第75話  ダンジョンを探索すると、知能が上がるかも?。(その2)

 雫斗が学校に着くと、早く家を出た事もありまだ誰も来ておらず自分の机に座ってクルモとまったりしていると、今年中学に上がってきた薗田すみれと岩貞由香里が連れだって教室に入ってきた。


 雫斗の転がした鉛筆を、クルモがジャンプして捕獲するという何とも変哲もない遊びに興じている二人を見て。


 「きゃや~~~!。雫斗先輩!!、その子どうしたんですか?」と岩貞 由香里が飛びつくように机に齧りついてクルモを見つめてきた、叫び声にビクッとして動きを止めたクルモと至近距離で見つめ合う由香里。雫斗は彼女の性格を知っているので、突然の叫び声にも平然として受け答える。


 「猫先生と同じゴーレム型のアンドロイドだよ。ただ魔核自体が物凄く小さいので小型化できたんだ」と取り敢えず説明を端折って二人に話をすると。


 「えっ?ゴーレムの魔核って一種類じゃ無かったんですか?小さな魔核って初めて聞きますけど?」と疑問を投げかける園田すみれ。最近、探索者登録して二人でダンジョンに入り始めている様で、色々調べているみたいだ。


 猪突猛進の由香里と石橋の安全を確かめるのに叩きすぎて亀裂を入れるほど用心深い園田すみれは、同学年で気が合うのか、いつもつるんでいる。


 「今まで、口止めされていて言えなかったけどね。今朝お袋から話しても良いって許可をもらってね、クルモの事も説明するのに困るから話していい事に成ってね。多分今日の放課後に星士斗先輩から呼び出しが有るはずだから、その時にまとめて説明するね」すみれと雫斗が情報交換している横で見つめ合う二人。まるで真剣勝負如く、お互いの隙を伺っていた由香里とクルモだが、根負けしたのは由香里の方だ。


 「雫斗先輩。この子触っても良いですか?。名前は?」と矢継ぎ早に聞いてきた、どうやら触りたくてうずうずしていたみたいだ。


 「名前はクルモって言うんだ。由香里ちゃん掌を上に向けて近づけてごらん」と雫斗の言葉を肯定と受け取ったクルモが、言われた通り近づけてきた由香里の掌にぴょんっと飛び乗って。


 「ご主人のご学友の方ですか?。クルモと言います、よろしくお願いします」と丁寧に挨拶すると。


 「くぅ~~~。カタイ、かたいよクルモちゃん!!ここは。”クルモだぴょん~~、シズちゃんのお・と・も・だち?。よろしくね~~”ってか~~ルく言うところだよ。でもかわ~~~いい、お持ち帰りしたいい~。でも先輩のモノだし。ああっ?ゴーレムって自我が有るんだった、私になついてくれないかな~~、・・・・・」と危険な思考の海に飲まれだした由香里に、若干引き気味のクルモが自分の身の危険を感じて”このままで良いのか?”と雫斗をチラ見する。


 「こらこら、クルモはダメだよ僕の友達だからね。由香里ちゃんも自分で魔核を取ってきて作って貰ったらいいよ」そう言う雫斗に驚いてすみれが聞いてきた。


 「えっ!、この子の魔核って雫斗先輩が取って来たんですか?。・・・ちなみにこの子のお値段っていくらくらいだったんですか?」雫斗がクルモを作って貰った値段を遠慮がちに言うと、我関せずとクルモを人差し指で撫でようとするも、クルモにブロックされて撫でられずに攻防を続けていた由香里が。


 「えええ~~、そんなにするんですか!!」と絶望的な声と共に落ち込んでいく。


 「まー、試作品だからね、小型化にかなり苦労したみたいだし、量産化されるともう少し安く成るとは思うけどね。ちなみにだけど、魔核自体は一階層でも取得出来るよ」と雫斗が今後の展望を話すといくらか安心したようだが、どの道まだダンジョンが出来て5年しか経って居ないのだが、此の世界の変わりようでは後2~3年で社会の仕組みががらりと変わっても不思議ではない。


 そうこうするうちに、百花達も登校してきてクルモの義体の事や今後のダンジョンの在り方について盛り上がったのだが、授業が始まる事も有り残りは放課後で話し合う事に為った。


 そして放課後、予想通り星士斗先輩が呼んでいると三年生の芳野冬美が迎えに来た。雫斗達は、一年と二年の全員でぞろぞろと三年生が使っている教室へと連れだって移動してきた。


 「おいおい、どうしたんだい!。全員集合とはただ事じゃ無いな」と下級生全員で来たことに驚いた星士斗は多少警戒して聞いてきた。母親からすべて話しても良いと許可を貰っている雫斗は多少余裕があるのか、警戒している星士斗を茶化す。


 「ふふふっ・・、先輩方の圧迫尋問に対抗するために全員できました。これで気持ちで負ける事はありませんよ!!」と言った途端、後頭部をハタかれる。


 「煽って茶番を誘うのは止めなさい。この後ダンジョンに行くんだから早く終らせないといけないでしょう」と雫斗と星士斗の楽しみをつぶしにきた百花。


 チームSDS(雑賀村ダンジョンシーカー)のメンバー全員がようやく鑑定のスキルを取得して、昇華の路を探し当てる事が出来る様になっていたので、本音で言えばこの様な報告会に参加する暇があるならダンジョンへと入りたいのだろうが、此処は自重した形になる。


 頭を叩かれて、星士斗との茶番をつぶされた雫斗だが、時間が惜しいのは雫斗も同じなのでさっさと始める事にした。


 雫斗の肩に乗っていたクルモを瑠璃先輩が目ざとく見つけると、今朝の由香里と同じ状態に成り、質問攻めと触りたい攻撃で多少の時間のロスは有ったが、取り敢えず話を終えてからと言う事で進める事にした。


 「今朝支部長から話しても良いと許可を貰ったので全部説明しますから、ちょっと待っててくださいね」と言いながら雫斗は黒板に今まで分かった事柄を書き出していく。


 最初はカードスキルを書き出していき、接触収納のあたりでは皆が知ってる事も有りざわつきはしないが、スライム1万匹の討伐でスライムの固有スキルである保管倉庫と物理耐性が取得できる可能性に言及した辺りでががやがやと騒がしくなる。


 ライム10万匹の討伐でカード鑑定使えるようになる事や、一階層に居るベビーゴーレムとカメレオンサラマンダーの存在と、鑑定スキルで見つける事の出来る隠し通路(昇華の路)の辺りでどよめきとなる。


 その事は雫斗の予測の範囲なので最後まで書き出して「何か質問は?」と質疑タイムに突入していく。


 ざわついていた教室内が一瞬静寂を取り戻すと、「「「はい!はい!」」」と全員が一斉に手を上げる、我先にと勝手気ままに質問してこないのは教育のたまものではあるが、自分を指名しろとの気迫が半端ではない。取り敢えず呼び出した本人から指名する「はい星士斗先輩どうぞ」。


 「このカード鑑定とは鑑定スキルと思っていいのかな?」と一番気になる事柄から聞いてきた。雫斗は予測して居たので今まで分かった事も含めてどの様に説明するか考えてきていた。


 「これは僕の所見なんだけど、Dカードを取得をすることでダンジョンでの活動の初歩的な技術の習得が出来る様になるのだと思う。収納にしても鑑定にしても無いより有った方がダンジョン攻略の難易度が段違いだから。ちなみにだけど良く分からないというのが今の所の見解です。鑑定のスキルの取得自体はスライム10万匹の討伐で間違いないですが、覚醒するとなるとカードを透かして見るという条件が居る様です。鑑定のランクアップと融合はまだ良く分かって居ません」と雫斗が考えなしに爆弾発言したものだから、教室内の喧騒が一層激しくなる。


 「どういう事よ?。 鑑定のスキル自体が変化するって事」と瑠璃先輩が驚いて聞いてきた。


 「それも良く分かって居ません、僕の場合だと鑑定のスキルと気配察知のスキルが合わさって魔物を直接見る事で鑑定できるようになりましたが、物や人物は相変わらずカード越しに見なければ分かりません。もしかしたら他の人は違う形でスキル同士が融合するかもしれません。とにかく検証はこれからなんです」と雫斗が言うと。


 「確かに、まだ分からない事だらけだと言う事は分かった、しかし発動する条件は同じだと考えていいのかな」と星士斗先輩が確認する。


 「それは検証済みです、百花も弥生も恭平も、保管倉庫、物理耐性、鑑定と僕がスライムを倒して取得したスキルはすべて習得できましたから。ただカードを使った収納もそうですが最初は使い勝手が良くありません」と雫斗。


 「そうね、カードの収納だと触って無いと駄目だし重量にも制限があるわね、カード越しに見る鑑定も煩わしいわね」と百花が言うと、残りの教室に居る人達も納得した様に頷く。ここに居るメンバー全員が接触収納を使えるのだ、しかし鑑定が出来ると言う事が今まで無かったわけで、それが出来るだけで凄い発見だと他の人は思っているのだが。


 「後カード鑑定だけど、自分の鑑定は別にして、他人を勝手に鑑定できません。これはうちの家族で確かめたんだけど、自分が鑑定のスキルを所持して居る事を伝えて、相手が鑑定されることを承諾していないと使えないみたいです。つまり知らないうちに鑑定される事が無い様に出来ているみたいなんです。後カードを取得していない人はステータスが無いのか見る事が出来ないみたいだね」と雫斗が続けて言うと、カード鑑定を取得しているチームSDSのメンバーと他の人で検証が始まる。雫斗は事が収まるまでの間、家族で行ったカード鑑定の検証を思い出していた。

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