第3話

 仁です。

 自己紹介は省略。

 だって、それくらいショックを受けたんだもん……。


「トキシックは、仁くんが好き……」

 思わず私は、口に出していた。

 大きなため息をついて、ベッドに寝転がる。

 ――仁くん……私は、ただ、仁くんと一緒にいたいだけなのに……。


 ――翌日。

 ごちゃごちゃ考えてばかりいるより、先に行動しよう!

 私は、今日、仁くんに告白することに決めた。

 早くしないと、トキシックが先に言っちゃうと思ったから。

「仁くん」

「何?」

「今日さ、学校終わったらそのまま体育館裏に来てくれないかな」

「ああ、いいよ」

 体育館裏は、私がずっと前から「告白するならここ!」と決めていた場所。

 誰も寄ってこないし、木が風に揺れる心地よい音が流れるだけの静かな場所。結構、ロマンチックじゃないかな。


 ――放課後。

 私は、急いで教室を出た。

 小走りで、体育館裏に向かう。

 一分ほど経って、仁くんがやってきた。

「どうしたの?」

「……私、仁くんに伝えたいことがあって……」

「伝えたいこと?」

「……」

 私は、息を吐く。

 そして、息を吸う。

 気持ちを、落ち着かせる。


 そして、言った。

「仁くんのことが好きです。付き合ってください」

 あまりにも直球すぎる気もしたが、悩みに悩んだ末、結局これになった。

「……え?」

 仁くんは、当然のことながら驚く。

「……ごめん、ぼく、藍さんのことが好きで……」

 ……そんなこと、ずっと前から知ってた。

 認めたくなかったけど、やっぱりそうだ。

 今さら本人の口からきいたって、どうってことない。

「そんなこと、知ってる。私は、そんな答えが欲しいんじゃない。藍さんは、仁くんのことを見てない。トキシックのことを見てるんだよ?そんな人を好きになるの?ねえ」

 気づいたら、そんなことを口にしていた。

 失敗だった。

 仁くんが傷ついてしまうのに……。


 結局、私は自分のことしか考えてないんだなって、そう、思った。


「……あ、ごめんなさい。本当に……」

「……いいよ、別に。あと、返事は……ちょっと、待ってほしい」

「うん、わかった」

 こういう時に、「だめ」ってすぐに言わないのは、彼の優しさなんだと思った。

 でも、無駄だよ。

 そんなこと言われたら、余計に期待しちゃうんだよ。


 ――夜。

 ベッドの上で、私はずっと涙を流していた。

 最初は、私の頬を流れている液体がなんなのか気づけなかったけど、何かの糸が切れたように、たくさん泣いた。

「ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 仁くんにあんなことを言ってしまった自分のことが嫌になった。

 まだ失恋したと決まったわけではないのに、すごくショックだった。


 泣いて、疲れて、私はそのまま寝た。


 ――翌日。

「前の、返事だけどさ」

 仁くんは、そう言った。

「うん」

 ドキドキはしない。昨日のうちに、すでに準備はした。


「いいよ」

 ……。

「へ?」

「えっと、だからさ、付き合おうっていう……こと」

 仁くんが言ってることはちゃんと聞いてるんだけど、頭が追い付かない。

 あんなに、ひどいこと言っちゃったのに?

 ずっと、断られると思ってたから逆にびっくりしちゃうよ……。

「ありがとう……でも」

「でも?」

「本当に、それで、いいの?」

  一言一言、かみしめるように言った。

「うん。いいよ。僕の、本当の気持ちに気づかせてくれたのは仁ちゃんだから。言ってくれなきゃ、ずっと、僕は藍さんのことが好きだった」

 そんな……。

「いいのに、無理して私のことを認めようとしなくても」

「無理なんてしてないよ。僕は、事実を言ってるだけ」

 ……私は、仁くんのそういうところが好きなんだろうな。

 自分ではそうは思ってないけど、知らず知らずのうちに周りの人を笑顔にさせる。

「……ありがとう」

「うん」


 次回に続く……

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