異世界転生?伝説と呼ばれた魔導具師は『悠々自適』に憧れる

@noronoro_tanuki

第1話 定番すぎる巻き込まれ

『全く……こんな簡単な仕事もできないのか』


『残業なんてして頑張ってるアピールされても、それを上の人間に見られたら俺が苦情を言われるんだよな。時代が時代だからさぁ……わかるよな?』


自分のデスクだけ明かりをつけた残業中、近づいてきたは俺の机に手をついて見下ろしてきた。


「はい……すぐに帰宅の準備をします」


労働へ対する法律が良い方に働いているのか余計に首を絞めているのかわからない……上司の言いたいことは、終わらなかったものは家に自主的に持ち帰り無賃でやってこいということだ。


無論それだって訴えれば勝てると思うが……みんなできている、やりきれないのはお前の力の問題だと言われると何も言い返せなかった。


上司の冷たい視線から逃げる様に荷物を纏めて会社を飛び出す。

仕事帰りや遊びから帰る途中の会社員や学生達がまだ行き交っている時間。賑やかな喧騒の中を一人トボトボとうつむき加減に人の流れに流され歩く。


「はぁ……この仕事向いてないのかな……仕事、辞めたいな」


辞めたらいいと思うけど、無能、無能、無能と言い続けられ、次の仕事を見つけられるかという不安が二の足を踏ませていた。


「早く帰って仕事を……あっ!!」


信号待ちしていると背後から体を押された。視線を後ろに向けると話に夢中になっていた高校生のカップルが立っていて、その目には少し驚愕の色。


連日の睡眠不足で疲労困憊だった身体は、足は……よろよろと車道へ飛び出していた。

近づくヘッドライト、飛び出した俺に混乱して揺れる車体……そして激しいブレーキ音と共に衝撃が体を襲った。


騒がしいな……静かにしてくれ。俺はいま猛烈に眠いんだ。やっとゆっくり眠れるんだ。


瞳を閉じて真っ暗な世界の中で、怒鳴り声や悲鳴やらが響いている。どうなったんだろうか?


痛い……痛い……ああ……俺……死ぬのかな…………


------


『勇者様!!祈りにお応えくださりありがとうこざいます!!まさか聖女様まで!!』


そんな声で目覚めた俺。

俺が勇者?まさかの聖女?

そんなわけはなく、当然のように若い……俺にぶつかってきた高校生の男の子と女の子が俺の前にいて、これはあれだ。巻き込まれ転生。俺は無能と追放ね、はいはい……と思っていたのに……。


「どうして異世界転生してまで社畜してんの俺!!」


勇者様と聖女様は国王からたくさんの支援を受けて、魔王討伐の為にチート能力で楽勝ムーブで悠々自適な旅をしているらしいです。


俺は、というと……


魔導具を作り出せる能力が見つかり馬車馬の如く使われております。


この世界に存在する魔導具は、すべてダンジョンの宝箱からランダムで発見された物だけで……それが欲しい機能が欲しい時に手に入るとなっては、次から次へと依頼が舞い込んでくるわけですよ。魔力回復ポーション漬けにされて、朝から晩まで魔導具、魔導具、魔導具……。


美味しい異世界グルメは?美女とのチートな恋愛イベントは?そんな物は何処にも……いや、あった。


時折顔を見せる絶世の美少女のお姫様。


『カズキ様、カズキ様の能力は唯一無二……どうか私達を助けてください』


そんなお姫様にウルウルとした瞳で懇願されては……女性経験皆無……少なかった者としては『任せてください』と答えるしかできなくて……。


絶対、絶対……俺だってチート能力で悠々自適に暮らししてやるんだからなっ!!


そんな願望を胸に、俺は日々を魔導具制作に費やし生きるのであった。


◇◇◇◇◇◇


【い……かい?この……だけは……ったいに……よ?必ず肌身離さず……持って……だ?そうしないと……んでしまうからね】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る