カオスティック・サーガ・♾
大崎あむ
第1話・冒険は♾(インフィニティ)!!
目を覚ますと、じじいが居た──。
頭に、無理矢理とっつけた様な無駄に豪勢な輝きを放つ『王冠』をちょこんと乗せている、唯のおっさんだ。
服装は、サンタクロースもビックリな、赤と白の生地だけで出来た『
そんな見知らぬおっさんが、目を覚ました途端、偉そうな椅子に腰掛けながら、平然と『やぁ』とか気の抜けた声で、冷たい床に横たわる俺に話しかけて来た所存だ。
俺は確信した。
コレ、もしや『なんとか転生』なんじゃないかと。
俺が死んだかどうかは、正直覚えていない。
けれど、眼前に広がるこの
じじいは、服装に似合わず、顔だけは庶民的だった。
ホントにそこら辺をほっつき歩いていそうな、唯のおっさんだ。
そして、最初に勘違いをされない様に言っておきたい事がある──。
先程から、目の前の王冠を乗せただけの『おじさん』を『じじい』と口悪い表現で連呼しているが、何も俺が『じじい』と呼びたくて読んでいる訳ではないのだ。
『じじい』と書いてあるのだ。
一体どういうことか──。
それは
〔じじい〕
〈くそ暇そうだね、勇者くん〉
なんと、おっさんが喋ると手前に“テキスト”が表示されるのだ。
そしてテキストの文前には名前の表記。
正に信じがたい光景。
まるで『なんとかクエスト』みたいだ。
そして気のせいだろうか……。
今俺の事を『勇者くん』と言った気がした。
もちろんだが、俺の名前は『勇者くん』ではない。
学校でもそんな“あだ名”を付けられたことは、きっと無いだろう。
学校で『勇者くん』なんて呼ばれるのは、消し忘れた『ノート』の黒歴史をばら撒くのが第一条件だ。
しかしだが、
そこから推理するに、まさか──。
自分の身に
俺は冷たい床から起き上がり、自分自身の格好を見渡す。
深い褐色の生地。首元に白いモコモコがくっ付いた、いかにも『勇者』っぽい少し厚手のコート。
それにいい感じに頑丈そうな厚底ブーツ。
そして『修行中』と書かれた『Tシャツ』。
察するに、どうやら俺は『勇者』になってしまったようだ──。
〔じじい〕
〈ちょっとコミケにでも行って来てくれないか。同人誌の新刊が欲しいんだけど……〉
いや、絶対スルーさせねーから。
なんだ『修行中』って。
しかもこれ、よく見たらズボンも短パンじゃねーか!!
どんなチョイスなんだ!!
何で上着と靴だけ無駄に高級で、服とズボンはこんなやる気ないんだよ?
『習い事』始めたばっかの小学生か!!
「おい、ジジイ!!服もっとどうにかなんなかったのかよ!!」
〔じじい〕
〈いやわし、知らんもん……〉
知らんもん……じゃねーんだよ!!
どこの世界に、このファッションが存在すんだよ!!
なんでこんなに服装への配慮が皆無なんだよ!!
「ていうか、ココ
俺は色々と配慮の欠けた『転生らしきモノ』に突っ込まずには居られない衝動を
〔じじい〕
〈“寝言”は寝て言え!!ココはわしのおうちに決まっとるだろうが!!なにグズグズしてんだ!!早く新刊のエロ本を買って来い!!〉
これは、とんでもない
俺は辺りを見渡す。
確かにまぁ、壁や床を見ても大理石っぽい
「ジジイ!!聞きたいことがある。俺は本当に“勇者”なのか!!?」
咄嗟に口は動き出した。
その真相を確かめなければ、どう行動していいかが分からない……。
〔じじい〕
〔いや、知らん……〕
知らねーのかよ!!
じゃぁ、なんで勇者って言ったんだよ!!
〔じじい〕
〔海岸で倒れてたから、コキ使ってやろうと思って拾ってきた訳だ〕
それ完全に
なに、適当に現場の様子見にきた『中小企業の社長』みたいな事してんだ!!
〔じじい〕
〔茶番はしめーだ!!ここからは真面目に話すからな!?〕
だから、俺の格好が茶番だから何とかしろっつってんだろーが!!
〔じじい〕
〔協力してくれれば、褒美も用意しよう……〕
褒美だと!?
「まさか、元の世界に戻る為のアイテムとか……」
〔じじい〕
〔いや、『
それただのアンタの趣味じゃねーか!!
〔じじい〕
〔それからまだあるぞ!?王様なりきり『ちょび髭セット』だ!!〕
いや、それに至ってはまだ『
完全にゴミじゃねーか!!
〔じじい〕
〔それから、それから……〕
「おい、ジジイ!!さっき言ってた『俺が海岸に倒れてた』ってどういうことだ!!」
〔じじい〕
〔ワシ、まだ喋ってるのに……〕
「てめぇ、元の世界に帰しやがれ!!」
俺は、ふざけた
〔じじい〕
〔ちょ、やめっ、だからワシ知らんて……。だが、コミケにお使いに行ってくれたら、何とかしてやろう……〕
「言ったなジジイ、絶対約束しろよ!?」
〔じじい〕
〔ホイホイ……〕
絶対ただ買い物に行かせたいだけじゃねーか……。
「なぁ、つかさ……この世界コミケあんの!?すげーな!!」
〔じじい〕
〔行ってみたいか!?〕
さりげなく俺の気を引こうとする魂胆が見え見えだ……。
しかし、せっかくの異世界なんだ。
ちょっとくらい、バカンスしてもいいのではないだろうか。
つか、なんで異世界にコミケがあるのか。
そもそもコミケを目指す事は、別にバカンスでも何でも無い様な気がするが……。
〔じじい〕
〔それならキミに、これを
〈2000円を手に入れた!〉
おい、また変なウィンドウ出たぞ……。
俺は
「いや少なっ!!もっとよこせジジイ!!ケチってんじゃねーよ!!」
〔じじい〕
〔うるさいわい!あとは自分で稼げ!!〕
「くそじじぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
再度、胸ぐらを掴み掛かるが、
俺は強行を取ろうとしたが、周りを囲む警備員に取り押さえられ、
〔くそじじい〕
〔あとは、ほい。コレも要らんから、くれてやるわ……〕
〈記録ノートを手に入れた!〉
いや、このウィンドウ毎回出んのか!!
あと『要らんから』ってなんだ!!
適当過ぎんだろーが!!
またも、
〔じじい〕
〔それで、セーブしろ〕
セーブ!?
セーブあんの!?
つかセーブってなに!!
「いや、いきなり言われても、分からねーだろ……」
〔じじい〕
〔セーブはセーブだろ!!〕
そりゃそうだ……。
いやノートでセーブって何!!
レポートなの!?
レポート書くって事でいいの!?
それ色んな意味で危険なんだけど!!
〔くそじじい〕
〔わーったら、とっとと行って来い!!〕
「ジジイ、テメー覚えとけよ!!」
俺は、警備員に王室から摘み出される。
どうやら任務を遂行するまで、
まるでRPGのフラグ回収をしないと動かないように、門番が王室の入り口から動かない。
やれやれ、コレは本当に大冒険をしなければ行けないようだ。
ここから始まる物語。
その名は──。
デン・デン・デン・デン・デン・デン。
どこかで聞いた事のあるような、レトロなBGMが流れ出す。
冒険の名は……。
『カオスティック・サーガ・♾』
〈少年よ、夢を駆けろ!!〉
無駄に壮大なタイトルコールが、目の前に広がった。
やっぱりこれはゲームの世界なのだろうか。
まぁ、考えても仕方がない。
俺は、同人誌を手に入れ、
俺は、たった一つの冒険心を握りしめて、城を出る。
そう、勇者こと、俺の名は──。
〈名前を入力してね!!〉
「いや、ここで決めるんかい!!!」
「カオスティック・サーガ・♾ 」
大崎亜夢
◇◆ 続く……のか──!?
【第1話・冒険は♾(インフィニティ) 終】
─────────────────────
【追記 2024/4/8】
みなさん読んで頂いてありがとうございます。
こうやってページを開いて頂ける事に感謝しております。
素直に嬉しいです。
でも何で『じじい』の方だけ無駄に伸びるんですかw
本命の方読んで頂けたら、スライディング土下座して喜びます✨
カオスティック・サーガ・♾ 大崎あむ @oosakiamu
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