第67話  モフモフは至高の存在であると自負すれども、カワイイの定義は如何なるものか?。(その4)

 雫斗はガバッと起き上がると、狼狽えた様に支離滅裂な言い訳を始めた。確かに状況から雫斗がミーニャをベッドへ連れ込んだ様に見えるが、真実は違うので説明しようと焦るあまりそうなったのだ。


 「ミーニャがトイレで寝ぼけて、匂いをたどったら僕のベッドに居たんだ。・・・と、とにかく僕じゃない」雫斗が強引に締めくくると、悠美が吹き出して。


 「分ったわ、とにかくミーニャちゃんが居てくれて良かったわ。ミーニャちゃん行きましょう」とミーニャと一緒に階下へと降りていった。


 悠美にしても、雫斗と普通の女の子がベッドを共にして居たら大事になって居たが、いかんせん知性が有るとはいえミーニャは大きな猫なのだ、間違いが起こるはずはないと思っているのだが。しかしそこは大人として男性と女性の道徳的なことをミーニャに話す。


 「ミーニャちゃん、いくら大好きな男の人からのベッドの誘いでも、簡単に承諾してはだめよ。軽い女と思われるから」そう言われてもミーニャには良く理解できなかった、実質産まれてからまだ8年しか経って居ないのだから仕方がないが、此処は空気を読んで“わかった”と言う。しかしミーニャは誘われてベッドへ入るのはだめで、自分から潜り込むのは良いと理解した。その事が後に騒動を巻き起こして、悠美は頭を抱える事になるのだが、それは後の話だ。


 朝食後、ミーニャの部屋を2階の空き部屋へ移す事を確認してそれぞれ家を出る。いつまでも居間で寝起きをさせる訳にもいかないので、後々香澄の部屋と考えていた場所を片付けてミーニャに住んでもらう事にしたのだ。


 取り敢えず沼ダンジョンの調査次第だが、ミーニャを元の世界へと帰す事が出来ないと暫くは雫斗の家で暮らして貰う事になる。


 雫斗は学校へ、香澄と悠美はミーニャを連れて出かけていった、香澄を保育園に預けた後ミーニャを診療所で見て貰うためで有る。


 身体検査が主で、ついでに感染症の検査をする予定だが、それはこちらの世界の感染症に対してのミーニャの抗体を調べるためだ。


 普通なら未知の世界からきた生物は、最低隔離して危険な病原体がいないかを検査をするのが一般的な方法なのだが。


 其処はダンジョンの特性が関係してる、ダンジョンの内と外では危険な細菌やウイルスといった物は移動できないのだ。移動できないと言うより消滅するといった方がしっくりくる。


 ダンジョンが出来た当初は、ダンジョンの出入りにはかなり気を遣った、それは当然で染み出してくる魔物よりも爆発的に広がる感染症の方を優先的に警戒していたのだ。


 その事は雫斗達も経験済みで、ダンジョンの生成に巻き込まれて取り込まれ、救助された後3週間程度隔離された記憶がある。


 事情聴取をする為というより情報統制をする事が主な目的だったとおも思たのだが、しかしよくよく考えると感染対策の意味合いが強かったように思う。


 だがダンジョンが初めて出現した時期で、ダンジョンの調査が急を要する事からダンジョンから出て来る度に、隔離をして経過を見るのは効率が悪過ぎた。


 軍隊という戦力を使える各国の政府は、主要都市のダンジョンから染み出してくる魔物の対応に余裕があるため、感染対策を慎重にする方針を徹底させたのだが、政府から見放された地方の行政は人手不足から感染対策を続ける事ができなかった。


 隔離政策を続けるかやめるかの会議の中、ある調査官が面白い報告と考察を発表したのだ、その調査官はダンジョンを調査してきた人達の調書を審査して纏めていた人だが、その調書の中で、体調の悪い中ダンジョンに入った人が、ダンジョンで活動していて、しばらくすると体調がよくなる傾向があるといった報告に目を止めた。


 其処から考察したのは、ダンジョンはウイルスとか細菌と言った物に対して、ある種の免疫というか、障壁みたいなものがあるのではないか?と打ち出したのだ。


 その会議は紛糾した。“そんな馬鹿な話がある訳がない”と言う常識派と“ダンジョンだから、有り得る”と言う非常識派で別れた。それでもやっぱり試して見る価値は有ると言うことで、研究施設へ検証の依頼をしたのだ。


 簡単に検証出来ると思っていたが、結構な大事になった。依頼の主旨を聞いた研究所の職員がダンジョンの入り口を完全に封鎖しなくては危険だ言い出したのだ、確かにダンジョンの入り口で細菌などをシャットアウトしているとなると、通過する時にどんなに厳重に保管されている細菌やウイルスといったものが、入り口の手前で残される可能性もあるかも知れないのだ。


 結論からいうと、ダンジョンの中にも入り口にも細菌やウイルスといった病原体は残らなかった、死滅するのかは確認できなかったがシャーレに培養した菌はことごとくいなくなっていた。


さすがに一類感染症のエボラ出血熱やペストといった危険な病原体では試せなかったが、二類感染症の結核や鳥インフルエンザ、コレラなどで試しが結果は同じだった。


 毒や病気、呪いといった状態異常はダンジョンの入り口を通過しても消えないが、この世界で常識の細菌による体調不良の患者はダンジョンに入る事により完治又は経過が良くなる事が有ったのだ。


 その為、細菌に感染した思い病気を患っている患者の最後の治療手段として使われることも過去にはあったが、最近では高級な治療薬とかのポーション類がダンジョンから産出しだして、世間に出回り始めると鳴りを潜めた。


 いくら一階層とは言ってもダンジョンは危険なところだ、どういった経緯か分からないが、治療のためにダンジョンに入った人が消える現象が頻発したのだ。


ダンジョンの入り口とはいうが入ってすぐ戻ると効果は無かった、境界線が分からない為2百メートル程進まなければならなかったのだ。


 特に裕福な金持ちの年寄りが失踪する確率が高かった、そこで実しやかにうわさが流れた、”金持ちは、あくどい事をして金を稼いだ人がほとんどだ。ダンジョンはその罪を清算しているのだ”、とささやかれるようになった。


 真実は分からないが、すねに傷を持つ人ほどダンジョンに入る事を拒み、治療のためにバカ高いポーションを買いあさっているのだ。


 話を戻すと、ダンジョンから湧き出す魔物にしろ産出物にしろ、ダンジョンからの細菌感染の心配は5年もたてば無くなっていた。そのことからミーニャの体調の配慮は此の地球の病気が感染しないかどうかに掛かっていた。

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