第74話  ダンジョンを探索すると、知能が上がるかも?(その1)

 翌朝、雫斗がリビングに降りていくと、香澄とミーニャが食事の準備が出来るまでの間、ソファーで話をしながら寛いでいた。

 「おはよう。香澄、ミーニャ、もう起きていたんだ、早起きだね」雫斗の声に振り向く二人と一匹。雫斗の肩に乗っていたクルモと香澄の肩と頭をせわしく移動していたモカが目を合わせた途端、互いにプイッと顔を背けてそ知らぬふりをする。


 その仕草が可愛らしいので多分仲が悪いわけでは無いと思いたいが、同じ製作所で生まれた兄弟なので対抗意識でもあるのだろうか?。

 此れから同じ家で暮らすことに成るのに、このままで良いか正直分からないが此の事は同じゴーレムの良子さんに丸投げすることにする。


 「おはよ~~おにーちゃん。香澄ね、お兄ちゃんにお礼が言いたかったの。モカを連れてきてくれてありがとう~ね、大事にするね(^^♪」と笑顔で、頭に乗ってソッポを向いていたモカをムンズと掴み雫斗に見せてきた。


 「お礼の言葉なら昨日貰ったよ。気に入ってくれて嬉しいよ」と雫斗は声をかけると香澄の頭をワシャワシャとかき回す。掴まれたモカは、”グエ~~”と言いながら潰されると抗議の声を上げるが、たかだか五歳児に握られて潰れる様な義体ではないので此処は無視することにした。


 「モカも、香澄と仲良くなれた様で嬉しいよ」と雫斗が声をかけると。

 「べつに、おいらご主人の事を気に入らない訳じゃ無いぜ。初めて会った時のおいら成りの愛情表現さ!!」とモカが答えると。


 「相変わらずのへそ曲がりですね。昨日は香澄様に”チンクシャ”とか言っていませんでした?」とクルモがチャチャを入れる、それを聞いたモカが。


 「ふん!!。優等生様には庶民のユ~~モアには縁がないらしいぜ。”好きです”、”愛しています”って言うだけが好意の表現だと思って貰っちゃーいけないぜ。世の中にはツンデレっていう高尚な表現が有るんだぜ」。と言い返す。


 「ふっふふ~~、へそ曲がりの変人(変ゴーレム?)の言い訳にしては的を射ていますね。じゃ~~あなたが私に対して言う嫌味も、私への愛情表現と受け取っても良いんですね?」とクルモが切り返す。


 「けっ。これだからお利口さんとは付き合えないぜ。いいか世の中には本音と建て前っつ~~微妙な物事が存在するんだぜ。それを理解できない石頭じゃ~此れから苦労する事に成るぜ」とモカがクルモに忠告する。


 漫才の様な掛け合いで、言い合いを始めたクルモとモカを、喧嘩していると勘違いした香澄とミーニャが二人を止めに入るが、雫斗は案外二人は気が合うのかも知れないと思い始めていた。それよりも驚愕したのはクルモとモカの知識の多彩さに唖然としていた。


 クルモとモカはまだ此の世界に生まれて数日しか経って居ないのだ、それでこの世界の事をある程度理解しているとは、ゴーレムとしてのポテンシャルなのか、はたまたインターネットという知識の宝庫に接続できるAIとしての強みなのか分からないが、もしゴーレム型のアンドロイドが大量に生産されて、ある時人類に反旗を翻したとしたら、たちまち人類は駆逐されてしまうのではないかと朧気ながらも不安を感じてはいても、元来雫斗は楽天家である、気のいい隣人が出来たぐらいの感覚しか持ち合わせて居ない。


 雫斗はモカと激論?を交わしているクルモをミーニャに預けて、「顔を洗ってくるね」と洗面所へと向かって行った。顔を洗い終えてリビングに戻ると、丁度朝食の用意が出来たみたいで皆で食卓に座って朝食を食べていた。


 「おはよう母さん、良子さん。あれ?父さんは居ないみたいだけど、もう畑に行ったの?」と雫斗は不在の父親の海慈の事を聞いてみた。現代の農業はAI搭載の農作業専用の機械が大まかな作業をこなすとは言っても、朝が早い事には変わりがない。


 「そうね、収穫が近いから気になるみたいね。それより早く食べて頂戴、今日は朝一で山田さん達との会議が有るんだから」と悠美は早く食べろと言ってきた。


 雫斗は慌てて自分の席に座ると、「いただきます」と言って食事を始める。途中で今日星士斗先輩に鑑定や保管倉庫のスキルが有る事を打ち明けてステータスが存在している事を話すのを思い出して、悠美に聞いてみた。


 「母さん、保管倉庫のスキルと鑑定のスキルの事だけど、まだ緘口令は解けないの?」。雫斗の問いに「どうしたの?」と不思議そうに聞く悠美。

 雫斗は先日の星士斗先輩とのやり取りを話して、このままでは先輩の締め技の餌食に成りそうだと訴える息子の悲壮感漂う顔を見て吹き出すと、呆れた様に言う。


 「学校の生活も大変ね、・・・いいわ。もうそろそろスキルの存在を発表するころだし、話しても問題ないわよ、そもそもうちの村では公認の秘密としてまかり通っているわよ」と身も蓋も無いことを言いだした。


 「うちの長老達の事だから分かるでしょう?、老人会のレクレーションとか言って、年寄り連中を集めてスライム狩りに勤しんでいるわよ」と悠美が困ったものだと、呆れた様に言う。


 最近の村のダンジョンの一階層のスライム討伐の予約が、軒並み一杯だったのはそう言う事だったのかと理解した。確かにこの村の人口を考えたら、接触収納の取得をするにしては三ヶ月が過ぎて今頃ピークが来るわけがない。


口止めされていた事を守っていた雫斗にしたら馬鹿みたいな話しだが、ここに来てダンジョンに入り浸っていた弊害が出てきた。つまり現在の世間の動きが分からないのだ、腑に落ちない表情の雫斗に悠美が言う。


 「星士斗君も頭のいい子だから、爺様達がダンジョンを徘徊し出したのを見て、何かを感じたのでしょうね。とにかくこの村に関してはスキル取得の条件を解禁する事にするわ」。とあっさりと雫斗の当面の問題を解決した、昨日寝入るまで悶々と星士斗先輩にどう言い繕うかと考えていたのがバカみたいだが、取り敢えずこれで障害がなくなった事にホッとして急いで食事を終えて家を出る雫斗だった。

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