第79話  無自覚は・・・功績か、それとも罪か?(その3)

 「雫斗、貴方何か隠しているでしょう。話してしまいなさい」と辛らつに問いただす百花。「まだ何かあるのかい?」ともうお腹いっぱいだと星士斗が呆れて言うと。


 「陸玖先輩、核融合ってそんなに簡単にはできませんよね?」と不安そうに聞いてくる雫斗、しかし容赦のない陸玖の言葉に絶望に打ちのめされる。


 「マーそう簡単にはできないね。・・・普通で有れば、しかし収納の中で極小とはいえブラックホールを生成できるのだから、ふふふっ楽勝だね」とのほほんと宣う陸玖とは対照的に蒼ざめる雫斗。


 「間違えて、熱核爆弾を作っちゃうとか。あり得ます?・・・・ははは」とおどけて誤魔化そうとするが、雫斗の心配をよそに陸玖はさらなる構想をぶち上げる。


 「何を言っている雫斗よ。核兵器なんてショボい類の話じゃないぞ、仮に収納外でブラックホールが生成できるのなら、重力消滅攻撃も夢ではないぞ。ふむっ、問題は生成した後そのまま居座ると厄介だな、・・・・どうやって消すか?、・・・そうか!!保管倉庫にそのまま収納できれば、いつでもどこでも消滅兵器の出来上がりだな。くっふふふ夢が広がいてっ」自分の妄想に酔っていた陸玖の頭を叩き姉の瑠璃が締めくくる。


 「いい加減に現実に戻ってきなさい!!。とにかく取り敢えず安全が確認できるまでは収納を使った投擲の限界を模索するのは禁止よ。特に雫斗、あなたの場合は常識から外れてくるから特に注意しなさい、今までは攻撃スキルで放った本人がダメージを負ったって言う話は聞かないけれど、あなたが初めてで最後の人になるかも知れないわね」と雫斗にとって恐ろしい事を言ってきた、おそらく雫斗がやりすぎない様に注意する意味でそう言ったのだろうが、雫斗には自覚があるだけに笑い事ではない。


 その後は、百花と弥生の保管倉庫を使ったコンクリートパイルを使った重力武器のお披露目も、雫斗のブラックホールビームに霞んでしまったが、その後は各自でスライムを倒し討伐数を増やしていく事になった。


 クルモとミーニャを連れて割り当てられた広間へと来た雫斗達は、どんよりとした雰囲気に包まれていた。 主に落ち込んだ雫斗を気遣って二人が黙って居るのもあるが、雫斗の元気の無さは深刻だった。雫斗の肩に乗っているクルモが意を決して聞いてみる。


 「大丈夫ですか、ご主人様?」。聞かれた雫斗が我に返ると、心配そうに見つめているミーニャが居た。最近人化が進んできて直立で歩くことに不便が無い骨格になってきているのだが、依然顔はクロヒョウの顔で直立で歩き出したミーニャに、女の子たちが裸ではまずいと(毛皮を纏って要るので裸では無いと思うが)服を持ち寄って着せ始めたのだ。


 結果、クロヒョウの被り物をしている女の子の様になってしまっているが、精悍な顔立ちで凛々しいのは変わりがない。


 不安げなミーニャの表情を目の当たりにして気を引き締める雫斗。どの道報告した後確認を取るまではすることが限られてくるので、此処はのんびりクルモとミーニャの覚醒の手伝いをするのも良いやと、気持ちを切り替える。


 「大丈夫だよ、心配かけてごめんね。・・・さて今日は接触収納の取得までして、明日から収納を使った攻撃の練習を始めようか」と雫斗が此れからの予定を言うと、「はい!」と二人とも元気な声で答える。


 それからはのんびり歩きながら、スライムバスター(花火)を使ってスライムを倒していく、簡単に倒せるとは言っても一人50匹のノルマは結構な時間が掛かる。


 その間ミーニャと取り留めも無い話をする、スライムの討伐とは言ってもスライムを見つけてスライムバスターという花火を飲み込ませて爆発させて倒すという簡単なお仕事だ、とはいってもここはダンジョンだ天井からスライムが落ちてきて纏わり付かれると厄介だが、雫斗が危険察知のスキルを使って気にかけているので危険はない。


 ただ雫斗には、ひそかな野望が有った。ミーニャを故郷に返すという思いがだんだん強くなっていたのだ。


 この世界にきて何事も無い様にふるまってはいても、たまに遠くを見ているミーニャを見ていると、故郷を思って哀愁に浸っている様に見えて雫斗にはいたたまれないのだ。


 単に雫斗の思い過ごしだとはしても、何れはミーニャの居た世界との開口部を探し当てて、ミーニャを彼女の両親の元へと送り届ける事を模索し始めていたのだ。


 その一環でミーニャの居た世界の事を聞いているのだが、如何せんミーニャは幼過ぎて自分の周りの事だけしか良く分からない様なのだ。


 多少落胆しつつも雫斗は”まーどうにかなるだろうと”淡い期待を抱きつつ嬉々としてスライムを倒しているクルモとミーニャを見ていた。


 割り当てられた3つの広間を2周してクルモとミーニャが50匹ずづのスライムを倒した後、接触収納の覚醒を促す。要は事前に売店で購入していた付箋紙をダンジョンカードに張り付けて一緒に消して収納のコツをつかんでいく事なのだが、当然の様に二人とも無事接触収納を使う事が出来る様になった。後は帰るだけなのだが、どうせならと帰る道すがらダンジョンの小石を使って収納を使った投擲の練習がしたいと二人にねだられたので、コツを伝授する。


 「まずはイメージが大事だね、投擲する時は手に持った礫の、今はダンジョンの小石だけど、その位置が移動する距離と速さで礫のスピードが決まる。収納を使う時は投げる瞬間に収納から加速した礫の速さを加える事でかさ上げすることが出来る、後は練習あるのみだね」と言いながら軽く小石を投げて見せる。


 軽く投げただけで、ありえないスピードでダンジョンの壁に当たる小石を見て、俄然張り切る二人だが、簡単そうに見えるがタイミングが難しく、かなりの鍛錬が必要なのだ。


 ミーニャが握れるぐらいの小石を集める横でクルモも同じような小石を集めているのを見て、疑問に思う。接触収納は重量制限がある、自分の体重の約二倍なのだが、クルモを見ているとミーニャが拾っている同じ大きさの小石をいくつも収納していた。


 「クルモ、かなりの小石を収納しているけれど、大丈夫なの?」クルモは雫斗の肩に乗るくらい小さいのだが、見ていると十個以上の小石をもうすでに収納しているクルモに驚愕していたのだ、同じゴーレム型アンドロイドの”ロボさん”も多少人よりは多いとはいえ体重の2倍程度は変わらなかったのだが、クルモはもうすでに自分の体重の5倍以上は収納している。


 「はい、まだ入りそうです」と雫斗の心配をよそに集めまくるクルモ。ミーニャももうすでに体重分は集めているはずで、此れ以上はやばいと止めに入る雫斗。


 「あまり入れすぎるとMPが枯渇するよ、収納に出し入れするごとに消費しているみたいなんだ」と忠告する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る