終章 エピローグ

エピローグ~ヒルダとワイバン~


 淡い光に包まれた空間の中でヒルダは目を覚ました。目の前にはワイバンの巨大な兜顔があり、ここが彼の精神異次元スピリットスペースだとぼやけた思考で理解する。


(ギゼラは、どうなったの?)


 もはや驚きはしない巨大で近すぎるワイバンの顔を見つめながらヒルダはギゼラを安否をたずねた。


 最後に繰り出されたワイバンの最後の攻撃ダブルアームシューター、爆発と共に砕け散ったギャズル。最後の光景と背に受ける爆発衝撃を体感とすればあれと融合させられていたギゼラが無事であるかという不安を抱くのは当然の事だろう。


 ──大丈夫だ。私のコンフォートウェイブは成功している。あの三人も含めて無事だよヒルダ嬢。


 ワイバンはどこかヒルダを安心させるような優しい響きで応えを返した。


 その優しい響きに何故だかこれまで以上の親しみを感じる気がした。このワイバンの優しい響きを信じてもいいだろうとヒルダは安堵に胸を撫で下ろし、不安がった心を落ち着かせる。


(そう、よかった。ま、そのコンフォナントカてのが何かは知らないけど今は貴方アンタを信じてあげるわよ……一応ね)

 ──コンフォートウェイブだよヒルダ嬢。詳細は惑星有機体生命の理解には及ばないと省かせていただくが、ようはガイゾーンの精神融合を切り離し支配された精神を正常へと復元する救済処置と言えばいいだろうか。


 にモヤモヤとしたものを感じるが、実際自分の理解を超越するものなのだろうと目の前のバカに説得力しかない超越存在イレギュラーそのものを見つめていると反論するのもバカらしいとヒルダは両腰に手を添えて意識なく口端を柔らかくあげる。そもそもとワイバンに悪気というものが一切と無い事はこの短い期間の中で嫌という程に理解してしまっている。こちらが大人になる方がお利口だと幼い人格のヒルダは考えたのだ。


(ま、とにかくはそのスゴい精神復元てのが成功した事が分かればいいわよ。そんなスゴいのがあれば最初から使えとも思っちゃうけどね)

 ──いや、それはそうもいかんのだ。精神支配から正常な状態に復元するためのコンフォートウェイブだが、これはを粒子分解とし、拡散させねばならぬ切り札だ。精神異次元スピリットスペースに戻れ無ければこちらの存在が消滅する可能性も無いとも言えず、ここぞという時で無ければ使用はできな──

(──ちょおっとまっ、サラリと事後報告でトンデモナイ事言ってんじゃないわよ「こちらの」て、貴方アンタと融合しているワタシも危なかったて事になるじゃないのッ!?)


 ヒルダの怒よりの悲鳴に近い声の響きを顔に受けたワイバンは暫くと黙り、自身の胸部を指で着いて、力強く言う。


 ──大丈夫だ! 失敗したことは無いからなッ!

(何が大丈夫なのよッ失敗してたら貴方アンタ存在してないんだから失敗したこと無いに決まってんでしょうがッッ!?)


 妙に自信に溢れたワイバンにイラとしたヒルダは大人対応はもうやめだと異次元を泳いで彼の巨大な顔に蹴りつけてやると近づいた──




 ──瞬間、ヒルダは柔らかなベッドの上に顔を埋めていた。勢いよく顔を上げるとそこは学園寮の自室であり、隣のベッドで寝支度を整えていたメートヒェンの姿が見える。


「どうしました、何か悪い夢でも」


 心配そうな顔で近づいてくるメートヒェンを見て、今回も彼女はワイバンの力で記憶改ざんされているのだろうと理解する。


「悪夢である事には変わりは無いけど、心配はいらないわメートヒェン。もう寝ちゃうからおやすみ」


 ヒルダは心配げなメートヒェンを大丈夫だからと手で制し、再びベッドへに横になり頭からシーツを被る。


(貴方アンタ、都合悪くなって逃げたわね)


 心の中でワイバンにジトリと睨みつけるような声をあげるが彼の声は帰ってこず、ヒルダは深く深く溜め息を吐く。


(ま、あの子が助かったならいいか。明日、一応──様子を見……て──)


 もう酷く疲れているようで、ヒルダは夢の世界へと手招きする微睡みに身を任せて自然と眠りにつくのだった。








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