俺の分が無くなっちまう!!」


帰巣本能よりも食への異様なまでの執着のなせる業だった。


「今はこんなものしかないけど、街へ辿り着けたらいっぱいご馳走してやるよ。気張って漕げよ」


リストの大口に昨日作った燻製干し肉を放り込んでやった。焼かずに固いままだがリストの顎なら全く問題ないはずだ。


「それは楽しみだ!!」


「魔石にまだ少し魔力が残ってるから、へばったらまた魔法で助けてやるよ……拠点まで頑張ってくれよ?


ギルド長とやらにまだ会っていないけど、冒険者登録も、加入申請も許可ももらえてないけれどな。

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