第7話 認識の相違

筏が出来上がったとしてもその時には日は落ちているだろう。まさか夜の海に漕ぎ出そうとか馬鹿なことは言い出さないだろうから、今日はこのまま野宿となるはず、だとしたら暗くなる前に食事の準備をしなければ……。


魔導具の使用は控えると決めても、一通りの生活に必要レベルの魔法は使えるから魚を焚き火で焼くとかそのレベルなら問題なしだ。


その辺に落ちていた木の枝や枯れ草を集めて焚き火の準備を始めたが、まず食材を用意していなかった事を思い出し、夢中で筏作りをするリストに一言声を掛けた。


「周りに強い魔物の気配はないが……あまり遠くへは行かないようにね」


ニコッと笑いかけられた笑顔には、なぜか子供に言い聞かせるような雰囲気を感じる。どう考えてもリストの方が年下だぞ?あれか?身長だけで物事を測るタイプか?


いささかの不満を感じながらリストの姿が見えなくなるまで離れると森を睨んだ。


「魔物か……」


海で魚を捕まえるのもいいが、やはり新しく始める異世界生活への第一歩。魔物肉うめぇ!!で景気良くスタートさせたいところだ。


王宮にいた時も魔物の肉は食べてきた……が、如何せん調味料豊な地球から来た者にはどれも薄味で美味しいとは感じていなかった。グルメを自称するわけではないし料理なんて手の込んだものを作ったことないけどもう少し好みの味付けに近づけたいもの。


「魔物なぁ……」


リストは近くに強い魔物の気配はないと言っていたか。

俺にもその気配とやらは読めるだろうか?


食べられる魔物がいい、小さく狩りやすい魔物。お馴染みゴブリンとかは食べる気が起きないし、スライムは肉感を期待できない。そうだな……なんとかボアとかなんとかラージみたいに、猪や兎っぽいやつ。


気配を探るなんてどうやるのかわからないので、ずっとうんうんと唸っているだけで数分過ぎた頃に、ふと頭の中にわずかな違和感を覚えた。


「なんだ?今……」


その違和感がなんなのか考えていると、ピンッと何かが弾けるような感覚がしてこの森の奥……いる。


うまく言えないが、何があるのかはわからないいけれど、何かがいるようながする。そしてその感覚に向けると次々と同じような感覚が他方向へ増えていく。


「おお……もしかしてこれが『気配察知』とか『索敵』とかそういうの?慣れてきたら周囲のこと簡単に探れるじゃん。ナビあるなら楽勝だな」


そう口にした途端、左手から浮かび上がるように小さなMAPが現れた。


「え?何これ……地図?」


なんで地図?考えられることは『気配察知』か『索敵』の言葉に反応したというところだろうか。


「『気配察知』」


特に何も起こらない。


「『索敵』」


こちらも何も起きなかった。

もしかして『ナビ』か?そう考えただけで左手の上に浮いていたMAPはスッと消えた。あ、『ナビ』なのね。そして言葉にするかどうかは関係なく、念じるかどうかで良いらしい。何度も『ナビ』を開く、閉じるを繰り返し試した。


【鑑定】も特に言葉にせずとも『知りたい』と思えば知りたい情報が見られるとわかりちょっと安心した。魔法使う度に口にするのって、やっぱりちょっと抵抗あったんだよね。あの感覚も『気配察知』あたりが自動で発動したのだろう。


MAPに表示されている白く光る扇型のマークがおそらく俺。

そしてきっと赤く点滅する丸が魔物だろう、違和感を感じる方向とも合っている。


------


「すごいじゃないか、カズキ!!この解体技術はすぐにでも職に就けるレベルだぞ!!血抜きも完璧だ」


「……商人として魔物の体のどこにどんな素材があるかを知っておくべきで……解体の一通りは教養として……」


俺が解体した角兎の肉をキラキラとした目で手に取って眺めるリストには俺のしどろもどろの言い訳は聞こえていないみたいだ。そう手放しに褒められるとちょっと罪悪感。


はい、お褒めいただいた解体は俺がやったものではなく魔導具のおかげです。


即席の解体魔導具『解体くん1号』は、側から見たら両手で抱えられるぐらいのお手軽サイズのただの木箱だが、そこに入れるだけで皮や素材と、食肉に分けてくれる簡単な魔導具。


作り方はとっても簡単、材料も木材と石。安上がりだ。

木で作った箱にいくつかの石に浄化、風、火、鑑定の魔力を込めた魔石を組み込むだけ。鑑定を魔石にできるのかは冒険だったけど想像通りの働きをしてくれた。


箱に獲物を入れますと、まずは浄化の魔石が汚れや寄生虫や血抜きまでをしてくれます。

そして鑑定の魔石が鑑定してくれた、一定の価値ある素材と食べても平気な部分を風魔法で切り分けて、最後に不必要な部分は火の魔石が燃やしてくれるという優れ物となっております。


そうして切り分けた肉と毛皮とを、できるだけ機能を抑えて作ったマジックバッグに詰め込んだ。容量は四畳半ぐらいで時間経過停止もなし、ちょっと容量が大きいだけのバッグだ、これぐらいなら見られたとしても驚かれられないだろう。


「あの、そろそろ焼くので返してもらっても良いですか?」


「あ、ああ……ごめん。つい興奮してしまった」


まな板の上に戻された角兎の肉を、角兎の角から作った包丁でちょうど良い大きさに切り分けていく。もちろんこの包丁も普通に見えて、歯が欠けたりしても修復の魔石で自己修正する魔導具。魔導具しか作れないので何かしら機能をつけなければいけないから、どんな機能をつけたらいいか迷った末に、に対する『回復』の他に、に対する『修復』の魔法があることに気づけたのだが。


さてさて【鑑定】で見つけたジミバールという木の実。

これを乾燥させて砕くと胡椒のように使えると【鑑定】が教えてくれたので、先ほどの塩と一緒に肉へ擦り込んで、その辺で拾って浄化しておいた木の枝に刺して焼けば……うわっ!?リストが涙と鼻水と涎を同時に流すよくわからん顔でこっちを凝視している。何?また何かおかしかったか?


「な……なに?」


「そ……それは、もしやマジックバッグ?料理に慣れた手つき、そして惜しげもなく塩と、この香りは……貴重な香辛料まで……」


こっちは細心の注意を払ったのに、気になるとこ多過ぎだろ!!細かいとこ気にしすぎる男はモテないんだぞ!!

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