第35話  相棒(トオルハンマー)の再生は、仇敵(トラウマ)の再考を持って為されるのか?。(その2)

 放課後、役所に着いた4人は会議室へと通された、しばらく待たされた後、入ってきた村長(悠美)が「ごめんなさいね、昨日一日村を離れていたから決算書類がたまっちゃってね」と言いながらソファーに座ると、雫斗達を見回して「あなたたち、パーティ名は決めたの?」。


 すかさず雫斗が「斎藤百花と愉快な仲「ガッゴン」、・・いってぇ~~」。


 百花に後頭部を思いっきり殴られた雫斗は”冗談なのに”とブツブツ言いながら後頭部を抑えている、母親が目の前にいるのにお構いなしである。


 「Saigamura・Dungeon・Searcher(雑賀村・ダンジョン・シーカー)の頭文字を取って、”チームS・D・S”でお願いします」と百花、ほかのメンバーが何も言わないのは、雫斗以外のメンバーで決めたみたいだ。軽い疎外感を感じながら雫斗が拗ねていると。


 「あなたいつも別行動でしょう?、たまには一緒に行動しなさい」と冷たく当たる百花さん。


 「うん、良い名前だねすごく良いよ」とから元気の息子を可哀そうにと同情の眼で見ている悠美母さんの雫斗を見る眼の痛い事、痛い事。「えーと、パーティ名は”チームS・D・S”でいいのよね?」と話を無理やり戻す悠美村長。


 「Dカードの機能である、収納の発現条件の発見申請の報奨金なんだけど、分配方法は一律均等で良いかしら」と悠美が聞くと、すかさず百花が事前に決めたことを話し始めた「いえ分配は私と、弥生、恭平は1割で、雫斗は5割、残り2割をパーティー口座へお願いします」。


 「あら、決めていたのね、えらいわー」と言いながら書類に書き込んでいた悠美母さんが、百花の前に書類を出して「確認して、名前を書いてね」と促すと百花は目を通して名前を書き、ほかのメンバーに回す。


 メンバー全員が確認し署名したのを見届けて「一つ目の案件は、此れで終わりね。次は百花さんの新しいスライム討伐の申請なんだけど、検証した結果、有効性が確認されたの。それで報奨金の受け取りなんだけど、企業コンペで取得した企業が出た時点で、特許料の契約と商品化したその商品の効能評価で決まるらしいのよ、だからしばらくかかりそうなの」という悠美。


 「私のスライム討伐の申請?」と疑問を口にする百花「そうよ、圧縮空気を使ったスライムの討伐方法の申請よ、あなたが考えた事でしょう?」と悠美がほかのメンバーを見ながら問いただすと、疑問の表情を浮かべる人に交じって脂汗を流している人が一人。


 注目を集めた雫斗が、おずおずと話し始める「前に百花ちゃんが言っていたじゃないか?スライムの横で手押しポンプで空気を送るのかって。お母さんにいきなり聞かれたから、咄嗟に答えた事なんだ」。


 深いため息をついた悠美が「分かったわ、此れはパーティー案件にしましょう、それでいいわね」と”余計な仕事を増やしやがって”という様に強い口調で雫斗に聞いてくる、雫斗がうなずくのを見た悠美は「じゃー圧縮空気を使った討伐方法の件は後日という事で、これで要件はかたづいたわ。此れから皆はどうするの?」とこれからの予定を聞く悠美母さん。


 百花が代表して答える「私と恭平はダンジョンで収納を使った攻撃方法の鍛錬と、弥生は京太郎お爺さんの造った、その為の武器の試し撃ちだったわね、雫斗は家で調べ物らしいわ」。


 悠美が聞き慣れない言葉に反応して「収納を使った攻撃方法?どう言う事?聞いていないんだけど、説明して」そう言われて百花が雫斗を見る、他のメンバーからも注目されて、またしても気まずそうに雫斗が答える。


 「収納から取り出して、普通に叩いたり投げたりしたダメージより、取り出す瞬間のイメージと、叩いたり投げたりした瞬間の動作のタイミングが合うと、威力が数倍になるんだ」と話し終えた雫斗の顔を見ながら悠美はため息をつくと。


 「分かったわ、収納に関して出来ることは全て動画に収めて報告しなさい、他には無いわね?」と悠美にマジマジと見られた雫斗は、脂汗が背中を流れるのを感じながら、”毒をくらわば皿までよ”と「芳野先輩と野島先輩に収納の覚醒を試してもらっていいですか?」と聞いてみた。


 「芳野冬美と野島京子?、何を試すの?」いきなり出てきた名前に戸惑いながら悠美が聞くと「魔法を使い過ぎると魔力酔いを起こすって言われているよね?」と雫斗が質問と違う事を聞いてきた。


 「そうね、魔力に関して分からないことが多いけど、魔法を使っているといきなり眩暈がして、最悪気を失うことが確認されているわ、それと関係があるの?」と悠美が聞くので「多分だけど、収納の出し入れも魔力を使うと仮定して、魔物をあまり倒していない二人に試してもらおうかなって思ったんだ」。


「それなら私たちも変わらないわよ?」と百花「忘れたのかい、僕たちはハイゴブリンとハイオークという格上の魔物を倒しているんだ、魔力やその他の力が上がっていてもおかしく無いんだ」と言う雫斗の言葉に”あっ”と言う表情をして。


 「そうだったわね、忘れていたわ、そのせいで収納を目一杯使えると思ったのね、で先輩二人に試してもらって違いがあるか確かめるわけね?」と百花「そういう事、先輩二人にDカードの収納覚醒の許可を貰えないかな?」と母親に聞く雫斗、協会でアルバイトをしている二人は協会の規定で、スライムの花火での討伐が発表されるまで、習得が出来ないのだ。


 「いいわ、そう言う事なら許可を出すけど無理強いはダメよ」悠美の許可が取れたので「大丈夫だよ、先輩二人からもお願いされているし協会支部からも二人に連絡してくれる?」と雫斗がお願いする。


 「ええメールで伝えるわ、百花さんと恭平君はダンジョンに行くなら怪我しない様にね、何があるか分からないから。・・・さぁー これで用事も済んだわ気を付けて帰りなさい」と悠美が退室を促す。


 雫斗が出て行こうとすると悠美に呼び止められる、「ああ!、雫斗帰るなら香澄を一緒に連れて行って頂戴、今日は少し遅くなりそうなの」そう言う悠美に「分かった」と告げて雫斗たちは部屋を出ていく。


 村役場の前で皆と別れた雫斗は、役場の隣にある保育園の敷地へと入って行った。敷地に隣接された遊び場では5,6人の子供たちが、2匹の芝犬を模様した見守りロボットに守られて遊んでいた、その犬はゴーレムでは無い。アンドロイドでゴーレムとは違い純粋な化学の産物である。


 柴犬の1匹が、雫斗が敷地に入って来たのを見ると雫斗の前に座り雫斗を観察し出した、雫斗は「ワンワンさん、香澄を連れに来たよ」というと雫斗だと確認できたのか、尻尾をフリフリしながら子供達の所へと戻って行った。


 香澄は何処かなと探すと、外の遊具と遊具の間にある砂場で、他の子供たちと遊んでいた。


 「香澄!」と雫斗が呼ぶと嬉しそうにテケテケ駆けるけてきて、座って待ち受けていた雫斗に抱き着こうとして、手に持っていたスコップの砂をかけてしまう。


 「ブヘェ~、」と言いながらも香澄を抱き上げると「あらあら、今日は雫斗さんがお迎えですか?」と”ワンワンさん”から聞いたのか、保育士の鈴木さんが出て来た。


 「そうです、母は遅くなるみたいなので、僕がお迎えです」と雫斗が言うと、鈴木さんが香澄を受け取りながら「少し待っててくださいね、さあ~香澄ちゃん砂を落としてきましょう」と香澄を連れて屋内へと入って行った。


 暫く手持ち無沙汰の雫斗の元へ「な~~んだ、雫斗兄ちゃんか?」と近づいてきて、足にパンチはするは、靴に砂をかけるは、知らない人だと警戒して近ずかないくせに、知り合いだと容赦がない餓鬼どもに。


 「悪い子はこうだぞ~~!」と言いながら靴に砂を掛けていた子の、こめかみを軽くグリグリすると、周りの子たちが逃げ始めたので「が~~お~~」と言いながら追いかけっこを始める、いつもの光景である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る