第68話  モフモフは至高の存在であると自負すれども、カワイイの定義は如何なるものか?。(その5)

 学校に着いた雫斗は級友からの質問攻めにあった、早めに来ていた百花や恭平が話したらしい。「ねぇねぇ、ほんとに猫ちゃんが話すの?」とか「すご~~く大きいそうじゃない。ねぇどの位?」と色々聞かれて辟易した。


 「ちょっと待って。確かにうちで保護しているけど、隔離して居る訳じゃ無いからそのうち会えると思うよ」と説明するが一向に止まらない、結局ホームルームの時間まで質問に答えることに成った。その過程で今日2階の部屋を片付けてミーニャの寝室にする話をしてしまった、そのことが後に騒動を巻き起こすのだった。


 取り敢えず沼ダンジョンはしばらく使えない事を話して、質問を打ち切った。その放課後、雫斗たちは村役場に向かっていた。


 「でも横暴じゃない?沼ダンジョンを使用禁止にするなんて。せっかく鑑定のスキルを取得出来たのに、これじゃ~宝の持ち腐れよ」と予想どおり百花が不貞腐れる。


 「仕方がないさ、ダンジョンの揺れと違う世界の住人が現れたんだから、調査の対象になるのは当然だね」と冷静な恭平が落ち着いた感じで話すと。


 「そうね、何かあるとこの村じゃ対処できないものね」と割りと肯定的な弥生の発言にいよいよ機嫌を悪くする百花、そのはけ口が自分に向きません様にと、せつに願う雫斗なのだった。


 村の役場の会議室ではある程度の方針が決まっている様で、和やかな雰囲気でくつろいでいた、その中にミーニャは当然いるのだが、学校の校長先生と猫先生が居たのには驚いた。


 「どうしたんですか?校長先生と猫先生まで来ているなんて。もしかしてかなり大事なはかりごとの予感がするんだけど」と物事に動じない百花が聞いてきた。


 「その事について説明するわ」と悠美が話し始めた、どうやら今まで決まった事を説明するらしい。


 「まず、ミーニャちゃんを保護した場所は森の中と言う事にしたわ、下手にダンジョンで見つかったなんて言おうものなら、中央の省庁が横やりを言い出しかねませんからね、そこは皆さんで口裏を合わせてくださいね。それと雫斗、ミーニャちゃんは異言語理解のスクロールを使ったのよね?」と雫斗に聞いた。使用させたのは雫斗なので”そうだ”と肯定してと答えると。


 「ミーニャちゃん、文字が読めないの。多分文字の読み書きを習ってないからだと思うけど、こちらの文字を教えて見ようかと思って先生方に来てもらったの」と悠美が言った。確かに文字の読み書きは習得して居なければ分からないのは当然だ。


 言語理解のスキルは言葉が分かるだけでなく、文字まで読める様になるのが一般的なのだが、それはすでに習得している文字が言語理解のスキルで翻訳されていると理解すれば良いのだろう。


 「えっ?じゃ~ミーニャちゃんと一緒に学校に通えるんですか?」と弥生が興奮気味に聞いてきた。


 「さすがに、すぐに高等教育は無理にゃ、まずは小学の低学年と一緒に文字と計算の勉強にゃ、それから少しずつランクを上げて学習していくにゃ」と猫先生が言うと、少しがっかりして、「そうですか」と気落ちした弥生が答える。


 「ミーニャは知能は高そうにゃ、皆で教えてやったらすぐに追いつくにゃ」と気の毒に思った猫先生が言うと、”そうか!!。その手があったか”と弥生と百花が気勢を上げる、雫斗は弥生と百花のスパルタ教育を受けて目を回しているミーニャを想像して気の毒そうに彼女を見るが、当のミーニャは訳が分からずキョトンとしていた。


 「それで、森の中で彼女を保護したと言って信じて貰えるんですか?」と恭平が懐疑的に言うと。


 「なに。数十年前に流行った異世界転移小説の逆バージョンじゃ、その時の読者が今の政府の中枢じゃよ、簡単に信じるじゃろう。現実にダンジョンが出来てしまっとるんじゃ、こちらがそうだと言えば疑わんじゃろうな」と楽観的な敏郎爺さんが言う、他の長老達も肯定的なのだが、若干疑問を感じて聞いてみると。母親の悠美がそれに答えた。


 「その当時異世界転生小説のブームでね、現実の世界で事故や事件に巻き込まれた主人公が死亡して異世界で転生すると言った話が主流だったの、そのせいだとは言わないけれど、中学生や小学校の高学年の子供が屋上から飛び降りたり、電車に飛び込んだりする事件が少なからず有ったのよ。そのニュースを見るたびに心を痛めたものだわ、人間は・・・いえ、生きとし生ける物は死んだら終わりなのにね」と悠美が顔を曇らせて話すと。


 「ばっかじゃ無いの~~!」と百花が憤慨する。「神様がいるかどうかは分からないけど。もし神様の恩恵があるなら、それはこの世に生まれて生き抜く事と、生を全うして死を迎える事よ。その二つは確実に訪れるわ。確かに平等ではないけれども、それでも奇跡には違いないわ」と怒りをあらわにする。


 百花はいくら人生に希望が持てなくても、簡単に自分の命を捨てる事を決意する人たちに怒りを覚えていたのだ、逸れこそ藁にすがってでも、泥水をすすってでも生き抜く事こそが人生だと叩きこまれている雫斗や百花達には理解できなかった。叩き込んでくれたのは、主に雑賀村の長老達だけど。


 「それじゃ、暫くは沼ダンジョンは使えなくなるんだよね。村のダンジョンは使っていいの」と雫斗は話題を変える。


 「前にも言ったけれど、一階層でのスライム討伐は禁止よ。たとえ目的地に向かう途中でもね」と悠美がくぎを刺す。


 「分かっているよ、昇華の路を攻略したら2階層か3階層でスライムを探してみるよ」と雫斗がパーティーを代表して言うと、残りのメンバーも”しょうがないね”と諦めたふうに同意する。昇華の路の奥にある試練の部屋に出てくる魔物は完全にランダムだ、一匹一匹は弱くても、湧き出てくる数が半端ない。


 雫斗も一度は魔物の大群に飲み込まれる寸前までいったのだ、そのことを思い出して身震いしていると。


 「もう連絡事項はおしまいなら、私たちは帰っていいかしら?此れからミーニャちゃんのお部屋の模様替えがあるのよ」と百花が言い出した。


 「えっ!どういう事」と訳が分からず雫斗と悠美が思わず聞き返したら。


 「あら、雫斗が二階の空き部屋を片付けてミーニャちゃんのお部屋にするって言っていたじゃない?女の子の部屋だし殺風景だと可哀そうだから、クラスの子達が可愛い物を持ち寄ってコーディネートすることにしたの。今頃集まっているはずよ、さあ~早くいきましょう」と百花に腕を取られて引きずられるように会議室を後にする雫斗とミーニャを、呆気に取られて見送る大人たち。


 村役場を出て雫斗の家に向かいながら不思議そうにミーニャが質問してきた。


 「コーディネートって何ですか?」確かに知らない言葉は理解できないか、英語だし。日本語と英語で意味は違ってくるけどどう説明しよう、と雫斗が悩んでいると。


 「お部屋を可愛く飾り付けるの。ぴきゃぴきゃに可愛くするから楽しみにしててね」と百花が身も蓋も無いことを言いだした。真剣に考えた雫斗があほみたいだ。


 「わ~~、楽しみです」とミーニャが嬉しそうにしているので、雫斗は何も言えなかったが、楽しそうに話している女の子達の会話の腰を折るほど、雫斗は世間知らずでも鈍感でもなかった。


 雫斗の家の前では、ちょっとした騒ぎになっていた。クラスの子は勿論、話を聞いた大人たち迄ミーニャ見たさに集まって来ていたのだ。


「わ~、あなたがミーニャちゃん。ほんとに大きな猫ちゃんなのね」。


「すごくきれいね~~、その毛並み、どうやったらそうなるの?」。


 余りの人気ぶりに、驚いて雫斗の後ろに隠れて顔をのぞかせるミーニャ。すると観客のボルテージが一段と上がっていく。


 ”きゃ~~かわいい”。”お耳をハムハムしたい”。”やっぱりモフモフだわね。最高だわ~~”。一向に下がらない過熱ぶりに、香澄を連れて遅れてきた悠美が呆れて釘をさす。


 「あなた達いい加減にしなさいよ。人の家の前で騒いでどういう事?」。


 「あら、こんなに可愛い子を一人占めは良くないわ、私達にも紹介しなさいよ」とここに来た目的を話すその人は百花のお母さんで斎藤 一十華という。当然百花の妹の千佳も来ていて、さっそく女の子同士で集まってミーニャを中心にわいわい騒いでいる。


 「ねえねえ、話が出来るって本当なの、異世界から来たって聞いたわよ。それを聞いたらワクワクしちゃって来ちゃったのよ」と興奮気味に話す。悠美は無理もないと諦めた、異世界物の小説を読んで育ってきた同じ世代なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る