第72話  ダンジョンの意外な恩恵と、その役割?・・・。(その2)

 「雫斗、鑑定ってスキルの事かい?そんなスキルは聞いた事ないぞ。しかもステータスとはどういう事だい?」うさん臭げな眼をして聞いてきた星士斗先輩に、雫斗は“しまった!!”と顔をしかめてどう言い作ろうかと一瞬考えたのがいけなかった。コブラツイストならぬ星士斗ツイストに絡め捕られてしまった。


 捕まったが最後、抜け出せたものは居ないと豪語していた星野先輩の締め技に、苦悶の声で言い訳を絞り出す雫斗。


 「ぐえええ~~、一般的に~~~。あるかも~~~知れない~~~。スキル~~~、じゃないですか~~~。」そこまで聞いた星士斗が締めを緩めて聞いてきた。


 「ダンジョンが出来て5年、これまで幾度となく試してみたか分からない、ステータスの表示だが、誰一人として成功した者は居ない。もはやそんなものは存在しないのだと自分に言い聞かせてきたが、君は確信めいた言葉で話していた、・・・・何か知っているのではないか?」


 ギクリとした雫斗は思い出した、この人は百花と同類なのだと。感の鋭さでは他の人の追従を許さない程の人なのだった。確信は持てなくても、ほぼ正解を導きだしている辺り人間業ではない。しかしその事を話してしまう訳にはいかない、母親に止められているのだ。


しかしこの局面を打開するには、話さなければいけないのか?と覚悟を決めたその時、そこへ救世主が現れた。


 「あ~~、やっぱりここに居た。自分で来年は”探索者養成校”に行こうと誘った本人が、ずる休みをするなんて許せないわ」と言いながら近付いて来るのは星士斗の同級生で美樹本 瑠璃、その後ろから双子の弟の陸玖が笑いながら付いて来ていた。


 「あ~~、いけないんだ。星士斗ちゃん、後輩をいじめていると内申が最悪な事に成っちゃうよ。校長先生が言っていたじゃん、日ごろの行いが将来を決めるって」。


 身長192センチ、体重102キロの巨漢の星士斗先輩を”ちゃん”付けで呼べるのは美樹本姉弟と後数人しかいない、幼い頃から一緒に育ってきている強みだ。


 星士斗は流石に勉強をサボっているのを咎められて後ろめたいのか、雫斗への拘束が緩んだそのすきに、抜け出した雫斗は一息を付いていた。


 「べ、べつにサボっていた訳ではないぞ。これも受験勉強の一環で机の前に居て暗記で知恵熱を出したり、計算問題と格闘するだけが学習では無いんだ」と星士斗が、さも正論を話していますみたいな事を言ってはいるが、その発言に自信がないのか言葉に力が無い。


 「何、馬鹿な事を言っているの、さ~~ぁ今までサボっていた分みっちり勉強してもらいますからね」。と瑠璃が身長をせいいっぱい伸ばして星士斗の耳をむんずと掴みそのまま引きずって行く、星士斗は”痛い痛い”と言いながらも素直に引きずられていくのは、瑠璃と星士斗の力関係が良く分かる出来事だ。陸玖が「邪魔してごめんね~~」と言いながら瑠璃に引きずられていく星士斗の後ろから付いて行って結局、鑑定やステータスの事は有耶無耶になり事なきを得たのだった。


 その日の事を思い出して、鑑定や保管倉庫のスキルが有る事が探索者協会から発表された時、来栖先輩からのお仕置きを考えると、この事は母親の許可が無くても話した方が良い気がして来た。


 どの道、遅かれ早かれ知られるのなら、自供した方が罪は軽くなるし、締め技5連発は正直勘弁してもらいたいと思っている雫斗だった。


 考え様に寄っては、探索者養成学校の学力の試験に絶望的な来栖先輩が、ダンジョンの恩恵? の御かげで試験に受かったと成れば、それはそれでダンジョンで魔物を倒すと身体的にも知能的にも向上する事の証明にも成るし、良いのではないかと考え始めていた雫斗だった。


 物思いにふけっていた雫斗だったが、気が付くと目の前で心配そうに顔を傾けてのぞき込んでいるクルモの顔が有った。のぞき込むというより、小さい彼の場合見上げているのだが、大分長い時間、考え事をしていた様だ。


 「大丈夫ですか?ご主人様」と心配げに、見上げながら聞いてくるクルモのカワイイい事カワイイ事。明日学校で先輩たちにスキルの事を白状することを決めていた雫斗は、ベビーゴレムの魔核からこの様な小さなかわいらしゴーレムを作ることが出来る事を伝えて、お仕置きの厄災を回避しようと目論見始めていた。クルモを見せた途端、瑠璃先輩辺りにクルモがこねくり回される未来を想像して多少胸が痛むが、ご主人と慕うクルモに甘えて、人身御供の供物となってもらう事にした。


 「いや、少し考え事をしていてね。もうこの部屋の探索は良いのかい?」クルモの体を指でさすりながら、答えると。クルモは少し、くすぐったそうにしながら雫斗の指を撫で返す。


 「はい、大まかな物の配置は把握しました、自分の居場所が分からないと落ち着かないものですね。これはゴーレムとしての本能でしょうか?」とクルモが聞いてくる。まだ生まれて日の浅いクルモにとって見る物全て初めての事なので、好奇心が抑えられないのだろう、ただ2,3歳児特有の、“何、何故”攻撃が無いのは嬉しい事だ、いちいち説明するのはいくら雫斗が優しいからとって、うんざりする事柄には違いがない(それでも雫斗は説明するだろうが)。


 「う〜ん、どうなんだろう?誰でも初めての場所は緊張するし、落ち着かないからね。ま〜自分の居場所を確かめるって言うのは、生きている物全てがする行為だし良いんじゃ無いの。それより、クルモは産まれてそんなに日にちが経っていないでしょう?初めて見る物を認識出来るのは、ゴーレム型アンドロイドの横の繋がりのせい?」。雫斗は前にゴーレムの良子さんからチラッと聞いた事を尋ねてみた、ゴーレム型アンドロイドは、同じゴーレムの魔物とは違う強みがあるみたいなのだ。


 偶然とはいえ人工知能と融合した事により、インターネットに容易に繋がる事ができる為、ネットを介した横の繋がりが、情報の共有として物凄く重宝するのだとか良子さんから聞いた事があるのだ。詳しく聞こうとしたら、良子さんに上手い事誤魔化されたされたのだが、雫斗も聞いてはいけないタブーなのかと、その時は詳しく聞けなかったがクルモなら聞きやすそうだ。


 「ゴーレム専用の情報サイトの事ですか? 自分の事を認識した直後に先輩ゴーレムから教わりました。何でも知識を得る時間の短縮になるそうです、先輩達の時は初めての事もあり手探りで大変だったそうですが、今ではほぼ全てのゴーレムの情報の共有源に成っているそうです」。とクルモは事も無げに話す、聞きにくい事を聞いている自覚の有る雫斗の気持を、知っているのか気にして居ないのかは分からないが、どうやら秘密のサイトではない様だ。


 「え~と、知られても構わない情報なのかな?前に良子さんに聞いたときは、はぐらかされたのだけれど」と言いよどむ雫斗にキョトンとしてクルモが答えた。


 「ああ~、それはですね。多分雫斗さんに気を使ったのだと思います、ゴーレム専用のSNSや書き込みサイトには、嘘や欺瞞、扇動やデマ、思い込みという書き込みは一切ありませんから、そもそもたった一人の書き込んだ発言を信じるなんて、私達ゴーレムからしたら考えられません。思考を放棄するなんて知性を捨てる去る様なものです」と生まれて数日のクルモからの人類に対するダメ出しに赤面する雫斗だった。


 確かにインターネットの普及で、知りたい情報が簡単に手に入りはするが、そこには嘘の情報やデマが紛れ込んでいる事は間違いではない、その情報を鵜吞みにして、さも自分が情報源だと気軽に投稿する人は、言い換えれば洗脳されているようなものだろう。


 自分の頭で考える事を放棄した時点で、良い意味で在れ悪い意味で在れ、その嘘の発信者の奴隷と化している事に気が付かない、大げさに言えば人間という種を投げ捨てる様なものだろう、ゴーレムとAIの混合種という新しい知性に指摘されて、改めて雫斗自身も気を付けようと気を引き締めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る