第69話  モフモフは至高の存在であると自負すれども、カワイイの定義は如何なるものか?。(その6)

 「しょうがないわね、・・・ミーニャちゃんいらっしゃい、皆に紹介するわ」と悠美がミーニャを呼ぶ。子供たちの中心で質問攻めにあっていたミーニャがこれ幸いと寄って来た、当然子供達も付いてくる。


 悠美とミーニャを中心に人の輪が出来上がる、物心つく頃から人間という物は危険な存在なのだと、母親を始め獣人のコロニーの大人達から口すっぱく言われ続けて居るミーニャにとって、この世界の人達にこんなにも歓迎されている事には、戸惑いを通り越して感動を覚えていた。


 「この子がミーニャちゃん、大きな獣の姿だけど言葉を話せるし礼儀正しいから、私達と同じだと思って接してね。猫を撫でる様に勝手に触ってはだめよ、彼女は幼い女の子じゃ有りませんからね、特に男性は気を使う様に」と悠美がミーニャを紹介した。確かにミーニャは“撫でてもいいか”と聞かれても拒否しそうにない、悠美や海嗣も頭を撫でる程度で全身を触りまくる事はしなかった、それはミーニャに遠慮して居るわけではなく、彼女を1人の人間として扱って居る様だ。


 ミーニャの紹介も終わり、各自が自己紹介と質問を始めると、ミーニャはアワアワしながらも丁寧に答えていく、しかし次第に言葉が詰まる様になってきて終いには泣き出してしまった、周りの大人達がオロオロするなか香澄が近づいてきて「どうしたの?」と聞く。


 「私はヒック、この世界のヒック、人達に良くして貰ってヒック、私だけがこんなに幸せで良いのかと思うと、ヒック。お母さんや他のみんなに申し訳なくて」と泣き始めた。


 詳しい話を聞いた訳ではないが、ミーニャ達の世界で、彼女達が人族からの迫害を受けて居る気配は感じていた。しかしミーニャの話に悲壮感がなかった為、それ程深刻な事だとは思っていなかった、どうやら間違っていた様だ。


 「大丈夫だよ、お兄ちゃん達が助けてくれるから」香澄がミーニャの首に抱きついて一緒にもらい泣きしながら話す。ミーニャ達の境遇の意味は分からなくても、困って居る事は理解出来たみたいだ。


 「そうよ、今は何の約束も出来ないけれど、私達に出来る事が有るとしたら支援は惜しまないわ。そうよね、皆んなもそうでしょう」悠美がここに居る雑賀村の住民に、ミーニャの境遇に対するこの村の在り方を確認する。一応小さな村とはいえ政治に携わるものとして、時節を見る目はある。これからの政府との交渉に対して村の住民の協力は欠かせないのだ。


 「そうね、この村で何ができるかは分らないけれど、やれる事は最大限努力するわ。例え誰かが貴女を拘束しようとしても、私達がまもるわ」と一十華が肯定すると、他の面々も同調する、ダンジョンが出来てからここ5年で住民の考え方も変わって来た。


 日本政府の在り方に疑問を持って居るのだ。いまだに中央集権政治を強行しようとして色々な政策を打ち出してきたが、悉く裏目に出ていた、そのほとんどがダンジョン関係の条例だ。


 ダンジョンからもたらされる、取得物やスキル、ポーションといった恩恵は計り知れない経済効果を生み出したが、如何せんダンジョンは危険と隣り合わせだ、たとえ一階層といえども油断は出来ない、最近は特に減ったとはいえ、今でも年に数件は行方不明者が出るのだ、特に中年層から高年層にかけて、初めてダンジョンに入る人が、帰って来ない事例が多発したのだ。


 その事から、若年層を中心に探索者を募集することになっていったが、そうなるとダンジョンに入れる人と、入れない人達という構図が生まれることに成って来る。


 当然ダンジョンで探索してくる人達の力と意見が強くなってくる、いくら政府が権力でダンジョンの恩恵を摂取しようとしても、取りに行く人が居なければどうしようも無いのだ。


 その事から探索者協会の設立は、探索者の統制と探索者と政府のダンジョン庁との間を取り持つために設置されたが、主に探索者側の立場に重きが置かれている、東京都にある日本探索者協会の本部の理事は日本政府から出向して来た人達が居て政府寄りだとはいえ、都市部を中心とした地方の協会の方が力が強いのだ。


 何かあれば、ダンジョンからの恩恵だけで、その都市群だけのコミニティーで生活が成り立つのだから、今の住民は別に日本政府という行政など要らなく無いか?と思っているのだ、つまり都市に関しては横一列で大都市だの地方都市だのの、格差は無いと考える様になってきていた。


 「さー、あなた達は部屋の片付けに行きなさい、その為に来たんでしょう?お母さま方は家に帰って何か一品の食糧と、飲み物持参で戻ってきて。今日はここでミーニャちゃんの歓迎会をしましょう」と悠美が宣言すると、子供たちが「わ~~~、今日はバーベキューだ~~」と歓声を上げながら、ミーニャの部屋の片付けに2階へと上がって行った。


 片付けた後、あ~でもない、こうでもないと、部屋を飾り付けた後階下に降りると、すでに歓迎会の準備が出来ていて、そのままパーティーへとなだれ込んだ。


 完全な立食パーティーで、幾つかのテーブルとベンチだけが置かれていて、”さー、食べなさいと”手渡されたお皿とフォークで、ベンチにちょこんと座り器用に食べているミーニャを見て。


 「きゃ~~、かわいい~~」、「器用に食べるのね、すごいわ~~」、「う~~ん、お持ち帰りしたい」と周りからの歓声に戸惑いながらも、ミーニャが幸せそうにしている姿を見ると、此れで良かったとつくづく思う雫斗だった。


 しかし、世界で初めてダンジョンの中での揺れを報告したのだ、政府がどの様な決定をするかで此れからの雑賀村の行く末が決まる。そう思っていた雫斗だったが杞憂に終わった。


 数日後、ダンジョン庁からの調査官は数名程度で、どうやらダンジョンの揺れは大したことが無いとされた様だ。


 それよりも、保管倉庫のスキルや、鑑定のスキルの取得条件の報告が遅れた事を重要視していて、悠美が呼び出されて詰問されたが、スライムを簡単に倒せる花火の例を挙げて、”理事の方からの、情報が洩れる事への対応だと”言い切った。それには政府から出向してきた理事の方々の苦虫をつぶした様な表情と他の理事たちの失笑で事なきを終えた。

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