第34話 相棒(トオルハンマー)の再生は、仇敵(トラウマ)の再考を持って為されるのか?。(その1)
現実離れした気持ちを抱えながら食事を終えた雫斗が、父親と香澄と良子さんに挨拶して部屋へと上がろうとすると、海慈父さんに呼び止められた「母さんは明日の昼頃帰ってくるそうだ、それでお前たちのパーティーメンバーと報奨金の打ち合わせが有るそうだから、学校の帰りに役所へ来る様に言っていたぞ」。
「うん、わかった皆に話してみるよ、じゃーお休み父さん」雫斗はそのままベッドへ入ると眠りに落ちた、自覚は無かったがかなり疲れていたみたいだ肉体的にも精神的にも。
翌朝、普段どおりに起きて学校へと向かう雫斗だったが、気後れているのか若干足の運びが遅い、その為教室に入るのが何時もより少し遅れた。すでに百花と弥生は来ていて他の女の子と話をしていた。
教室に入った雫斗に向けられる、視線の鋭さは気のせいだろうか。顔が引きつるのを何とか抑えて、恭平の元へと歩いていく。周りの男子も何かを感づいたみたいで遠巻きに見ている。
「おはよう雫斗、昨日はお互い大変な目にあったな」普段どおりに話す恭平の言葉に、いつもながら親友の鈍感・・違った心の大きさに救われた気分だ。
「おはよう恭平、そうだ今日の放課後役所に来てほしいそうだよ、パーティーメンバーの報奨金の話が有るからって、お袋からの伝言なんだ、そこで・・・」と言いよどむ雫斗に気遣って「百花達には俺から話そうか?」と恭平、流石分かる人は違う。
お昼休みに恭平と話していると、百花が弥生を連れ立って歩いてきた。弥生の口角が若干上がっているのは、おそらく弥生の思惑どおりに事が運ぶのだろう、取り敢えず身がまえた雫斗に「昨日の事は謝るわ。やりすぎだったって、でも雫斗にも落ち度は在ると思うわ」とお互いが悪いからと言ってきた。
百花にしたら精一杯の謝罪なので、此処で拗らせる訳にはいかない「分かっているよ、僕も隠していたのは悪かったって思っているし謝るよ。ごめんなさい」雫斗が謝って来たので、百花も安心したのか「いいわ、飴玉を見るたびに思い出すのは嫌だから、此れで手打ちでいいわね?」。
〝飴玉の為かい?〝と思いながら、何故か謝られている気がしないのは雫斗だけだろうか?「うん!、それでいいよ。・・・役所に行くことは聞いた?多分パーティーメンバーの報奨金の分配だと思うけど、均等割りでいいかな?」そう言う雫斗に異を唱える百花。
「ダメよ、私たちは何も考え出して無いもの、その報奨金だかを受け取れないわ」と拒否した。
「でも、検証に付き合ってもらったし、これからもお願いするかも知れないから、やはり受け取ってよ」と皆の成果だと主張する雫斗。
「分かったわ、私たちは雫斗の言う通りにしただけだから、1割ずつでいいわ。残り7割は雫斗の取り分よ、皆んなもそれで良いわね」と恭平と弥生に確認する、二人が頷いたので此れは覆せないと思った雫斗は、折衷案を出す。
「分かったよ、じゃーその中から2割をパーティ口座に入れるね、これから何かと入り用になるかも知れないし」そう言う雫斗の言葉に百花は少し考えて、「いいわ、雫斗がそれでいいなら構わないわ」と言った。
もうこの問題はこれで終わり、とばかりに話題を変える百花「雫斗、貴方弥生に収納を使った投擲のやり方を教えたそうね?」となぜ私には教えないのか?と言いたげに聞いてきた。
「あの場にいたのが弥生だけだったし、ハンマーの修理には収納の機能を説明しないといけなかったから弥生に話したんだ、それに弥生の方が習得するのが僕より早かったよ」何気にコツは弥生に聞いてくれと願いを込める。
願い違わず「弥生、どうやるの?」と弥生に聞いていた。弥生は少し考えて「う~ん、・・・収納の中の礫が勢いよく飛び出して行く感じで、投げるとき指先から”ビィシュッ”て飛ばすの」と投げる動作を交えながら弥生が話す。
〝あっ!、こいつ説明が下手だわ〝と雫斗が思っていると、少し考えて「分かったわ!」と百花。
〝分かるんかい?〝と突っ込みそうになる雫斗だったが、恭平が涙目でこちらを見ているのに気付いて「同志よ!」と握手を求めた。
「凡人は凡人同志、努力で補おう」そう言った雫斗の手を、両手で握りしめ”うんうん”と頷く恭平、芝居じみた男子の行いに軽蔑の眼差しを向けていた百花が、軽く投げる動作を始める。いやな予感を感じた雫斗が「百花、此処で試したら駄目だよ、教室が無くなるよ」と忠告する。
ビクッと肩を竦めて「やっ、やらないわよ、やる訳無いじゃない」と声を震わせて言うと、〝あっ、こいつやる積もりだったな?〝と思った雫斗だったが、そこは追及せず「弥生はやったよ、工房の防音壁の土塁を根こそぎ吹き飛ばしていたから、同じ事したら駄目だよ」と弥生の昨日の所業を話す。
「あっ、あれは壁は壊していないし、土ならまた盛り直せば元通りよ」と言い訳を言うが、雫斗は繰り返し忠告する「試すならダンジョンの中でやってよね、他だと地形が変わるよ」。
「分かったわよ、ところで皆は今日はどうするの?」流石に百花も投げる動作をやめて、これからの事を聞いてきた。
「役所に行った後? 僕は家に帰って調べ物かな、ハンマー以外に使えそうなものが無いか探してみるよ」と言う雫斗に「また何か変なものを 探し出して来る気じゃ無いでしょうね? シャベルとかバールだとか、それは道具であって、武器じゃ無いからね」と百花がやめてくれと言う。
百花にしたら槍や剣といった、きちんとした武器を使って欲しいのだ、百花の趣味も有るのだろうが、雫斗にすれば敵を倒せたらそれは武器として十分だと思っているのだ。
「シャベルなんかは一昔前の軍隊じゃ立派な武器だよ、それに安いしね」と大真面目に話す雫斗に、言う言葉を見出せないでいる百花だった。
「私は家に帰って礫の試技かな、爺ちゃんに言われているし」と弥生が言うと「私もいっていいかな?」と百花が同行を願い出るがあっさりと拒否された「駄目よ!、百花ちゃんがやると壁が壊れてしまうわ」。
不貞腐れている百花に雫斗が「今日は、ダンジョンで小石を使った礫の練習でもしているんだね」と言い「恭平は今日もダンジョンに行くんでしょう?」と聞いてみる。
「勿論、昨日の岩を砕いた技を習得するつもりだよ」とやる気に満ちている。
お互いの予定が決まったところで昼休みの時間が終わり、午後の授業へと入って行った。
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