第32話 女性の怖さとは、執念の、深海のごとき深みだと思い知る。(その2)
家に帰り着いた弥生は、奥にいるお婆さんに帰った旨を伝えると、雫斗と連れだって離れにある工房へと歩いて行く。この辺りは村のはずれに位置している、村自体が農作物と林業を主産業にしている事も有り家同士はかなり離れているが、この工房は鉄を打って成形するため音がうるさいのだ。
必然的に、他の家との距離が離れている事は当然といえる、鍋やフライパンなどの生活必需品は大きな工場で大量生産されるが、こと武器や防具に至っては、一品物が多くこの時代は昔の様な鍛冶屋が重宝されてきているのだ。
なぜ、銃火器全盛のこの時代に、時代錯誤な刀や槍、弓矢などの昔の武器の需要が有るかというと、近接戦闘でないとダンジョンでの経験値の取得に差が出る為だ。数値として認知されてはいないが、5年間の経験則として多くの人が周知している。
しかも銃火器はダンジョン外での魔物の討伐には向いているが、ダンジョン内では誤作動が多くなってくる、雫斗達をオーガから助けた探索者もけん制として小銃を使ってはいたが、最後の止めは大剣だった。
雫斗達がたどり着いた工房では職人達が色々な作業をしていた、その中の一人に弥生が声をかける「お爺ちゃん、今いいかな?」すると「おお!、弥生か今日は早いな、何かあったのかな?」と工房の主の麻生京太郎が答える。
麻生京太郎はダンジョンが発生する前は、此の雑賀村で刀鍛冶の工房を開いていた。ダンジョン発生後はダンジョン産の素材や鉱石に興味を持ち、探索者の要望もありダンジョン産の素材で、防具や武器の制作に打ち込んだ。
当初ダンジョンの探索が進んでいない事も有り素材自体が少なく、親友で同郷の、敏郎と共に自ら素材を取りに行っていたほどの猛者である。
「雫斗の武器が壊れちゃって、その相談よ」簡単に説明した弥生の後に「今晩は、お久しぶりです京太郎さん」と雫斗が挨拶する。
「おう!、雫斗か?暫く見ないうちに大きくなったな、丸腰に見えるが何処にあるんだ?」京太郎には一週間前に売店で出くわした、”大きくなったな”は京太郎の常套句みたいなもので、子どもにする挨拶の代わりだ。
雫斗はおもむろに収納から大ハンマーの持ち手の折れた、ハンマーヘッドを取り出して京太郎に渡した。「雫斗、こりゃ武器じゃね~、道具だ・・・・・・おい!今どこから出した?」。
当たり前の様に雫斗は収納から出したが、まだ発表前で秘密だった事を思い出した、しかし見られたからには後の祭りだ。それに”トオルハンマー”の改良には、装備収納の機能を説明しなければいけない、今更誤魔化しても無理だと思い直し話す事にした。
「まだ協会が確認しているから詳しく話せないけど、Dカードの機能の一つなんだ。僕は装備収納と呼んでいるけど、自分の持ち物限定で、触れている物全て収納出来るんだ。持てる重さに制限はあるけどね」そう言う雫斗に目を見開いて色々聞いてくる京太郎さん、詳しく話せないけどって言っているのにお構なしだ。
「なんと!、では儂でも使えるんだな?どのくらい入る?。大きさは関係ないのか?。全てと言ったか? 生きている物も入るのか?」。
最後の”生きている”に反応した雫斗は、”そういえば、生き物で試していないや”と、何気なく隣にいる弥生に触れてみる「あっ、生き物は無理みたい」と言った後間違いに気がつく、弥生って僕の持ち物じゃ無いやと、しかし遅かった。
収納されそうになった弥生は、憤慨して雫斗に詰め寄る。「今、私を収納しようとしたわね!、何を考えて居るの。間違えて収納出来ていたらどうする積もりだったのよ?、信じられない!!」。
激しく怒る弥生に、流石にあれは不味かったと反省した雫斗だったが、苦しい言い訳を始める「えぇ〜と、しゅ収納の定番だから、生き物は無理かな〜と思っていたし、自分の持ち物限定だからまず入らないから、それに多分収納の中の時間は現実世界と一緒だから大丈夫のはず」。
「じゃあ〜貴方も試してみましょう!」そう言った弥生は雫斗の二の腕を両手でガシッと掴み「収納!、収納!、収納!、」と連呼する、確かに気持ちのいい物ではない、罷り間違って収納されては堪らないと 「やめてよ〜、悪かった!。悪かったってもうしないから!」。
喧嘩を始めた二人に焦れた京太郎爺さんが「ええぃ!!、辞めんかー!痴話喧嘩なぞ始めよって。雫斗!、さっさと儂の質問に答えんかー!」。
京太郎爺さんの一括で、弥生の攻撃は止まったが、”ふんっ”と言ってソッポを向いてしまった。仕方がないので雫斗が今日分かった事を説明した、もちろん百花の黒歴史は話さない、まだ死にたくないから。
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