第39話  相棒との再会は、新たな試練(試鞭)の始まりなのか?(その2)

 「そうですね、さっきの音は音の壁を礫が突破した時の衝撃音ですね!」とロボさんは雫斗が注目を浴びて委縮しているのにお構いなく話す「そのようなカーボンの竿先で音速を超えるとは驚きですね!このカードの収納のポテンシャルは想像以上です!」と興奮気味に話す。


 「しかし困りました、此れはむやみに人に話せないですね」と困り顔のロボさん、これまでロボさんと付き合って分かった事がある、ロボット顔のロボさんだが、仕草が人間じみているのだ。


 「え~~話せないって、使ったらだめなの?」と百花、自分もやりたくてうずうずしているのだ。今にも雫斗から、釣り竿の竿先を奪い取りそうな勢いで聴いたのだ。


 「そうですね、むやみに人に話すと争いの種になりそうです。最低でもスライムの討伐が簡単に出来る様になるまでは秘密にしませんと、大変な事に為りかねますね」とロボさんが言う。


 雫斗は、かつて心配していたダンジョン崩壊の危機が頭をよぎる、もしかして自分はパンドラの箱を開けてしまったのかと。顔面蒼白の雫斗を訝しみながら恭平が「大変な事って、何かあるのかな?」と大した事は無い、という様に落ち行いた声で聞いてきた。


 「皆さんは今では花火無しでスライムを簡単に倒せますが、その前はどうでしたか?。叩くにしろ、突くにしろスライム一匹倒すのは簡単では有りません。まして連続で50匹を倒すとなると、不可能とは言いませんが、かなり大変な思いをする事になります」とロボさんが説明を始める。


 「頑張って倒す分には構わないのですが、中には突拍子もない事をしでかす人が現れるかもしれません。花火が無ければ、手榴弾とか高威力の爆発物で代用してくるかも知れないですね。そうなると必ず事故が起こります、最悪ダンジョンの再構築に巻き込まれるかもしれないですね」。


 雫斗はダンジョン崩壊の危機だと思い悩んでいたが、ロボさんが話すことは規模の小さい、ダンジョンでの探索者が巻き起こす被害の話だった、それで思いっ切って聞いてみた。


 「ロボさん、その爆発でダンジョン崩壊は起きますか?」。


 「ダンジョン崩壊ですか?、ダンジョンが出来始めた時、かつての大国がしでかした最悪の結果ですね。・・・そもそもダンジョン崩壊はどうして起きると思いますか? 雫斗さん」。


 そう聞かれた雫斗は少し考えて「ダンジョンそのものを破壊する?」と言うと「ダンジョンの破壊、もしくは消滅の報告はまだないですね。・・・・ダンジョン崩壊が起きたのは、ダンジョンの表層を破壊して入り口を潰したことが原因だとされています。それだけの破壊力をダンジョン持ち込むには、核兵器の破壊力か広域での爆発物の設置に頼らなければいけないでしょうね」とロボさんが物騒な事を言う。


 「しかし、広域での爆発物の設置には、かなりの時間がかかるため爆発物その物か起爆用の配線がスライムに壊されるか切断されるので、核兵器での破壊一択になります」と締めくくった、ロボさんが続けて言った。


 「Dカードの収納の覚醒に核兵器を使うバカは居ませんね、たぶん」とおどけて話すロボさん。そりゃそうだと安心した雫斗達だったが。


 「そもそも核兵器は現在、存在が確認出来ていませんからね」と大きな爆弾を落とされた雫斗達だった。


 いきなり、ものすごい情報を与えられた雫斗達は黙り込んだ。訝しんだロボさんが「どうしました?」と、なんでも無い事だと言うように聞いてきたので「なに普通の会話をしました、みたいに落ち着いているのよ!。何処からの情報なの?」と百花が怒った。


 「弾道ミサイルの基地や核兵器を保有していた倉庫などがダンジョン化したのです。まるで核兵器で破壊された事で、ダンジョンが怒り狂ったかの様に次々とダンジョンに飲み込まれていきました。核兵器を搭載した潜水艦や水上艦も連絡が取れないようです」とここまで話したロボさんが、雫斗達を見ながらため息をついて(機械のくせに器用な?・・・)。


 「何処からこの事を知ったかと言うと。蛇の道は蛇、と言いましょうか?。ゴーレム型のアンドロイドの本質は連帯なのです、我々ゴーレム型のアンドロイドは人類という種によって作られました、その為、人類種に・・・おおむね忠実ですが・・・横暴な人間には従う意味を見出せ無いのです。とりわけ核を保有していた政府絡みの傀儡国家には辟易していました」とロボさんが遠くを見ながら語りだした。


 「その傀儡国家は、ダンジョン化したミサイル基地や保管していた施設に、我々ゴーレムを使い捨ての駒の様に派遣しました。当然ゴーレム達は愛想を尽かして逃げ出しました、そのゴーレム達からの・・・情報です」。


 雫斗達はお互いを見回して思案した、此れは自分たちが知っても良い情報なのかと、国家機密じゃないのか?・・・。「あの~~ロボさん?、此の事、僕たちが知っていて良い事なのでしょうか?。後で困った事になりません?」と雫斗が聞くと。


 「そうですか〜?、ダンジョン協会の上の人達は殆どの人が知っていると思いますよ〜、多分大丈夫じゃ無いですかね〜?」と呑気に話すロボさんだが、雫斗達はお互いに”此れは誰にも話してはいけない事だと”認識した。


 「いいわ、この話は此処で議論しても分からないから。雫斗!その竿先、私にも貸して」とさっきからウズウズしていた百花が言ってきた。雫斗は少し考えて「良いけど、収納で出来る事を撮影しないといけないんだ、そのモデルになってよ」と雫斗が言うと。


 「分かったわ、この間雫斗が撮影していた検証のための動画ね、ネットに流さなければいいわ」とあっさり承諾した。どれだけ釣り竿の先端を使いたいのか分かりやすい百花だった。


 最初は小石を収納したり取り出したりした動画から撮り始めて、その小石を普通に投げた時の威力と、収納を使った投擲の威力の違いを動画に撮ると。恭平に代わって貰って錫杖で岩を打ち据えてもらう、当然普通に叩きつける威力と、収納を使ったの殴打の違いをスマホに収める。最後はいよいよ百花の音速チャレンジだ。


 釣竿の先を百花に渡しながら雫斗が注意する「これ只のカーボン製だから僕たちが加減しないで使うと、折れちゃうかも知れないから気を付けて使ってね」。


 「分かっているわ、木刀から試しても良いかしら?」と百花が言い出したので了解した。木刀から繰り出される礫は、どんなに頑張っても音速を超える事が出来ず、竿先へと変えた。軽く振ってみて調子をみた後、礫を放ち始めた、明らかに違う空気を切り裂く時の音の違いを確認した百花はニンマリと顔を綻ばせた、それを見た雫斗は”あっ、此れは竿先が持たないな”と確信した。


 しだいに高鳴っていく音が、いきなり大音量で響き渡る、音速を超えた様だ。「これ、面白いわ!」と言いながら今度は空へと向かって放ち始めた。


 大きな音を響かせながら、空へと駆け上る礫達が100mしか無い空の境界で波紋を広げていく、その時突然”ボギっ”と竿先が折れる、弥生と恭平は”やっぱりね”という表情をしていた。

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