ワイバン~神という存在 二~
──ヒルダ嬢、君もあの壊れた楽器のように語る御仁と似た事を言う。私はッ、神ではなくグレ──
(人の話は最後まで聞くものではなくて?)
ワイバンは即否定してくるが、ヒルダはその暑苦しいテンションを制して話を進める。正直、アーベント歴史教諭と似ていると言われるのは昼間の性格であっても癪ではあるのだが。しかし、ヒルダの中で不確かだった神の存在を認めるのは複雑と言える、とりあえず頭の中に浮かんだ仮説を立証するためワイバンにドランヴェール王国神話の一部を聞かせる。
──ふむ、なかなか興味深い物語ではあるが、その神と私に何の関係があるというのだ?
王国神話を聞いたワイバンはまだ首傾げたような声を響かせる。どうもシックリとはきてないようだ。
(貴方がどれ程あの暗闇の中にいたのかは分かりませんけど、この大地に落ちてきたという貴方、神話に語られる神さまの奇跡で四季が巡る王国の豊穣とした大地の誕生物語。この大穴は神が降臨した証であると伝わっている。ワタクシと精神融合し、ガイゾーンという侵略者を圧倒する強大な
──私は精神体となる瞬間、戦場に潜んでいたガイゾーンの残存兵力に精神を汚染された。
ワイバンは一応と己を納得させようとヒルダの仮説を咀嚼して思考する。
(祖先が何らかの形でこの大穴から貴方を発見し、あの巨人体を本当に神と信じたのならば、この大穴を神の領域、禁忌の場とし何人も立ち入らせぬように巨大な建物で覆って神格化した貴方を崇め始めた。と考えます、まだ幾つかの疑問はあるけれど)
リンドヴラーム貴族学園校舎は元々古い歴史建築を改修し使用を続けているものだと聞く。本来はどのような目的で建てられたかなぞ、ヒルダは興味を持った事も無いが聖域と崇めていた名残がこの重力結界の渡り廊下にあるのではと推測する。
──なるほど、何千年と経過した可能性を考えてはいなかったが、それならば惑星有機体生命として何世代と継がれてきたという事か。
(?……何のお話をしていて?)
──いや、これは何でもない独り言だ。それよりも、その話を事実とすれば、ガイゾーンの侵略は何千年と前から始まっている事になる。この地は何世代とガイゾーン残存兵の支配下に置かれている可能性が高い。
ヒルダは妙にはぐらかされた気分ではあるが、支配下という言葉を袖にするわけにはいかない。いったんワイバンの話に意識を傾ける。
(そのガイゾーンの支配というのは具体的にどんなものなのかしら。ワタクシ達はずっとドランヴェール王国の地で暮らしてきたけれど、なにかに支配されているという感覚はまるで無いのだけれど)
──ヤツらの侵略は多岐におよぶ。単純な惑星文明破壊活動による殲滅侵略。惑星有機体生命との強制的な精神融合により生命を蝕む精神侵略。君たちは知らぬ間に何世代とこの惑星の侵略を行うための尖兵となる操り人形とされている可能性は高い。現に、君の二重人格はヤツらの侵略による精神の蝕みによって起きたものだ。私と精神を融合させた事により、支配下から逃れる事に成功した自由人ではあるが。
(代わりに貴方とひとつになっているから、自由人とは呼べないわね……支配下から逃れていると言った?)
ガイゾーンの実態を語られてヒルダの中で恐怖心というものが生まれないわけではないが、このワイバンと融合している状態は恐怖心というものが薄れるようだ。それと同時にまたひとつ疑問が浮かぶ。
(ワタクシの二重人格がガイゾーンの精神侵略によるもので、貴方との融合で支配から解放されたのなら、ワタクシの人格はひとつに統合されるのでは? だけど、夜のワタクシは未だに子どもで日のある間は冷徹な氷のままなのだけれど、これはどういうこと?)
──それは簡単な事だ。君は人生の半分以上を二つの人格で過ごしてきた。人格生命というものは長い時の中で構築されてゆく。つまり、どちらの人格も君そのものになっているという事だ。いずれはどちらの人格とも認めあう事ができれば時を長く有すかも知れないが新たな君に出会う事ができるかも知れないな。
新たな自分と言われてもシックリとは来ない。結局はこの二つの人格とはこれからも付き合っていかなければならぬという事かと小さく息を吐く。これからもメートヒェンに迷惑をかける事は変わらないのかと思う気持ちとどちらかの人格が消滅する事はないという安堵という複雑なものが胸の奥で入り混じってゆくのを無意識に吐き出した溜息である。
ヒルダはそれを紛らわすためかもうひとつ疑問をワイバンに問いかける。
(そういえば精神融合というけれど、ワタクシは貴方の思考と記憶を全て知り得る事は無いのね。逆にワタクシの記憶を覗かれるというのも薄ら寒いものだけれど)
──ああ、それは簡単だ。完全な精神融合を果たせばそれは別の存在になるという事だからな、それは私達グレートソルジャーの本意では無いため制限を掛けている。ちなみに制限を解除すれば精神の不安定な君側の存在が消滅する可能性が高いと言え──
(問うてしまったワタクシもアレですけどその不穏なお話、長いのかしら?)
またサラリと恐ろしい事実を聞かされるのかとヒルダはやはり聞かなければよかったかもしれぬとまた、深く息を吐いていた。
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