第15話 魔術師の戦い
白い龍がオルレアに向かってうねりながら襲いかかる様は、まるで天地を揺るがす雷の化身そのものだった。
その動きは流麗でありながらも圧倒的な力強さを備え、その一撃一撃が大地を裂き、空を切り裂くかのようだった。
オルレアは微動だにせず、静かにその様子を見つめていた。
彼の顔には焦りや恐怖の影は一切なかった。
ただ、冷静な瞳で龍の動きを見極めている。
龍の一撃がオルレアに迫る度、彼は風のように軽やかにその攻撃をかわしていく。
彼の動きは、まるで踊るようだった。
鋭い爪が彼の頭上をかすめ、その直後に彼は流れるような動作で一歩後退する。
次の瞬間には、龍の尾が横薙ぎに振るわれるが、オルレアはその場で軽く跳躍し、空中で一回転して無傷で着地する。
その一連の動きは、見ている者の目を奪う美しさと精確さを兼ね備えていた。
周囲のチンピラたちは、その光景に興奮を隠せなかった。
彼らは叫び声を上げ、手を振り上げて応援している。
「やれ、ボス!」
「もっと攻めろ!」
声を上げる彼らの姿は、闘技場の観客さながらだった。
興奮はどんどん高まり、その歓声はますます大きくなっていく。
その声は、オルレアの周りで渦巻くように響き渡る。
そんな中で、ただ一人、ハインツだけが不快感を隠せなかった。
彼の顔には苛立ちの表情が浮かび、何度も繰り出される攻撃がことごとくかわされるたびに、その苛立ちは増していく。
「なぜ、魔法を使わないんだ?」
ハインツが声を張り上げる。
彼の問いには、明らかな怒りと苛立ちが込められていた。
オルレアは軽く肩をすくめ、微笑みを浮かべる。
「その魔法は見たところ、派手だし威力もありそうだ。だけど、魔力の消費もさぞ辛いだろう。いつまで続くかな?」
オルレアはその言葉を投げかけると、再び龍の猛攻を軽やかにかわし始めた。
彼の動きは一貫して流麗で、まるで舞踏の一部のようだ。
白い龍が咆哮しながら攻撃を繰り出すたびに、オルレアはその軌道を読んで一歩、また一歩と確実に避け続ける。
「だが、このまま弱らせるのはつまらないな」
彼は龍の攻撃の合間を見計らって、ステップを踏みながらハインツに近づく。そして、まるで雷光のような速さで拳を一撃入れた。
拳が彼の腹部に深く食い込み、一瞬よろける。
ハインツは驚愕と共に後退したが、すぐに反撃に転じようとする。しかし、オルレアはすぐに距離を取り、その動きを再びかわした。
その巧みな足さばきはまるでアウトボクシングのようで、ハインツの攻撃を避けながら的確に打ち返していた。
ハインツは再び龍を召喚し、電撃の一撃を繰り出す。
白い光がオルレアに向かって迸るが、彼は軽やかに躱し、その反動で再びハインツに近づいた。
重い拳が何度も彼の体にぶち込まれる。
その様はまるでサンドバックに打ち込むかのようで、彼の体は揺れ動いた。
それでもオルレアは手を緩めることなく、動き続ける。
攻撃は速く、そして確実だった。
ハインツの反撃はほとんど意味をなさず、彼の力が次第に弱まっていくのがはっきりと見て取れた。
そんな様を見て、周囲のチンピラたちはオルレアに罵声を浴びせかける。
「逃げるなー! 正々堂々と撃ち合え!」
「撃ち合いに持ち込めば、絶対にボス・グラントが圧倒するんだ!」
「羽虫みたいに逃げ回ってんじゃねぇ! 勝負しろ!」
わざわざリスクのある戦い方なんてする必要はない。
そんな罵声に耳を貸すことなく、冷静に戦い続けていれば、楽に勝てることだろう。しかし、オルレアは突然その動きを止めた。
微動だにせず、まるで彫像のように静かに立ち尽くしている。
その姿勢には、自信と冷静さがみなぎっていた。
微かな笑みが彼の口元に浮かび、その瞳は鋭くハインツを見据えていた。
「もう躱さないから、撃ってこい」
「どういうつもりだ……クソ野郎」
ハインツはその言葉に激昂し、顔を真っ赤にしてオルレアを睨みつけた。
汗が額から滴り落ち、握りしめた拳が震えるほどの憤りが伝わってくる。
「お前の土俵で戦ってやるよ。その上で、ねじ伏せる。それが俺のやり方だ」
彼の言葉には揺るぎない自信があり、その冷静な態度はますますハインツの怒りを煽った。
周囲のチンピラたちは一瞬驚愕するが、その後すぐに怒りの声を上げる。
「たしかに正々堂々と戦えと言ったが……ナメろとは言ってない!」
溶岩のごとき怒りが嵐のごとくオルレアに襲いかかるが、動じず、ただ静かにハインツを見据えていた。
「そうか……殺す!」
ハインツはその冷静さにさらに怒りを募らせ、魔法を発動させた。
「<
空気がピリピリと震え、電撃をまとった槍が空中に三本出現した。
青白い雷光がその周囲を走り、槍はまるで生きているかのようにうねりながら、オルレアに向かって突き進んでいく。
その一撃一撃はまるで天罰の如く、猛烈な勢いで彼に迫ってきた。
オルレアはその場から動かず、冷静に槍を見据えた。
槍が彼に迫る瞬間、彼は右手を軽く上げ、淡い光を放つ防御魔法を展開した。
その瞬間、槍はまるでガラスの壁にぶつかったかのように反発し、砕け散った。
雷光が空中に散らばり、消えていく。
「はい、残念」
オルレアは余裕の表情でそう言った。
その声にはまったくの緊張感がなく、まるで散歩の途中で立ち寄ったカフェでコーヒーを注文するような軽やかさがあった。
その様を見て、皆が確信する。ハインツはオルレアに勝てないと。
しかし、顔をあげるハインツの表情には諦めの色などない。むしろ、勝利の色さえ見える。
「言ったはずだぜ、殺すって」
ハインツの声が響き渡ると同時に、オルレアの背後に二本の雷の槍が突然出現する。
その槍は静かに現れ、まるで予め用意されていた罠のように、油断しているオルレアの背中に向かって一直線に飛び込んでくる。
オルレアは一瞬の違和感を感じ、反射的に振り返ろうとしたが、その動きは間に合わなかった。
槍が彼の背中に突き刺さり、電撃が彼の体全体に走る。
その衝撃は凄まじく、オルレアの体がビリビリと震え、顔には苦痛の色が浮かんだ。
「くっ……!」
オルレアは苦痛に耐えながら、必死に立ち直ろうとする。
彼の体は雷のエネルギーに包まれ、周囲の空気が焦げるような匂いが立ち込めた。しかし、彼の眼差しは依然として鋭く、その瞳にはまだ諦めの色がなかった。
ハインツはその様子を見て、にやりと笑みを浮かべる。
その表情には勝利の確信が宿り、彼の姿勢には自信が満ちていた。
「どうだ、これが俺の力だ」
チンピラたちはその光景に歓声を上げ、興奮と狂気が混ざり合った声が響き渡った。
歓声が響き渡る中、オルレアは静かにその場に立ち上がる。
彼の背中にはまだ電撃の痕が残っていたが、その姿勢には動揺の色はなかった。
背筋は真っ直ぐに伸び、肩は力強く開かれている。
その痛ましい姿すらも、彼の威厳を崩せないというかのようだった。
「まったく、油断はろくなことにならないな。つくづく、思い知ったよ」
オルレアは肩を軽く回しながら、痛みを感じつつも冷静な表情を崩さなかった。
その視線は鋭く、まるで鋼鉄の刃のように冷たい輝きを帯びている。
彼の唇はわずかに上がり、その笑みは挑発的でありながらも余裕を感じさせた。
「お前、強いな。その魔法術、ただのチンピラじゃないようだ」
オルレアの言葉に、ハインツは胸を張って答える。彼の顔には誇りが満ちており、その目には燃えるような自信が宿っていた。
「当然だ。こちとら実戦で鍛えた本物の魔法だ。お前達がやってるお遊戯の魔法とは格が違う」
ハインツの姿勢には一片の揺らぎもなく、その口元には冷笑が浮かんでいた。
彼の手は力強く握りしめられ、その拳からは今にも電撃が放たれんとする勢いが感じられる。
「これは、一本取られたな」
オルレアは大きく笑い、その笑い声が場の緊張を一瞬だけ和らげた。しかし、その笑顔はすぐに消え、代わりに真剣な表情が戻ってくる。
「では教育してやろう。本当の魔術師の戦いというものを」
オルレアは静かに手を広げ、その指先に魔力が集まり始めた。
彼の周囲の空気が一変し、重々しい雰囲気が漂い始める。その様子を見て、ハインツは一瞬の戸惑いを見せたが、すぐにその表情を引き締めた。
「<
オルレアの声が響き渡ると同時に、彼の手から放たれた魔法がハインツの立っている場所を中心に大爆発を引き起こした。
爆風が辺り一帯を巻き込み、砂塵と炎が舞い上がる。
その瞬間、地面が揺れ、空気が震える。チンピラたちは驚愕の表情でその光景を見守り、一部は後ずさりしながらも、視線を外すことができなかった。
彼らの顔には恐怖と混乱が混ざり合い、その瞳には信じられない光景が映し出されていた。
砂塵と炎が収まり始めると、彼らは口々に叫び声を上げたが、その声も震えていた。
オルレアは冷静にその場に立ち続けていた。
姿勢は変わらず、堂々としたものであり、その表情には一片の揺らぎも見られない。
彼の手のひらにはまだ魔力の余韻が残っており、その周囲には微かな熱気が漂っていた。
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