第3話 環境に恵まれていただけのチート
外へ出られた興奮のまま駆け出していたら真っ逆さまだったな。洞窟の出口から崖までは2〜3m程度しかない。
この崖を降りるにはエレベーターの様な魔導具を作ってしまえばいいかと思ったが、材料がないな。
魔力の素はそこら中に溢れているからわざわざ魔石を用意しなくてもそこらの石を魔石に変える力はある。試しに足元に落ちていた石を、記憶を頼りに風属性の魔石に変えてみるのは簡単に成功した。
問題は『素材』だ。
金属が望ましいけれど、木材でも良い。
ただ、ここはそそり立つ岩壁のど真ん中。
崖の上と崖の下には充分すぎる木が密集しているので撮りにいけばやりたい放題だが、その木を採りに行くためにエレベーターが必要で……鶏が先か卵が先か?
俺が伝説の魔導具師などと持て囃されていたのもあの場所に最高峰の素材が全て揃っていたからなんだなと教えられた。
石でも作れないことはなさそうだけど……なんか違うような気がするんだよなぁ。
どうしたものかと崖の上から真下の森を眺めていたが、違和感を覚えるのだ。
うまく言えないけれど、なんで躊躇っているのか?なぜわざわざ魔導具に頼ろうとするのか?という疑問が湧いてくる。
『普通に飛び降りれば良いじゃないか』
到底普通の人間が飛び降りて無事で済む高さではない。ないのになぜか頭の中では飛び降りるルートが普通の事だと考えている。
王宮で魔導具沼にはまっていた時の記憶しかないけど……
人並外れた身体能力と全属性最高レベルの攻撃系魔法を使う【勇者】
人並外れた身体能力と全属性最高レベルの回復・補助系魔法を使う【聖女】
俺は?巻き込まれ、オマケと思っていたが、この世界で唯一の魔導具制作スキルを持っていた。中級レベルだが全属性の攻撃・回復・補助系魔法を使える俺……俺だって勇者と聖女のように、人よりちょっと上の身体能力を持っていてもおかしくはないのだ。
王宮の過重労働から逃げ出せなかったのは能力の問題ではなく、俺の性格のせいなだけだったからな。
恐怖はない、疑問もない。
頭の中には何もない。それはとても自然なことで、道があるから道の上を歩く、階段があるから昇り降りする、段差があるからそれを超える……それはとても当たり前のこと。
そう考えた次の瞬間には俺の体は崖を飛び降りていた。
普通に着地。
骨を折るとかそんなことは当然なく、ジンジン痺れたような衝撃すら来ることもない。あの高さから飛び降りて無事だとか、やっぱり俺にも異世界特典あるんだとあらためて感動している。初めて認識した日もこうやって感動したであろうことを二度も感動できるとはお得だ。
頭で考える前に体が動く、これが『体が覚えてる』という感覚なのだろうか……木を集めないとと考えた次の瞬間には蹴りひとつで側にあった木を切り倒していた。
ーーーーーー
岩も拳で打ち砕く、とんでもない身体能力だった。木の枝と石で斧の魔導具とか、ツルハシ作ったりとかは必要ないみたいだ……魔導具制作なんてスキル持っているけど、俺自身が普通の生活する上では、実は対して役に立たないスキルだった可能性が出てきたぞ。
武器なんて無くても、もしかしたらこの体1つで魔物と戦えてしまうのでは無かろうか?結局倒した木も砕いた岩も……空間魔法でしまえてしまったしな。
死ぬ程作らされていたアイテム収納の魔導具も俺には必要なかったのだ。この世界の人々に貢献する為だけの能力って訳だな。
伸びを一つしてから、海を目指して歩き始めた。目的なんてない、そこに海が見えたから行ってみる、それだけだ。
それだけの事なのに胸の中は少しワクワクしていた。魔物の強さは知らないけれど無茶をしなければ死ぬ事は無いだろうという安心感。なんでもやれる能力があるという自信……そして、何処へ行くのも何をするのも気の向くままなんだという解放感に足どりはいつしか軽くなっていた。
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