ヒルダ~襲撃~
「メートヒェン、林檎ジュースをもっとちょうだい」
真夜中の自室で子どもな人格のヒルダは実家領地産の林檎果汁がたっぷりなジュースを上機嫌に味わい、メートヒェンにもう一杯とねだる。
「ダメですよお嬢さま、夜中のジュースは程々にしませんと」
だが、メートヒェンはそのねだりを却下としジュース瓶をしまいに行く。
「なによ~、もうちょっといいじゃないぃっ」
ヒルダはブツクサと言いながらも仕方なしとジュースを諦める。それを見たメートヒェンがクスリと笑うのでヒルダはムッとした顔で「なによ?」と睨む。
「いえ、今日はとても楽しかったのだなと思いまして」
その姿もまた可愛らしいと笑み零すメートヒェンの眼には少しだけ涙が滲んでいる。
「ぇ、なんで泣くのよ。ワタシ何か酷いこと──」
「──いえ、嬉しいんですよ。昔のお嬢さまに戻ったようで」
「昔のワタシ?」
メートヒェンの言っている意味がよく分からずヒルダは首を傾げ「ワタシ、変わったつもりは無い」と言い、メートヒェンも「そうですね」と涙を小指で拭い笑ってみせた。
「けど、穏やかはなられました。神さまが降臨されてから──」
「──それは無いッ」
「神さま」という言葉にヒルダは不機嫌な面でそっぽを向いた。メートヒェンの言う神さまとはワイバンの事、彼のお陰で穏やかになったなぞと認めるのは癪なヒルダなのである。
(あれはどちらかというと疫びょ──)
──ヒルダ嬢ッ!
ワイバンに対する愚痴をこぼそうとしたら昼間に裏拳と飛ばしてから戻って来なかったワイバンの意識が急に戻ってくるものだからヒルダは「ヒャッ」と声をあげた。
「はい、どうしました?」
「な、なんでもないっ」
急に裏返るヒルダの声を聞いてメートヒェンは不思議そうな顔で振り返るが
(なによいきなり、変に思われたじゃないッ)
ヒルダは恨み節にワイバンに話し掛けるがワイバンはそれどころでは無いとヒルダに事実を告げた。
──近くに異様な存在が迫っている!
(あ、あんたが言う異様な存在て)
──そうだ、ガイゾーンだ!
「が、ガイゾ──ッッ!?」
ヒルダがワイバンへと問い返そうとした瞬間──ヒルダの身体は何も無いだだっ広い空間へと誘われていた。
「め、メートヒェンッ!」
メートヒェンの返事は帰ってこない。ヒルダの声に彼女が応えないはずはない。ここには自分とワイバンしかいない事が理解でき──
「──誰っ!」
──否、ヒルダとワイバン以外にもこの空間に佇む存在はいた。少女が四人、どれも学園の制服姿である
「ヒルデガルダさま」
「ッ!?──
か細い声に名を呼ばれ、ヒルダは息をのみ、その黒目がちな大きな瞳を見つめた。前髪をたくし上げた髪型に一瞬と気づくのが遅れたが彼女は昼間助けたギゼラであり、その後ろに立ち尽くす三人は彼女を虐めていたガリリアと取り巻きの二人であった。
「酷いですねヒルデガルダさま」
ギゼラのか細い声の冷たさにヒルダは息を呑んだ。昼間の自分と接した彼女には幾分の明るさと心根の優しさが滲んでいた。だが、今のギゼラにはそれが感じられない。あのこちらに向ける眩しい憧れの眼差しを向ける黒目がちな大きく綺麗な瞳は絶望と憎しみに染まりきっている。
「助けてと言ったのに来てくれなくて」
ギゼラの口が心臓を串刺しとする程に鋭利な三日月の笑みに歪むのを見てはいられなかった。
──彼女の精神は既にガイゾーンに蝕まれているか........。
ギゼラを直接助けるきっかけとなったワイバンの声の響きもまた辛くヒルダの身体に響く。同時に、果たすべき使命に覚悟を既に決めている事も理解とできた。
「
──あぁ、可能性は、あるッ!
「
──無論、変身だ。奴らの精神空間を破壊し引きずり出す!
ワイバンの声にヒルダは覚悟を決めた。今の子どもな自分とは関わりは無くとも憧れを向けてくれた彼女を見捨てたりはしない。一度だけワイバンと一緒に戦ってやる。今の
「させない、ここで一緒に沈んでよヒルデガルダさまっ!!」
ギゼラの顔に焦りと狂気が見えると同時に後方の三人が襲い掛かる。
(もう遅い、戦いは任せたわよワイバンッ!)
──了解だッ!
「
ヒルダの紅玉色の瞳が眩く輝くと同時に空間全体がヒビ割れて砕け散った。
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