第47話 ダンジョン探索のカギは、1階層?(その2)
「ダンジョンに此れ位の岩があるでしょう?」と弥生、「そうですね、各階層で見かけますね」とロボさん、「その岩に擬態しているモンスターがいるのよ、ベビーゴーレムって言うみたいだけど、襲ってこないし動かないから見分けがつかないけれど。そのモンスター自己回復と自己再生っていうスキルを持っているらしいの、倒したいけど私たち打撃系の武器はないし倒せないのよね」と残念そうに弥生が言うと、はっとロボさんが顔を上げて拳を握りしめた。
「確かに、私も鍛錬のためにいくつか叩き壊したことがありますが。何個か壊そうとして、何か背徳的な気がして壊せなかったものがあります。・・・同族でしたか?」とロボさんが考え深げに言うと。
「ロボさんロボさん、一応モンスターだからね、情けを掛けると死んじゃうよ」と百花が言うと「分かっています。攻撃されたら死にたくないので戦います、でも同族の動かない個体を倒せる自信がありません」としょげ返るロボさん、”本気かな”と思いながらも「でもロボさんも回復系のスキルが欲しいでしょう?」と弥生が聞くと。
ぐっと拳を握り締めて顔を上げて考え深げに「ほしいです」とロボさんが一言、「じゃ~、倒してスキルをゲットしなきゃ。変に同情しているとおいて行かれるわよ」と百花が言う、何処に置いていかれるのかは分からないが、ロボさんは納得したようで。
「そうですね、所詮はこの世は弱肉共食の時代です。弱い個体が強い個体の糧となるのは必然、倒しましょう」とロボさんが気炎を上げる。なぜか強食が共食いに成っているがそこは気にしない事にして。
「そこで、倒すための武器がいるのよ。私達にハンマーなんかの打撃系の武器は使えないから、保管倉庫を使って重い物を上から落とそうかな~と思いついたのよ。でも保管倉庫にどれだけの物が入るか分からないと何を使ったらいいか思いつかないのよね?」と百花。
「なるほど、それで重力兵器ですか?」と、しばらく考えていたロボさんが「分かりました、二日三日ほど時間をください武器と検証が一気に出来そうです。お二人とも鑑定と保管倉庫のスキルの取得の為に、暫くスライムの討伐でしょう?」とロボさんが言うので、どんな考えが有るのか聞いたが、話をはぐらかされた。”後のお楽しみらしい”、どうも古参のゴーレム型のアンドロイドは人に対して遠慮がない、自分の楽しみを優先するきらいがある。
「師匠!!、暫く休ませてください。明日は工場に行って直接注文してきます、重量があるので運ぶのに時間がかかりますから」と休暇の申請をしてきた。
「まー、急ぎの仕事も無いし構わんが。お前は興味の有る物が目の前にあると周りが見えなくなるから、ほどほどにな」と京太郎爺さんが呆れて言うと。
「有難うございます、師匠。ではお二人とも、準備が出来ましたら連絡しますから」というが早いか、そのまま帰って行った。
呆気に取られて、呆然としている百花と弥生に「そういう事だ、暫くはスライムと戯れている事だな。わしも午後からスライム狩りだな。・・・ふぅ~」と京太郎爺さんがため息をつきながら言った。
その夜、食事を終えた雫斗は母親の悠美に鑑定スキルの事を話した「母さん、じつはスライムの事なんだけど」そう言い始めた雫斗を、お茶を飲む手を止めてまじまじと見つめる悠美。
悠美はここ最近雫斗に振り回されてばかりいるのだ、これ以上の厄介事は正直勘弁してもらいたいのだが、聞かない訳にはいかないだろうとため息と共に。
「なぁに雫斗、またスライムで問題でも起きたの?」と雫斗が話し始めて雰囲気の変わった母親にたじろぎつつ「ええと、問題というか、発見というかスライムを10万匹倒すと、鑑定のスキルが貰えます」雫斗は穏便に事を運ぶ為に、多少おどけてスキルが発現した事を話した。
「鑑定って、宝石や古い壺なんかの価値を決める鑑定士のこと、何でダンジョンでそんな物がスキルになるの?」と悠美が見当違いの事を聞いてきたので、雫斗は実際に見せる事にした。自分を鑑定したカードを母親の悠美と父親の海嗣に見せると、カードの内容を見た二人は、お互いの顔を見合った後、悠美が呆れた様に言った。
「Dカードがメモ帳に状態変化した訳じゃ無いのね、書かれている内容は雫斗のステータスって事?」出来ればメモ帳であって欲しいと、願いを込めた悠美ではあったが、雫斗の憤慨した言葉に、これから起こるであろう騒動を予測して、頭を抱える事になる。
「母さん、いくら僕でもこんな悪戯はやらないよ。正真正銘、鑑定のスキルだよ!」怒っている雫斗を宥める様に、海嗣父さんが話しかける「まぁ怒るな、母さんも雫斗の事は信じているさ、しかしこう立て続けに新たな発見が見つかると、流石の母さんも対応し切れないからね」そう言いながら、面白そうにチラッと放心状態の悠美を見て続ける。
「ところで、このアルファベットはどういう意味なのかな?強さの指標にしては曖昧だね?」そう聞かれた雫斗自身まだ3人しか鑑定して無い事もあり、データーが揃っていないので分からないのだ。
「どうなんだろう?まだ数人しか鑑定していないから、良く分からないけれど。一応僕より強いはずの恭平は総合力でB−だったから、CよりBが強い事に成ると思う」と自信なさげに雫斗が言うと。放心状態から回復した悠美母さんが「ちょっと待って。スライム10万匹って言ったわね?雫斗、あなた3カ月と少しでスライムを10万匹倒したってことなの?」悠美が驚いて聞いてきた。
確かに、探索者カードの講習を受けてからもう3カ月になる、思えばオーガとの遭遇も懐かしい様な気がするが。それはさておき、放課後のほとんどをスライム狩りに費やしてきた雫斗にとって、もはやスライムはお得意さんである。無理をすれば1時間で数百匹は楽勝なのだ、其れも村の人口が少ない事が起因してはいるが、それでも最近では、倒す時間より探して歩き周る時間の方が長いのが現状なのだ。
「スライムを倒している武器が優秀だからね、今では一撃で倒せるよ」と自慢げに話す雫斗は、そういえばトオルハンマーを鑑定していない事に気が付いた「そういえば、武器も鑑定できるのかな?」と独り言を言ってトオルハンマーを収納から取り出した。
トオルハンマーをDカード越しに見て鑑定してみると、武器の名前がトオルハンマーになっているのには驚いた、種類の欄には戦槌で書かれていた。そして耐久値が500/580と書かれていて、どうやら武器も消耗するらしい。確かに刃物なら切れ味とかが悪くなるのは分かるが、戦槌だとどこが悪くなるのかいまいち理解できないが、とにかく200を下回ったらロボさんに整備をお願いすることにした。
スペックはやはりアルファベットで書かれていて、強さの定義があいまいだ。興味深いのは一番下に”スライム特化 ダメージ大”と書かれていた、やはりスライムに対しては強力な武器になっているみたいだ。
戦槌とダンジョンカードを交互に見てブツブツと独り言を繰り返す息子を呆れた表情で見ていた悠美は、ため息交じりに「雫斗、検証も大事だけど程々にして置きなさいね。明日は学校でしょう?授業中に居眠りはダメよ」とくぎを刺す。
言われた雫斗は、ハッとして現実に引き戻された。確かにログの解析だけで完徹どころか4・5日掛かりそうなのだ、取り敢えずスライムの固有スキルと鑑定スキルの取得条件をそれぞれ書き出してダンジョン協会に提出することにした。
自分のタブレットに送られて来た書付の内容を見ながら、悠美は頭を抱えて喚きだしたい気分になってきた、鑑定のスキルだけでなくスライムの固有スキルの物理耐性と、保管倉庫のスキルの取得条件と、ケイブバットやケイブスネークの固有スキル、気配察知や毒耐性迄書かれていたのだ。
今でさえ接触収納を覚醒させるため多くの探索者が1階層のスライムを奪い合っているのだ。比較的人口の少ない田舎の村は穏やかだが、都会ではトラブルが尽きないらしい。その対応に追われて都会の探索者協会の職員は一階層をゾンビの如く、ふらつきながら徘徊しているらしいのだ、
これ以上協会の職員の仕事を増やすと協会自体が機能不全になりかねなかった。そこで悠美は鑑定とスライムの固有スキルの取得に関して、日本のダンジョン協会の上層部には報告しない事にした。下手に上にあげると、またダンジョン庁から出向してきたバカな役員がリークしそうなのだ。そんな事に成れば協会だけでなく、社会全体がひどい状態に成る事は考えるまでも無い。
ふと見ると、雫斗が報告したからもう終わったと、のんきに海慈父さんと笑いながら話している。それを見て悠美は雫斗達も引き込むことに決めた、取り敢えず明日は雑賀村の長老たちを集めて此れからの事を話し合う事にした。
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