第2話 二度目の目覚めは暗い洞窟の中で

ふむ……いま頭に浮かんだ記憶が俺の記憶というわけか。


真っ暗な中で目を閉じ、なんとか記憶の整理を終えた。


俺の名前は『カズキ』で異世界から転生してきた『魔導具師』らしい。

というのは、記憶が曖昧で頭にまだ靄がかかっている様な状態だからだ。


俺はたった今この暗い洞窟の中で目覚めたばかりで、自分の置かれている状況が全く理解できていない。王宮にいたのではなかったのか?連日連夜作り続けていた魔導具は?


記憶の中にあったものは何も存在しない薄暗い洞窟。洞窟というか洞穴?ところどころ壁が崩れ落ちている崩壊の危険も感じられるそんな場所で、何故俺は一人で寝ていたのか?


記憶をどれだけ辿ってもそこは思い出せず、ただ唯一の手掛かりとなるかもしれない物は目覚めた時に手に握られていたペンダント一つだけだった。


チェーンの先には小さな小さなランタンの様な物の中には仄かにオレンジがかった赤い光が灯されているが、実際に火が燃えている訳ではないようで触れてみても熱は帯びていない。


「えっと……こういう時は……【鑑定】」


記憶に沿って、人や物の詳細を知ることができる魔法でペンダントを確認してみると【魔力灯SS】という名が説明と共に浮かび上がってくる。


どうやらこれは魔力灯という魔導具で、術者の魔力を登録しておくと待機中や魔物から発せられる魔力素を吸収して術者の魔力へと変換して保管しておいてくれという代物だ……ああ、そうだ魔力切れを起こした時のためのモバイルバッテリーの役割をしてくれる……うっすらと記憶が呼び起こされていく。


魔力とは人それぞれ指紋のように異なっておりかなり繊細なものであり、魔力回復のポーションはどんな魔力の者にでも使用できる代わりに回復量は少ないし回復するまでの時間もかかる。


その点でこの魔力灯は、あらかじめ本人の魔力へと変換させているからすぐに体に馴染むし、チャージしておける魔力量もポーションの比ではない。


ここからもっと今の状況を思い出すきっかけにならないかと、ずっとその光を見ていると頭の中をスッと言葉が流れていった。


【い……かい?この魔力灯だけは絶対に……必ず肌身離さずずっと持っているんだ?そうしないと……んでしまうからね】


これは先ほど記憶を追っていく途中でも脳裏を掠めた言葉だ。

……絶対……肌身離さず……誰の言葉だったかは思い出せないけれどこの言葉だけは絶対守らなければいけないと、頭の隅で誰かが訴えかけてくる。


記憶の中でこのペンダントに関する明瞭な物はなかった。


王国が召喚した勇者を意のままに操るための魔導具の可能性もあるが、もしかしたら異世界転生する際に出会っていたかもしれない神様の言葉なのかもしれない。だとしたらこのペンダントは無くすわけにはいかなくなる。


少しペンダントを首にかけ、無くさないように服の中へとしまい込むと、魔力灯があたる辺り、心臓の辺りがぽわっと温かくなってそこからじわじわと身体中に温もりが広がっていく感覚が心地いい。生命力が漲って行く様な感覚……。


記憶の中に『神』に関する物はないもののそれが一番しっくりくる気がした。


------


なぜ王宮ではなく、こんな場所に居たのか。純情を逆手にとられ、もはや軟禁状態だった俺はどうやってあそこから抜け出してきたのか……考えなければいけない事はたくさんあるけれど考えていても先に進まないので、とりあえず洞窟から外に出てみようと立ち上がった。


幸い大きな洞窟ではない様で少し曲がった先に出口であろう光が差し込んで見えている、この距離なら魔物もさすがに出てこないだろうし……魔物が闊歩するダンジョンであったならとうに食べられていただろう。


ここがどこなのかは不明。王宮から一歩も出してもらえなかったので魔物と戦った事はないが……きっと魔導具さえ作れれば一人でもやっていける気がするんだ。


お約束のように自分のステータスを確認してみようと【鑑定】などを試してみたけれどエラーだがなんなんだか、全ての文字が文字化けした様になっていて自分のステータスを確認することはできなかった。


俺はきっと自分の人生を生きる為に王宮をなんとかして抜け出してきたに違いない。それならば、今はこんなところで悩んでないで……進むんだ、前へ!!


------


やはり大きな洞窟ではなかった様で数メートル進んだだけですぐに出口は姿を見せた。人が一人出入りできるぐらいの小さな穴は、少し土砂が崩れてきているが、出入りするのにさほどの問題なく光を目指して隙間から外へと這い出た。


暗闇にどれだけいたのだろうか、真っ白に包まれた世界に目を慣らしていくと徐々に目が世界に慣れていく。


崖の途中の洞窟だった様で眼下に広がる景色は、絶景と呼べる物だった。

三日月型の入江には白い砂浜、そしてどこまでも広がる海、海、海……。

ざっと見渡した範囲に街など人が生活をしている様子はない。


逃げ出してきたんだ……。


記憶はまだ戻ってこないけれど、俺はきっと自由を手に入れる為にあの王国から逃げ出してきたんだ。逃げ出せたんだ。


言われたら断れない自分を変えて、無能無能と言われ続けこの世界で必要とされた事で過酷ながらに歪に満たされていた自分を捨てて……。


魔導具作りに追われながら、時折耳に入る勇者と聖女の自由気ままな活躍譚ように……憧れのスローライフを手に入れるために……!!

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