第78話  無自覚は・・・功績か、それとも罪か?(その2)

 ただ雫斗は、煙の塊が投げた方向へ吹き飛んでいくのを見て、その吹き飛んでいく煙の塊を集約出来ないかと考え試行錯誤を始めたに過ぎない。要は空気砲見たいなものが出来ないかと思って接触収納から飛び出す礫の入り口を小さく更に小さくと念じながら投げ続けたのだ。


 本来、接触収納の中と現実世界とは次元が違うので物を出し入れする時には、その物体の質量分だけの空間が開き出し入れしているのだが、接触収納を取得した全員が意識的に行っているわけでは無い、つまり無意識に使えている機能なわけで、どういう原理かなんて誰も分かりはしないのだ。


 ただ入り口を小さくと考えた雫斗だが、接触収納はその物体その物を小さくし始めた、要は圧力を加えていったのだ、接触収納では中で加速が出来るのは知っていたが、圧縮することまで出来るとは思ってみなかった雫斗だが、此の事が後に変革を生み出すのは後の話だった。


 何処の誰かは分からないが、ダンジョンという迷宮と共にスキルという摩訶不思議な現象をもたらした存在がご親切に作った機能に雫斗は意識的に変更を強いたのだった。


 最初の数日間は変化がなく何百個もの礫を無駄にしたが、三日目に変化が訪れる。吹き出す煙の塊が少しまとまって見えたのだ、しかしそれは偶然というか、そう見えただけで多少まとまってはいるが誤差の範囲だった。


 諦めかけていた雫斗が効果が出ていると思い込み、俄然張り切って礫を打ち出す事に集中する。何万発と礫を無駄に消費し、7日目を過ぎると根負けしたのは接触収納の機能の方だった。


 鉄の礫を瞬時に圧縮していく過程で、回数を重ねるごとに徐々に個体から液体へと変わって行く、すると必然的に凄まじい圧力と熱量に耐えきれずどろどろの液体へと変化していく。


 圧縮された鉄は個体から液体と変わって行く過程で温度が凄まじく上がっていく。すると雫斗の思惑とは別に収納から出ていく過程で圧力から解放された液体の鉄が一瞬で気体となり火炎弾の様な熱の塊を打ち出し始めたのだ。


 そこでやめて置けば良かったのだが、雫斗は限界を突き止めたくなってそのまま続けていた、15日を過ぎたあたりで発光現象と共に一条の光線がダンジョンの壁に穴を穿つ。


 そこでようやく雫斗は思いいたる、何か危険な事をして居るのじゃ無いかと。どうして光線が出るのかとヨアヒムに聞いてみると、”シュワルツシルト半径”だの、”マイクロブラックホールの生成”だの、”ホーキング放射”だの良く分からない単語が飛び出し相変わらず要領を得ないのだが、危険なにおいがプンプンしていたので一旦やめて家でネット検索をしたのだ。


 要約すると、収納内で極限まで押しつぶされた鉄の礫の分子が、圧縮により中心部分の原子のシュワルツシルト半径が押し潰されてブラックホール化し始める。しかし質量の小さいブラックホールはホーキング放射の影響で瞬時に消滅する、つまり極小のマイクロブラックホールの生成と消滅が繰り返し起こる事で、その衝撃で周りの残りの物質を吹き飛ばす事になる。


 吹き飛ばされる圧力と押し潰そうとする圧力の狭間で鉄の分子が崩壊し物凄いエネルギーとなる、そのエネルギーがナノ単位で開いた現世との入り口から放出される、それが凄まじい閃光とダンジョンの壁に穿った穴の正体の様だった。


 「すると何かい、収納の中ではブラックホールを生成できるって事かい?」と雫斗の話を聞いた美樹本陸玖は目を輝かせて聞いてきた。星士斗と姉の瑠璃と共に来年、探索者養成学校を受験する予定なのだが瑠璃の双子の陸玖も本来頭が良い。探索者というより研究者肌の雰囲気が強いのだが、どちらかと言えばマッドサイエンティスト的な思考の持ち主で、多少独善的な言動をするときが有る。


 「今の所排出時限定ですが。・・・ただヨアヒムがそう話しているだけなので、確認し様にもどうやって調べたら良いかも分かりませんけどね」と雫斗が自分で話しておいて、眉唾的な事を言うものだから、頭の中でヨアヒムが盛大に抗議の声を上げる、そのうるさい事うるさい事、叡智の書としての矜持なのか嘘つき呼ばわりは禁句の様だった。


 「驚いたな、収納内の排出時限定とはいえ加速と圧力が尋常じゃ無いな。・・・しかし接触収納の可能性の底が見えないな」と陸玖がワクワクしながら話すと。


 「先輩、陸玖先輩。そんなでたらめな事をやるのは雫斗ぐらいのものですよ」と弥生が身の蓋も無いことを言うと。


 「其処は雫斗の長所だよ、何にでも挑戦してみて限界を探る。いいじゃ無いか逸れこそ研究者・・ゲフン。探索者の真の姿だ、君たちも見習うと良いよ、深層に赴くことが必ずしも正解ではない事を、雫斗は証明して見せたからね。」と陸玖とが感心して言うと。


 「しかしその事を発表すると世界が変わるな、今まで膨大な予算で加速器を設置していたが、雫斗一人で賄えてしまう、しかも分子レベルで高圧力と加速が出来るとは。待てよそうなると核融合も出来るんじゃ無いか?ふふふっ夢が広がるな。・・・これは秘匿して秘密裏に実験した方が良いのか?」と多少顔をニヤ付かせて続けてブツブツと何か話し始める。


 「いい加減に現実に戻りなさい、他に注意することがあるでしょう?」と瑠璃に頭を小突かれて我に返る陸玖。


 「そうだった。雫斗、原子が崩壊してブラックホール化するとなると放射線が心配だな、多分スキルだから大丈夫だとは思うが調べるまではその圧縮は禁止だ。今日この後協会に報告しておかないといけないしね」と陸玖とが収納の物質に対しての加圧の禁止を宣言すると、「え~~~」と周りが不満を言い始める、出来るとなると試してみたいのは人情というものだ、居合わせている全員が習得したがっているのは当然といえる。


 「安全を確かめるまでだ、そんなに時間は掛からないよ。ま~~一日二日で出来る様になるとは思えないから、試してみる分には良いだろう、ただし火炎弾迄だ」と試みる分には良い事になった。


 「他に何か無いだろうね?」と陸玖から多少非難じみた口調で聞かれた雫斗は、こころの中では恐慌状態になっていた。


 最初は雫斗も放射線の事を考えてこれはやばいと思っていたが、ヨアヒムが「スキルも万全ではない、使用者によっては万能にもなるが。無知は身を亡ぼす、その為その身に危険が及ぶことを良しとせん。安心せよ主よ、接触収納や保管倉庫からその身に害が及ぶものなど出はせん」と言われたことで安心して、報告をしていなかったのだ。


 そして陸玖が核融合とほのめかしたことで思い至った事がある。雫斗の核融合のイメージは発電で平和的な発想だったのだが、確か人類最大威力の核爆弾は水爆で、起爆に核分裂反応を使いはするが、本体は重水素を使った核融合だったはずじゃ無かったかと。


 もしかすると,雫斗は意図せずにダンジョンを熱核爆弾で崩壊させてしまっていた事に思い至りガクブルしていたのだ。


 声を震わせて「イイエ、ナニモ、アリマセン」と棒読みで答える雫斗の動揺は全員に伝わっていた。

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