第二章 堕落による摩擦

第8話 怠惰と軋轢

 オルレア・ツァラトゥストラが非常勤講師として学院に着任して以降、彼の授業は日に日にその評判を落としていった。

 彼のやる気のなさは、生徒たちが感じている熱意や期待とはあまりにもかけ離れており、まるで異なる次元の存在が紛れ込んでいるかのようだ。

 魔法に対する情熱、神秘に対する探究心――この学院に関わる全ての人々が少なからず持ち合わせているであろうこうした感覚を、オルレアは一切共有していないように見えた。


 彼が担当する魔法生物学と魔法薬学は、どちらも実践的な内容と深い理論を要する難易度の高い学問だ。しかし、オルレアの授業はほとんど無計画かつ投げやりに進められ、時には彼自身がその授業内容をまともに把握していないかのように見えることさえあった。

 生徒たちが質問を投げかければ、オルレアは一応それに答える。しかし、その態度は常に気だるげで、どこか面倒くさそうだった。


 例えば、生徒が魔法薬の調合で適切な温度や時間について質問すると、彼は答えた。


「その場合、70度で10分加熱してから、冷やしながら材料を混ぜればいい――」


 一見すると的確な指導のようだが、言葉の最後に必ず付け加えられるのは、「……だと思うけど、まぁ、やってみればわかるんじゃない?」という投げやりな一言だった。


 生徒たちにとって、これが唯一の救いでもあり、同時に絶望の原因でもあった。

 彼は質問には答えるし、理論的な説明もできる。しかし、その後の態度があまりにも酷すぎるのだ。


 こうした態度は当然ながら周囲との軋轢を生み出す。

 特に、彼が担当するクラスのリーダー格であるセレスティアは、彼の怠慢な授業に強い不満を抱いていた。

 高貴な家柄に生まれ、学院での成績も常に優秀な彼女にとって、オルレアのような無責任で無気力な講師の存在は、学びの場そのものを冒涜する行為だ。


 セレスティアは、日々オルレアに小言をぶつけ、授業態度の改善を求め続けた。しかし、彼の態度が変わることはない。

 それどころか、彼の無気力さは日に日に増していくようにさえ思えた。

 彼の投げやりな授業に真剣さを求める生徒たちの熱意と、オルレアの飄々とした無関心との間には、決して埋まらない深い溝が横たわっていた。


 たとえば、彼は授業の最中にしばしば自分の椅子に深くもたれかかり、片手で教科書をめくりながら、もう片手で茶を飲む。

 さらにはティーポットと焼き菓子を持ち込み、授業中に堂々とそれを楽しむ姿まで見られるようになった。


 こうした態度は、生徒たちのやる気を削ぎ、クラス全体の雰囲気を重苦しいものにした。

 特に真面目に学ぶ意欲を持つ生徒たちにとって、オルレアの授業は苦痛以外の何物でもなかった。

 彼の姿勢がいかに生徒たちの心を折っているかを象徴するのは、彼の授業に臨む姿勢そのものだ。


「今日は教科書の72~78ページを読めば大体わかるだろう」と黒板に一言だけ書き、後は椅子に座って本を読み始めることもあった。


 その本が授業内容に関係ない哲学書や詩集であることに気づいた生徒たちは、もはや怒りを超えて呆然とするしかない。

 生徒たちが一番腹立たしく思ったのは、彼の態度が「仕事をしているふり」をしているように見える一方で、どこか誠実さの欠片すら感じさせないところだった。


 オルレアはあくまで「教える」ことを義務としてこなしているだけであり、それ以上の熱意や責任感は微塵も感じられない。

 彼が答える質問は的確であったとしても、それ以外の部分――授業全体の運営や生徒との接し方――があまりにも酷すぎるのだ。

 結果として、オルレアが担当するクラスは、教師と生徒の間に明確な溝が生まれ、授業の度にその溝は深まっていった。


 講師着任から8日が経った午後――最後の5限目。

 この日、オルレアは椅子にふんぞり返りながら、完全に自分の世界に没入していた。

 ページをめくる音がやけに耳障りに響き、生徒たちは一様に不満を募らせていたが、クラスの中でもひときわ真面目なセレスティアの表情には、限界に近い怒りの色が見え隠れしていた。


 彼女はずっと耐えてきた。クラスの代表として、生徒たちの声を届けようと努めてきた。しかし、この日、オルレアが何の前置きもなく読書に没頭し続ける様子を見た瞬間、彼女の堪忍袋の緒が切れた。


「いい加減にしてくださいッ!」


 その声は、教室中に響き渡り、他の生徒たちも驚いて顔を上げた。

 セレスティアは机を叩き、立ち上がった。

 その瞳は怒りに燃え、頬は怒りで赤く染まっていた。

 彼女の息遣いが荒いことから、どれほどの感情を抑え込んでいたかが一目で分かる。


 オルレアは、その声を聞きつつも、本から目を上げるのに少し時間がかかった。

 彼は、セレスティアの怒声に反応して顔を上げたものの、明らかに気だるげな態度を隠そうともしていない。

 その目には興味の色はなく、あくまで「何か騒がしい音がしたから仕方なく見た」というような淡々とした光が宿っているだけだ。


「どうした? ヒステリーか?」


「真剣に話しているときに、そのふざけた態度をやめてください!」


 セレスティアは毅然とした足取りでオルレアに詰め寄るが、彼は相変わらず椅子にもたれかかったままだ。


「そうカッカすんなよ。ヒスはモテないよ」


「誰が怒らせてると思っているんですか!?」


 オルレアはそれに応えるように、首を少しだけ傾け、腕を組んで考え込むポーズを取る。


「え? 誰が怒らせたのだろう。これは難しいな」


 その不遜な態度に、セレスティアの怒りは完全に頂点に達する。

 彼女の声は冷たさを増しながらも、凛とした響きを帯びていた。


「本当にいい加減にしてください。先生のお遊びに付き合いたくないんですよ」


 彼は彼女の言葉を意にも介さない様子で、椅子にさらに深くもたれかかり、面倒くさそうに肩をすくめる。

 しかし、次の瞬間、セレスティアはさらに踏み込んだ。


「こんなことは言いたくありませんが――」


 彼女は教卓に手をつき、オルレアを睨みつけながら言葉を続けた。


「私は魔術の名門、ルドルフォン家の娘です。私がお父様に進言すれば、あなたの進退を決することも可能だということをお忘れなく」


 その言葉に、教室内の生徒たちの間からざわめきが起きた。

 ルドルフォン家――それは帝国内でも高名な貴族家の一つであり、特に魔術の分野において絶大な権威を誇る家柄である。

 その名を出されたことは、多くの者にとって強烈な威圧感を与えるはずだった。

 だが、オルレアはまったく動じなかった。

 むしろ、彼はほんの少しだけ元気になった節さえある。


「え? 辞めさせてくれるの? 嬉しいなぁ」


 その無責任な返答に、セレスティアは一瞬言葉を失った。

 オルレアは、そんな彼女の反応を気にする様子もなく、続けた。


「俺も脅されて嫌々やってるんだよ。最低三ヶ月は続けろってさ。もし辞めたら、お小遣いを三分の一にするとか言われてさ。ただでさえ借金抱えてるのに、三分の一にされたらシャレにならないんだよな」


 彼はわざとらしく額に手を当て、ため息をついて見せた。


「君のお父さんが誰かは知らないけどさ、話をつけてくれるなら、こんなにありがたいことはない。辞めたら三分の一にすると言われたけど、辞めさせられた場合は、話が違うだろう?」


「――な!」


「こんな俺のために頑張ってくれるなんて、ありがたいよ。今日から足向けて寝れないな。お嬢ちゃん、名前は何て言うのかな? 憶えておくよ」


 オルレアの飄々とした態度に、セレスティアの顔は怒りで真っ赤に染まる。

 彼の言葉は軽薄でありながら、どこか本気とも冗談ともつかない曖昧さを帯びていた。しかし、その曖昧さがかえって苛立ちを煽っていた。


 彼女には、この男が本当に講師を辞めたくて言っているのか、それともルドルフォン家の力を侮っているだけなのか判別がつかなかった。

 だが、どちらであろうと、その態度そのものが、学院と学問に対する侮辱であることに変わりはない。


「――貴方という人は……もう我慢できません!」


 ついに、セレスティアの忍耐は限界を超えた。

 その声は教室中に響き渡り、他の生徒たちも息を呑んで彼女を見つめる。

 烈火のごとく燃え盛り、怒りと決意が交じり合った鋭い視線でオルレアを射抜いていた。

 学院という学びの場への敬意を踏みにじられたことへの怒りと、魔術という誇り高い学問を軽視されることへの深い憤慨が込められている。


 ルドルフォン家に生まれた彼女にとって、「魔術」と「誇り」は切り離せないものであり、学院で学ぶことは単なる義務ではなく、その家名を背負う責任だった。

 そして、目の前のオルレアという男――彼の態度は、学院に集う者たちが共有するこうした誇りを根本から否定するようなものだった。


 セレスティアにとって、その瞬間の決断は一切の迷いを伴わなかった。

 ルドルフォン家の名にかけて、この男を放置するわけにはいかない――彼女の誇り高い血がそう告げていた。

 その決断の速さには、彼女自身の若さと未熟さが影響していたのかもしれない。

 大人のような慎重さや計算が入り込む余地はなく、ただ純粋な怒りと正義感が彼女を突き動かしていた。


 彼女は左手を静かに上げ、嵌められた白い手袋を一度きゅっと握りしめると、迷いなくオルレアに向かって投げつけた。

 手袋はアーチを描いて宙を舞い、教卓の上へと落ちる。


 教室は静寂に包まれた。

 生徒たちは皆、その光景を息を呑んで見つめていた。

 学院の中で手袋を投げつけるという行為が持つ意味――それは誰もが理解していることだった。

 それは、相手に挑戦を申し込むという、古き貴族の儀式的な慣習の一つだったのだ。


 オルレアは、教卓に落ちた手袋を一瞥すると、片眉を上げた。

 その顔には興味も驚きも浮かんでおらず、ただ面倒事に巻き込まれたという感覚だけが漂っていた。


「何のつもりだ?」


 彼は椅子にもたれかかりながら、軽い口調で言った。

 その態度は挑発を受けてもなお揺らぐことなく、むしろますます飄々としていた。

 セレスティアの目には、彼の無関心がさらに怒りを燃え上がらせた。

 彼女は背筋を伸ばし、気高い声で言い放った。


「貴方にそれが受けられますか?」


 彼の目がほんの少しだけ細まる。だが、それは挑戦に応えるためではなく、ただこの状況をどこまでめんどくさがっているかのようだった。


「今なら見なかったことにしてやるから、さっさと拾いな」


 オルレアの口調には変わらぬ気だるさと皮肉が混じっていた。しかし、その言葉を聞いた瞬間、セレスティアの瞳はさらに強い光を宿す。


「私は本気です」


 セレスティアの瞳は鋭く輝き、彼女の意志の強さがその視線だけで伝わってきた。

その場に立ち尽くす彼女に、友人たちが慌てて駆け寄ってくる。


「セレスティア、本当にやめた方がいいわ! こんな人に関わるだけ無駄よ!」


「そうだよ、こんなことで君が怒りを燃やす必要なんてない! この男と同じ土俵に立つだけ損だ!」


 友人たちは、セレスティアを宥めるようにして必死に訴えかけた。しかし、彼女は揺るぎない決意を示すかのように首を振り、鋭い視線をオルレアに据えたまま動かなかった。

 その姿にオルレアは再び気怠げに椅子にもたれかかり、飄々とした声で言葉を投げかけた。


「で、お嬢ちゃんは俺に何をして欲しいの? 腹を掻っ捌いて、天下に謝罪して欲しいとかか?」


「いえ、そこまでは申しません。ただ、私たちに今までの野放図な態度を謝罪し、真面目に授業を行ってください。それがどうしてもできないのなら、この学院から去ってください」


「なるほどね。別にそれはいいんだけど、お嬢ちゃんが俺に要求する以上、俺も何かを要求することになると思うんだ。そのことをよく考えているのかい?」


「承知の上です」


 途端に、オルレアの表情が一変した。それまでの飄々とした態度をわずかに崩し、苦虫を噛み潰したような顔つきになる。


「年頃の生娘がそんなこと簡単に言うなよ。君の親御さんのことを考えると、こっちまで泣きそうになる」


 その不遜な皮肉に、セレスティアの友人たちの表情が険しくなった。しかし、当のセレスティアはオルレアの言葉に揺らぐことなく、冷ややかな声で答えた。


「それでも、私は魔術の名門であるルドルフォン家の名において、貴方のように魔術を貶め、社会を堕落させる不埒な輩を見過ごすことはできません」


 その言葉には、彼女自身の誇りと正義感が込められていた。

 彼女の立場、家名、そして学院の誇りを守るため、彼女は一歩も引かないという決意をはっきりと示していた。

一方、オルレアはその熱い決意を冷ややかに見つめ、皮肉げに微笑んだ。


「ふ……古臭いよ。石器とか土器の隣に展示されててもおかしくないくらいの古臭さだな」


 彼の口元の笑みはまるで、セレスティアの決意そのものをあざ笑うかのようだったが、その瞳には一瞬だけ何か別の色がよぎったようにも見えた。

 教室内は静寂に包まれ、生徒たち全員が二人の動向を固唾を飲んで見守っている。

 息をすることすら忘れそうな緊迫感が空気を張り詰め、その場にいる者すべてが、オルレアとセレスティアの間に流れる見えない火花を感じていた。


 オルレアは椅子から少し身を起こし、教卓に落ちた白い手袋と、セレスティアの姿を交互に軽く観察した。

 強気に見える彼女の表情は毅然としているが、細かいところを見れば、彼女の体がわずかに緊張でこわばり、ほんの少し震えていることがわかる。


 無理もない。

 彼女が今行おうとしている「魔術の決闘」は、正式な場であれば相手と条件を設定し、その結果次第では絶対的な要求を突きつけられても拒否することは許されない――そんな古い貴族社会の慣習を踏襲するものだ。


 仮に社会通念なり、家の力を駆使してその要求を破棄することは可能であるが、その場合ルドルフォン家の権威が地に堕ちることになるのは間違いない。だが、それでもセレスティアは一歩も退かず、正面から立ち向かった。


 オルレアはそんな彼女の姿に、皮肉げな微笑を浮かべながらも、瞳には一瞬だけ別の感情がよぎる。

 冷淡とも飄々ともつかない、いつもの彼とは違う、ほんの一瞬の何か――興味、あるいは評価とも呼べるような感情だ。


 セレスティアは、この年齢において誰よりも何よりも「一流の魔術師」であろうとし、「貴族」という存在を意識している。

 それは幼い頃から叩き込まれたルドルフォン家の誇りと責任、そして何よりも自分自身への厳しい戒律の表れでもあった。


 オルレアの目には、その姿がどこか「古臭い」と映る。

 時代遅れの理想、不要なプライド、肩肘を張り続ける窮屈さ――彼の目には、太古の化石のようにすら見えた。

 だが、それと同時に、その直球すぎるまでの真っ直ぐな性格が、どこか気に入らなくもない。古き良き本物の貴族、本物のエリートだ。


「まったく太古の化石みたいな奴だな……」


 オルレアはそう呟きながら、口元に皮肉ともとれる笑みを浮かべた。だが、続く言葉には、わずかに別の響きが宿る。


「まぁ、そういう直球な性格は嫌いじゃない」


 その一言が教室に落ちると、生徒たちは再びざわつき、セレスティアの目には一瞬だけ驚きの色が浮かぶ。

 そして次の瞬間、オルレアは椅子から立ち上がり、教卓の上に落ちた手袋を拾い上げた。


 彼の指が白い布を掴む仕草は、どこか儀式的ですらあった。

 教室内の静寂が、再び深まる。


「いいよ。その決闘、受けてやるよ」


 誰もが耳を疑うような空気の中、オルレアは手袋を軽く指先で弄びながら、何事もないかのように淡々と続ける。


「決闘のルールは簡単だ。相手を戦闘不能にするか、参ったを言わせた方の勝ちとする。もちろん呪文は何でもありだし、道具や武器も使いたければアリとする」


 そのルールに、教室中の生徒たちはさらに驚きの声を上げた。


「武器も使っていいなんて……それはさすがに卑怯だろ!」


「そんなの魔術の決闘じゃない!」


 批判が飛び交い、セレスティアの友人たちも彼女を止めるように、あれこれと言葉をぶつけ始める。

 だがオルレアは、それらを軽く聞き流し、肩をすくめた。


「もちろん、俺はそんなもの使わないよ。お嬢ちゃんへの配慮だよ」


 その一言に、セレスティアは鋭い視線でオルレアを睨みつける。


「私もそんな卑怯なものは使いません。それに――」


 彼女はゆっくりと息を吸い込み、その言葉に重みを持たせながら続けた。


「私はセレスティア・フォン・ルドルフォンという名前があるんです。お嬢ちゃんではありません」


 その名を堂々と名乗る彼女の姿は気高く、教室の空気に張り詰めた威厳が漂った。

 オルレアはその反応を面白そうに眺めながら、口元に皮肉な笑みを浮かべた。


「……以後、気をつけるよ」


 そう言いながらも、その声色にはどこか投げやりな軽さが混じっている。しかし、セレスティアはオルレアの態度に一切妥協せず、鋭い視線で問い詰めた。


「私への要求は何ですか? 早く申してください」


「要求なんてないよ。ガキに何かを要求するほど、俺も下衆じゃないからさ」


 その軽蔑にも似た言葉に、セレスティアの目が大きく見開かれる。

 彼女の中に積もり積もった怒りが、再び爆発しそうになった。


「ば、馬鹿にして!?」


 しかしオルレアは、そんな彼女の怒りを気にすることもなく、悪びれた様子も見せず続ける。


「また怒るのか? それとも俺の女になれとか言って欲しかったか? 破廉恥なことを言って欲しかったのかな?」


 彼の徴発に教室は一瞬で凍りついた。

 生徒たちは絶句し、セレスティアの友人たちが「何てことを……!」と顔を真っ赤にして抗議の声を漏らす。

一方の彼女は、怒りのあまり言葉が出ないのか、拳を強く握りしめて震えている。

 オルレアはそんな彼女を見て飄々とした笑みを浮かべ、教室の扉へ向かって歩き出した。


「ほら、この時間なら第二訓練場は空いてるだろ? さっさと行くぞ」


 彼の軽い口調に、セレスティアは思わず目を見開いた。

 自分が挑んだ決闘を軽々しく受け入れられたこと、さらにその態度に完全に振り回されていること――そのすべてが、彼女の怒りをさらに煽った。

 オルレアが扉を開けて教室を出ていくと、彼女は反射的にその背中を追いかけるようにして出て行ったがった。


「ま、待ちなさいよッ!」


 その声には怒りと焦りが入り混じり、追いかけざまに彼女は唇を噛む。


「もう……貴方だけは絶対に許しませんから!」


 教室中が彼女の叫び声に驚き、誰もが固唾を飲んで二人の背中を見送った。

 オルレアは気にも留めず、その後ろ姿にはどこか飄々とした余裕が漂っている。

 一方、セレスティアの瞳には決意と怒り、そして負けられないという強い意志がはっきりと浮かんでいた。

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