第6話 魔導具の認識

俺が姫様や王宮に出入りしている貴族や兵士たちから聞いた話では『魔導具』はダンジョンの宝箱から稀に入手できるレアな物。それだけの認識で、コピーするために俺の目の前にはさまざまな魔導具が持ち込まれていたからレアとはいえ結構流通している物だと思っていた。

特に生活を楽にするための魔導具は精神病むほど複製させられていたので王国の全家庭に整備されているもんだと思っていたけれど……想像していたよりも人口多かったのかもしれないな。


もしくはここは国自体が違うのかもしれない。

王宮から逃げ出したであろう事を省みると「国を離れた」は当然の結果。


「ただ水が出るだけの魔導具ですよ?」


鋼鉄の体を持つ魔物を焼き切る大剣でも、反対方向へ撃っても必ず標的に当たる弓矢でもない。ただ水が出る、それだけだ。


「だけって!!【魔導具】ってだけで一生遊んで暮らせますよ!!」


庶民の暮らしどんだけ貧困な世界なんだ。

魔導具はダンジョンから冒険者が持ち帰ると聞いていたが……この男はきっとイケメンでもダンジョン攻略出来ない程度の冒険者として才能がないやつなんだな。浜に打ち上げられてたくらいだし……。


イケメンむかつく!!と思っていたがとても憐れに思えてきた。ギルド名も変だしな。


しかし庶民の間で魔導具が流通していないなら、これからは控えるべきだな。目立って王宮に勘づかれでもしたら面倒だ。そうじゃなくても他の奴らに利用される未来が見える……俺の悠々自適なスローライフの夢がまた遠のいてしまうじゃないか。


ここは男に話を合わせるべきだ。今さら魔導具を引っ込めても無意味なので男の要求に乗るしかない……。


「でも俺いまは革製品はいらないんだよな」


男の着ていた防具は金属ではなく硬そうな何かの皮。俺がいま必要としているのは金属か寝袋用に柔らかい毛皮か羽毛だ。そうなると男の持ち物で欲しいものは『剣』。しかしステータスを見るに男には魔法使いではなく剣士だ。その剣を奪ってしまってはこの男が無事に拠点まで帰れる保証がないじゃないか。後味悪すぎる。


「あなたの街へ連れて行ってもらえませんか?冒険者協会でギルドメンバーと連絡が取れれば直ぐにでも望みの物を用意します!!」


「街……あるのかな?」


ここで目覚めたばかりで街の所在地など知るはずがない。そもそもこの付近に人は住んでいるのか?さっき見渡した限りでは街っぽいものは見えなかった。


「行商人……あなたも冒険者ですか?こんな小さいのに一人で……失礼ですがここは?」


漂流してきたならここがどこかなんてわからないよね。さっきリストを鑑定した時にこの場所の地名らしきものが出てたんだよね。


「えっと……ラクドリア?」


思い出しながら答えると、男の顔がサッと曇った。


「ラ……ラクドリア!?よりにもよってまさか……こんなところにこんな少年が一人?ああ、そうか、だから魔導具……」


ラクドリアという言葉を出しただけで男は一人で慌て始めなんか勝手に納得してる。しかしここで「ラクドリア」がなんなのか聞くのは非常に怪しすぎる。


「あ、俺も昨日ここに流れ着いたばかりで……ちょっと前後の記憶はあやふやなんですけど……」


何か聞かれても全て嘘で塗り固めて早く盾を手に入れおさらばしようと思いつくままに言葉にして男に自己紹介を試みた。


------


正義感強いやつウゼェェェェ……。


うんざりしながらも、使命感に燃え上がるリストより承った蔓草集めをしている素直な俺。当のリストは男らしい掛け声と共に剣で木を切り倒してくれている。


俺がついた嘘。

『実家の商船に乗って商いに向かう途中に難破し気がつくとラクドリアに打ち上げられていた』だ。

魔導具はその時の積荷の一つで、魔物が怖いので飲み水よりも盾が欲しかったという簡単な設定だ。穴だらけですぐにバレるかと思ったのに、リストときたら燃えるような瞳で『必ず二人でラクドリアから抜け出そう!!』と宣言してくれた。


リスト曰く、ラクドリアは島へ向かう潮の流れが激しく一度島へ入ってしまったら二度と出れないと言われるほど危険な場所らしい。誰だってこんな何もない島に行ったきりになりたくはないよな。


ほとんど攻略されてない島のダンジョンなら魔導具が残っていても不思議ではないとリストに教えてもらった。冒険者の活動の無い地だから魔物は増える一方で危険地帯となっているのだとか……。


島から脱出するために必死に木を切り倒し続ける男。

熱い、熱いねぇ……冷めた目でその姿を見守りながら、少し……少しだけ胸がぽわっと暖かかった。


俺が集めた蔓草を束ねて編んで器用に筏を組み立ていく男の姿に『俺なら一瞬で自走式ボートが作れる』などと承認欲求を前面に出すことなく、俺は男の為に食事を作ることを申し出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る