第48話 ダンジョン探索のカギは、1階層?(その3)
翌朝、悠美は昨日雫斗がまとめた報告書を、日本探索者協会の雑賀村支部を含めて東海地区を管轄している名古屋支部あてに、東京にある日本探索者協会本部への開示を遅らせてほしい旨を添えて転送した。ネットを使った秘匿通信での説明に、名古屋探索者協会の支部長も、鑑定スキルやスライムの固有スキルの取得条件がリークされると、これ以上のトラブルを抱える破目になるので、そんなことは御免だとばかりにすぐさま了承した。
悠美は、取り敢えず世界探索者協会の本部長あてに8時間後の午後4時にオンラインでの会談を申請した、一応発見した事を報告しなければ規則違反に問われるので、直接説明しようと思ったのだ。とうぜん秘匿通信での要請だ、協会本部の置かれているベルリンは今は真夜中なので、返事が来るのは早くても4・5時間後になるだろう。
午後の早い時間、雑賀村役場の会議室に村の長老が集まった。恭平の父親の立花 浩三と、弥生のお爺さんの麻生 京太郎。村の診療所の山田 洋子医師、最後に悠美の父親の武那方 敏郎の四名と、雑賀村役場と雑賀村ダンジョン協会支部の代表で村長兼雑賀村ダンジョン支部長の悠美と副村長の開田 一之条の計六名が雑賀村のかじ取り役である。
「珍しいわね、悠美ちゃんが村長になって初めてじゃない?長老会の会合なんて?」
と診療所の山田医師が悠美をちゃん付けで話す。山田医師は雑賀村に赴任して来ておよそ40年を超える、そろそろ80を超えようかと言う年齢にも関わらず元気である。
この時代のお年寄りに言えることはみなうるさいくらい健康だ、一つにはダンジョンからもたらされるポーションや食料による影響もあるらしいが、何と言っても暇を持て余しているお年寄りには、ダンジョンの表層は良いお散歩コースとなっているのだ。
当然危険もあるが、それを差し引いてもダンジョンに入る事でお年寄り、いや人類にとって良い事が有る。それは魔物を倒すと身体能力が上がるというメリットがあるのだ、今までは経験したことで分かるぼんやりとした実感だったが、雫斗が鑑定のスキルを発見した事により視覚的にも数量的にも鑑定で証明されることに成るのだ。
今まではお年寄りにとって体力が衰えていくばかりの人生が、ダンジョンの出現によりこうして自分の足で歩き周ることが出来るのだから、一番の恩恵に預かっているのはお年寄りかも知れない。
ちゃん付けで呼ばれた悠美だが、山田医師には頭が上がらない。生まれた時に取り上げて貰った時から、・・・いや母親のおなかの中にいた時から大学に進学するとき迄、山田医師には世話になっているのだ。「ええ。少し込み入った事が起こりまして、それで相談に乗って貰おうかと思いまして皆さんに集まってもらいました」。悠美が話始めてすぐ京太郎が聞いてきた。
「鑑定スキルの事かな?どうするつもりじゃ?」といきなり核心をついてきた、いちいち説明するのは面倒なので「取り敢えずこの書類を読んでいただけますか?」と各自に簡単にまとめた書類を渡す。
皆が読み終えた頃合いを見て悠美が話し始めた「最近の都市部のダンジョン内は、接触収納の取得に向けた、スライムの討伐の奪い合いで大変込み合っている状況です」とここ迄話した悠美の言葉をさえぎって武那方 敏郎が手を上げた。「接触収納とは何かのう?初めて聞くが」と聞いてきたので「今まで私たちが、装備収納とかカード収納とか言っていた名前です。雫斗が取得した鑑定のスキルで正式な名前が分かりました、取り敢えずここでは正式な呼び方で通します」と悠美が言うと、解ったと敏郎が手を下ろした。
「そのような状況なので、今回の鑑定スキルの取得条件に関して日本ダンジョン協会の上層部には秘匿することにしました。そこで鑑定スキルおよび固有スキルの検証は名古屋支部と雑賀村と近隣の数か所の村で検証したいと思います。皆さんにはその調整役をお願いしたいのです」と悠美が此れからの事を端的に話すと、恭平の父親の構造が心配して聞いてきた「鑑定スキルの取得条件を発表しないとなると誰かに先を越されると言う事に成らないかね?」。
「秘匿するとは言っても、上層部に上げない訳ではありません、日本ダンジョン協会の理事の何名かは信用できないので信頼のおける名古屋支部の上層部と、世界ダンジョン協会の本部あてには報告しますからその心配はありません」と悠美が報告はするけどリークされる心配のない人達にだけ話を通すつもりの様だ。
「ではわしらは、この村のダンジョンの入場の管理と近隣の村の調整役をすればいいのかな?」と京太郎爺さんが聞いてきたので。「そうです。それと同時に先行してスライムを討伐しているチームSDSにはそのまま更なる検証と、皆さんもスライムの討伐をして鑑定スキルの検証をお願いします」悠美がそう言うと「村の連中は締め出されて騒ぎだしませんか?」と副村長の開田が言う。
「大丈夫でしょう、鑑定のスキルは逃げませんから」と悠美は余裕の表情で話すと、「おお、忘れておった。一人厄介な奴がおる」と京太郎爺さんが慌てて言うと「どうしたんですか」と悠美。
「いやーロボがな、弥生と百花の話を聞いて自分にも保管倉庫のスキルが有る事に気付いてな、発現したのはいいがどれだけの物が入るか検証ができないと分かると武器と検証が同時に出来る物が在ると言って、購入してくると息巻いて飛び出して行ってな。あいつもべらべら喋るとは思わんが・・・ま~、たぶん大丈夫だろう」と京太郎爺さんが気落ちして言うと「その時はまた考えましょう。秘匿したことがばれても検証スキルを拘束していた訳ではないので、・・・ただこの事が知れ渡ると、騒ぎがこれまでの非じゃないだけですから。ところで武器とは何のことです?」と悠美が聞いてきた。
「これにも書かれておるが」と京太郎爺さんが渡された報告書を見ながら「ダンジョンにこの位の岩が点在しているが、その中にベビーゴーレムがまぎれているらしい。その岩を壊すのに、打撃系の武器が必要だが弥生と百花は持っていないからな。それで保管倉庫を使って上から重い物を落とそうと考えたらしいな」。それを聞いた悠美が「なるほど考えましたね、それでどのくらいの重さが保管倉庫に入るか検証が必要だと言う事ですか?」と感心して言う。
「分かりました、ロボさんが保管倉庫について話しているかどうかの確認は京太郎さんに任せます、連絡してもらえますか?」と京太郎さんに聞くと、解ったと頷いたので「では皆さん各自の調整を決めてしまいましょう」と言って悠美と他の面々で役割分担を決めてしまう事にした。内容は雑賀村の人たちの調整は、武那方 敏郎、立花 浩三、麻生 京太郎、山田 洋子の4名で調整して、村以外の対応は悠美と開田 一之条が担当する事になってその日は解散となった。
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