第82話  ダンジョンの中では普通でも、ダンジョンから出てしまうと非常識になるホンの一例。(その2)

 雫斗はその日の夜、食事を終えて自分の部屋でまったりしていると、珍しくヨアヒムから話しかけてきた。


 『我が主よ。提案があるのだがよろしいか?』遠慮がちに念話で聞いてきたヨアヒムに驚いてパソコンの画面から顔を上げる雫斗。


 『珍しいね、君から話しかけるなんて。どうしたんだい?』そこに居る訳ではないが、虚空を見て集中している雫斗に、何かを感じたのかクルモが寝床で身じろぎをして主人を(まだ契約していないが)を見つめている。


 『契約に関して興味があるなら、物は試しという言葉も有るでは無いか。まずは其処のアンドロイドまがいの魔物と主従契約してみてはどうかと思うぞ』そうなのだ、今ネットで検索しているのは魔物との契約、またはテイムや召喚に関する記事をあさっている所なのだ。


 魔物を従えている探索者はいる事はいるが、ゴーレム型のアンドロイドを別にすると、報告されている例を推挙すれば10人もいない。従えたと言ってもどうやって出来たかもわからなくて、魔物の種類もまちまちで謎が多いのだ。しかし召喚やテイムに関しては色々分かってきていた、それは召喚というスキルの場合、そのスキルによって時間制限と召喚した魔物限定という縛るが在るが使役できるのだ。


 又テイムは、戦った魔物のを使役する事だが、その条件はまだ良く分かって居なかった。ただ言えることはどちらも魔核が関わっているらしいという事しか分からなかった。


 ダンジョンでポップしてすでに現世(ダンジョン内を現世といってよいものか疑問が残るが)になじんでいる魔物を使役する事と、スキルによって召喚する魔物とでは大きな違いが有る事は分かっている。


 召喚した魔物は倒されてもクールタイムが有るとはいえ、召喚し直す事が出来るが。すでに現世で活動している魔物を使役した場合は倒されるとその個体はいなくなることになる。


 リポップすることでこの世界に顕現する事には成るが、元の魔物と再契約できるかどうかは天文学的な確率になるようだ。


 魔物にも個性があるらしく、召喚にしろ主従契約にしろ使役した魔物は主人の影響をもろに受けるため、個性的だともっぱらの噂だった。


 確かにアンドロイド型ゴーレムのクルモやモカをはじめ良子さんや猫先生、ロボさんといった人?達も元は魔物ではあるが、かなり個性的だ、魔物も我々人類と同じように個々の本質はみなそれぞれ違うという事なのだろう。


 スライムやゴブリンといった比較的弱いと言われている魔物でも、いろいろバリエーションは豊富だ。ハイゴブリンやゴブリンソードやゴブリンアーチャと言った特殊なゴブリンも居る事だし。


 環境や生い立ちによって強さが変わってくるというのが一般の認識になりつつあるのは事実だ。ダンジョンが出現して五年、その間成長し続けてきた魔物がどうなっているのか、考えただけでも寒気がしてくる雫斗なのだった。


 スライムに関しては、最近の発見ではあるが水魔法を使うスライム迄いるし。深層では家ほどもあるスライムを見かけたとの証言もあるくらいだ、そんな大きなスライムをどうやって倒せるのか見当もつかないが。


 魔物の強さに関してもスキルで召喚している魔物はスキルのランクで変わって来る、魔物その物を使役している探索者は、その探索者の経験と使役している魔物自身が倒した魔物の強さや、あとその魔物が取得した魔石の量と質によって変わって来る様だ。


 現世に顕現した魔物は、ダンジョン内では存在を維持できるが、ダンジョン外では魔力が弱いためダンジョンから離れれば離れるだけ存在自体に影響が出る様で、魔石での魔力の維持が欠かせなくなってくるのは、良子さんから聞いて知ってはいる。


 使役している魔物の強さに関しても、戦闘や諸々の経験の違いで個々の資質が変わってくるのだが。レベルの高い魔物の魔石の取得でも経験値が上がるとは驚きだった。


 話を戻すと。魔物の数は星の数ほどあれど、契約している探索者は少数という事で有益な情報という意味ではほとんど無いと言っていいのだ。


 魔物を従者として使役する過程もまちまちで何が正解なのかも分からずじまいなのだ。いや、そもそも正解など無いのかもしれないのだ。


 『魔物を使役する条件として、契約という儀式を必要とするが、当然その儀式にはランクがある、強制的に従者を縛るテイムは別として、主従契約には一定の条件と盟約が存在する。要するに友達感覚のいつでも離れる事が出来る契約から、生涯を共にする深~~い契約まで様々と言う事だ。ほれ其処のアンドロイドまがいの魔物もその方との契約を望んでおる、ちゃっちゃと契約するがよいぞ」珍しくヨアヒムが熱弁する、こういう時のヨアヒムは何か良からぬことを企んでいることがある、経験から用心して確認する雫斗。


 『クルモが望めば契約を解除できると言う事なのかな、その割には情報が出てきていない事に疑問が残るのだけど?』そうなのだ、魔物との契約の解除においてネットの検索にヒットする情報が全く無いのだ。


 『当然であろう。本来魔物は本能で人を襲うが、戦闘を含め諸々の事情で主と認めた者には従順である。よって余程の事情が無ければ魔物の方から契約の解除などする訳が無かろう。それに使役した魔物に逃げられたなど、協会への報告は別にして恥ずかしくてネットに上げる事など出来はせんよ』然もありなんという風に、当然だとヨアヒムは言うが。雫斗も以前ほどでは無いとはいえ、叡智の書という魔導書のヨアヒムとの契約を止めたいと考えている彼にとって、契約を解除できるかどうかは最大の関心事項なのだ。


 『その割には、君との契約の解除には難航しているのだけれど』と雫斗が苦情を言うと。


 『言うたであろう、契約にはランクがあると。我と主との血の盟約は最高のランクにして至高の契りであるぞ、もはや其方と我を分かつには死をもって他にあるまい』そうなのだ、雫斗はだまし討ちに近いとはいえ、”叡智の書”と言うタイトルに騙される形で自分から契約してしまっているのだ。これ程のポンコツだと知って居れば躊躇していたのにと、悔やまない日は無いのである。

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