第37話  相棒(トオルハンマー)の再生は、仇敵(トラウマ)の再考を持って為されるのか?。(その4)

 ロボさんは魔物を多少は倒しているらしいので、そのまま小石を収納してもらいながら入り口を目指す、先輩二人にはここで魔力酔いを起こされると怖いので、入り口付近で小石を収納してもらうためだ。


 ロボさんの収納の搭載量は340kgを超えていた、ロボさんの体重を聞くと”秘密だ”と言われた、乙女か?と多少イラついたが、たぶん160キロぐらいかと検討を付けた。


 先輩二人は予測どおり、途中で魔力酔いを起こした、予想していたとはいえ二人がふらついて倒れた時には驚いた、しばらく休んでもらった後 ダンジョン前の協会の受付の2階にある、休憩所で休んでもらうことにした、受付時に猫先生に話していたとはいえ、二人を連れて上がるのに引け目を感じていた。


 ベッドの上で横になっている二人に、雫斗は謝る「ごめんなさい、無理をさせました」解ってはいても、実際に魔力酔いで倒れている二人を見ると、自分の我が儘に罪悪感が募る、やめて置けばよかったと。


 「いいのよ、解っていたことだし誰かが試さなければ事故にもつながるわ、此れで魔物を倒したことがない人は、収納を使うとき気を付けるでしょう?」自分たちは検証が終わるまでここで休んでいるからと、雫斗達は追い出された。


 再度ダンジョンの入場受付をして、広間でロボさんから試作した礫の箱を受け取る、何故か弾薬箱を取り出して渡してくる、この中に入っているみたいだ。箱を開けると中に紙切れが入っていて、読んでみると”礫の試作品を高崎雫斗に譲渡するものなり”と書かれていた。


 雫斗は箱ごと収納する、色々な礫が箱の中に入っているのが分かる、コインを一枚出して見る。コインの表裏には無数の溝が刻まれていた、バラバラに為りやすい様に工夫したみたいだ、一旦収納しておもむろに投げる。


 飛び出したコインは空気に触れたとたん円錐形に飛び散っていく、あまりに簡単に思った通りに飛んでいくコインの破片を見て少し拍子抜けした。それからほかの礫を試しながら2階層の階段を目指す。


 「おおおお、そうやるのですね」と言いながらロボさんが真似をしだした、どうやら自分用の礫を持って来ている様だ、何度か失敗したがコツをつかむのが早かった「これはいいですね」と言いながら岩やスライムめがけて礫を投げ込んでいたロボさんは、終いにはスナップと指先の動きだけでスライムに投げ込んで一撃で倒し始めた。


 ロボさんが、ある岩の前で礫を投げる動作をして途中で固まった。訝しんだ雫斗が「どうしたんですか?」と聞くと「あっ?、何故か分かりませんが 投げてはいけない様な気がして・・・・いえ 何でもありません」そう言って通り過ぎていった。  


 不思議に思った雫斗だがそのまま通り過ぎようとして、その岩に軽く触れて見る。“ギクリ“何か不快感が体を駆け巡るが、どう見てもただの岩なので、ロボさんを追って2階層の階段をめざす。


 2階層に向かう階段の上で下を見下ろして雫斗は去年の事を思い出していた。ケイブバットに襲われて気を失ったことを、今の自分はあのときの自分ではない強くなったのだ、と言い聞かせて階段を下りる、ロボさんは気を利かせたのか後ろから付いてくる。


 最初の広間、あの時の光景が蘇って来る。10数匹のケイブバットとケイブラットの群れ、パニックた雫斗達。「ええい!、ままよ」と勢い込んで侵入する、何もいない広間に拍子抜けしながら、進んでいくといきなり横合いから「シャー!」とケイブスネークに襲われた、咄嗟に横に避けて真上から礫を投げ込む、狙いどおり頭を打ちぬかれたスネークは光へと変換されて空へと帰って行った。


 ”ふうっ”と気を抜いた雫斗に、10数匹のケイブバットとケイブラットが襲い掛かる、多少パニックになりながらも、違和感を覚えていた、遅いのだ。あの時の事と比べながら、何が怖かったのだろうと思いながら礫を投げて倒していく雫斗、終いには手刀と蹴りで倒し始めた。


 倒し終えた雫斗は、ぼーっとして倒した後の魔晶石を見ていた、「どうしたのですか?」とロボさんに言われて”何でもない”と魔晶石を集めて3階層の階段を目指す、飛び出してくるケイブバットとケイブラットを蹴散らしながら、トラウマの克服ってこんな物かと改めて思った。


 3階層に降りる階段までの途中にある、鉄鉱石の採窟場で採集を始める二人、大体30kgで鉱脈は途切れるが此処はダンジョンなのだ、後々リポップする事になる。とはいえ人が居るとリポップしないので次の採掘場へと向かうことにする。


 全ての採掘場は、地図に書き込まれているので、いくつかの採掘場を回りながらの採掘となる。今までは2ヶ所も回れば一人で持てる量の限界に近づく為、往復しながらの採集となっていた為、かなりの重労働となっていた。


 「この収納は凄いですね、4箇所の採掘場を回っても、まだ余裕がありますね」とロボさんにが言う。「そうだけど、それでも効率が2倍か3倍程度だからね」と不満げに言う雫斗。


 それを聞いたロボさんが「まだ何か、持ち運ぶ為のスキルが有るとお思いですか?」と雫斗に聞いてきた。「産業として考えるなら、せめて10tから20tクラスの収納なり格納なりのスキルが無いとおかしいんだ」と考えていた事を話す。


 「そう言えば、雫斗さんは壁にくっ付いている鉄鉱石に触れて”収納出来ないのはダンジョンと一体化しているからなのか?”、とか崩した鉄鉱石を拾って収納に入れながら、”いちいち手に持つのは非効率だ”、とか言っていましたね」とロボさんが言うと。


 「聞いていたんだ!、やはり人の営みに貢献するにしてはまだまだダンジョンは不完全過ぎる、これから探索出来るであろう深層か、はたまた、まだ発見していない浅い層の何処かかは分からないけど、何処かには有るはずなんだ」と雫斗は力説する。


 3階層に行く為の階段を降りると、百花達の気配・・・を探す必要も無かった。


 先の方でものすごい音を出していたのだ、近所迷惑すぎる此れじゃここで鍛錬は無理だな、と思いながら音のする方へと向かう。


 そこでは百花が石の礫を投げて無双していた、弥生は短弓を使って草原ウサギやキツネに向かって礫を射かけていた、即席のスリリング扱いの短弓なので射撃制度に多少の不安はあるが命中率は良さそうだった。百花に至ってはトレントモドキに木刀を降り抜いて礫を投げていた、弱点の魔核ではなく枝を打ち払い、無力化してから魔核を打ち抜くという悪逆非道を行っていた。


 その光景を目にしてふと思い出す。”僕が2階層で倒されたのってケイブバットじゃなくて、百花の木の棒じゃなかったのか?、克服するべきは魔物では無く、百花のあのバカ力じみた木の棒の降り抜きじゃなかったのかと?、そう思いいたった雫斗だったが、2階層のケイブバットに恐怖心が無くなったので よしとすることにした。

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