第76話  ダンジョンを探索すると、知能が上がるかも?(その3)

 両親に鑑定のスキルが有る事を打ち明けたその日は、家族間での鑑定の検証を始めたのだが、如何せん両親とゴーレムの良子さんに加えダンジョンカードを取得していない香澄では検証の精度は限られる。その日は鑑定することを相手が承諾していないと、相手のステータスが見えない事と、カードを取得していない香澄は鑑定してもステータスが出なかったことくらいしか分からなかった。


 後日赤の他人を勝手に鑑定するのは憚られるので、家のじ~様である俊郎爺さんで試した所、やはりステータスが表示されなかった、カードを向けられてぶつぶつ唱えている孫を見咎めて。「なんじゃ、わしを鑑定しとるのか?」と聞いてきた俊郎爺さんに驚いて聞いてみると、どうやら母親の悠美に長老会として相談を受けたとの事だった、ちなみに相手に黙って鑑定しても効果は無いことがこの時分かったのだ。


 「ねえねえ、私を鑑定してみて」と野島京子一つ上のが恭平に話しているのを聞き我に返る雫斗。しかしそれを聞き咎めた百花が止めに入る。


 「やめた方が良いですよ、京子先輩。鑑定されると自分のスリーサイズまで知られてしまいますよ」と諭すと、「それはいやね~」と京子が自分の体を見て躊躇する。


 そのやり取りを聞いていた雫斗は、カード鑑定を取得したその日、百花からシートアッパーを顎に貰った事を思い出して無意識に顎を擦っていると、それを見咎めた百花が「何よ?」と憤るが、雫斗は「べつに、・・何も・・・」と視線を外して言葉を濁す。


 「カードを使った鑑定はある程度わかったが、そもそも鑑定のスキルとは何だい?しかも複数あるみたいじゃないか?」と、雫斗と百花のやり取りを不思議そうに気にしながらも星士斗が雫斗に確認してくる。


 「僕も其れに関しては良く分かっていないんです、多分ランクアップのしたせいだと思うんですけど、スキルは使うと成長していくみたいなんです」雫斗にしてもまだ分からない事ばかりだ。一人で検証するにはどうしても無理がある、ここは他の人がスキルを取得して確認して行くしかない。


 そうなのだ、カードに表示されるスキルには数字が付いているのと無いのとに分かれている、その数字が上がるに従ってスキルの使い勝手が良くなっていくのはスキルを使ってきた雫斗の心からの実感である。


 当然、百花達にもカード鑑定から鑑定スキルが使えるようになった状況を自分の考察とヨアヒムのアドバイス?を交えて伝えているが、察知系のスキルと鑑定の相性が良いといわれても良く分からない事に変わりはない。


 「しかしここ最近のダンジョン攻略の新発見には驚かされるな。しかも一階層で全てが雫斗が見つけた事だとはね」星士斗が褒めると。


 「だいたい、スライムだけを倒そうなんて他の人は考えもしないわ、しかもその事でスキルの取得の幅が広がるなんてとんだ盲点よね」瑠璃が、以前百花が言っていた事と同じことを言う。


 「そんな事よりステータスよ、どうなのやっぱり学力に影響は有るの?」と聞いてきた、雫斗が話した内容に驚愕して目的を忘れていたが、ようやく思い出した様だ。


 「その事なんですが、確かにここに書いた様にステータスの表記に知力の項目は有りますが、それが直接学力と結びつくかというと良く分かりません。アルファベット表記ですがAが最高なのかさえ分からないんです、ただ言える事は感覚として記憶力や理解力は上がっていると思います」と雫斗は正直な気持ちを伝えた、感覚的な事ではあるが、憶測だけよりかは良いと思ったからだ。


 「そうね、私も以前より学力テストの順位が上がったわ」と百花も肯定する、恭平や弥生も同じ気持ちらしく頷いている。


 「な~~、言った通りだろう。やっぱりダンジョンでステータスを上げた方が試験勉強には良いって」と星士斗先輩が嬉しそうに話す。


 「何を言っているの、雫斗達はちゃんと勉強しているから学力が上っているのよ。貴方はダンジョンでステータスを上げたいだけでしょう?それだと受験勉強にはならないわ」と瑠璃先輩がダメ出しをする。確かに下地があって学習能力が上っても、勉強しなければ意味がない。頭が良い=勉強が出来るとは限らないのだ、学習とは文字どおり学ばなければ身に付かない。


 「そうは言ってもよう。このままだとじり貧だぜ」と原因は星士斗先輩の学力の低さから、来年受験する予定の探索者養成学校の試験に受かる見込みがない事なのだが、星士斗先輩がさも自分には関係のない事のように言う。


 「分かっているわ、星士斗は勉強する時、集中力が続かないから、これまで時間が限られていたけど、此れからはダンジョンで息抜きが出来るから、勉強する時の集中力も上がるでしょう。今日から放課後ダンジョンでスライムを倒した後、私か星士斗の家で受験勉強しましょう」とこれまでの受験勉強に加えて新たにダンジョンの探索を追加する事を宣言する瑠璃先輩。


 「えええ~、ダンジョン探索と受験勉強を一緒にやるのか?」星士斗の思惑とは違う時間割を決める瑠璃に、絶望の眼差しを向ける星士斗に対して。


 「当たり前でしょう、貴方自分の置かれた状況を理解しているの?。合格が絶望なのよ、千いえ万に一つも可能性が無いのよ、此処はダンジョンで知能と集中力を上げるしか受かる見込みが無いのよ。藁よりましでしょうけど、縋りつく事が出来るものなら何でも掴まなきゃいけないわ」と真剣な表情で瑠璃が言い放つ。ひどい言われようだが、これまで星士斗の勉強を手伝ってきた瑠璃の本音らしい、彼がどれだけ受験勉強が・・・いや勉強自体が苦手だったのかが良く分かる台詞だった。


 取り敢えずスライムを倒さなければ始まらないので、今日は全員で沼ダンジョンへ向かう事にした



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