第28話  再びの検証は、恐怖と絶望の飴荒られ(その2)

 「皆んな揃ったから行こうか」と言うと、それぞれ水中花火と購入したものを詰めて、ぞろぞろと歩き出す、そんな雫斗たち一行を吉川さんが不審な顔で見送っていた。


 入ダン手続きを終えて、ダンジョンに入ると最初の広間で説明する事にする、もう待ちきれない人が若干名(一人)居るからだ、安全を確保したら皆に向き直り話し始める。


 「えへん、えー今日皆さんに来て頂いたのは、此れの事を検証する為です!」と言って勿体ぶった物言いで、大袈裟にDカードを実体化させる。


 海嗣以外が、不満そうな顔をする「Dカードの何を検証するのよ?」と少し怒り顔で百花が聞いてきた「まぁまぁ落ち着いて」と雫斗が宥めて続けて言う。


 「不思議だと思わないかい、このカード、いったいどこに消えているのか?」カードを出したり消したりしながら雫斗が聞く、恭平と弥生は期待する様な表情に変わったが、まだ百花は何を言っているんだと言う顔をするもう少しだ。


 おもむろに雫斗は付箋紙を出して「でこれです、この付箋紙を一枚張って消したら、いけそうじゃ無いですか?」と思わせぶりに言うと、雫斗は付箋紙をDカードに一枚張った。


 「皆んな一斉にやろうか」と宣言して張り終わるのを待つ「カウント3で行くよ。1・2・3!」全員でカードを消すと雫斗以外の付箋紙がひらひらと落ちていく。


 落胆する恭平と弥生、怒りの声を上げる百花、性格が出るなと思いながら、あえて罵声を受ける雫斗「何よ出来ないじゃない」という百花の目の前に、付箋紙の付いたのDカードを突き付ける。


 「フフフフフッ、こういう事なのだよ」と得意げに言う雫斗の顔を見て百花が「嘘、・・・信じられない」と呆けている、消して無かったんじゃないかと疑われる前に、付箋紙の付いたDカードを出し入れして見せる。


 昨日説明した海慈は、芝居じみた雫斗の説明に苦笑いをしているが、ほかのメンバーは目を輝かせて”どうやるのか”聞いてきた「それをみんなに確かめてほしいのさ、カードの収納の発現条件は検討が付いているんだ」。


 こらえ性の無い百花が「教えなさいよ!!」というのを無視して三本のひもを突き付ける、ちなみに昨日作ったくじ引きで、別々の条件で試してもらうつもりだ。赤を引いた人には10匹のスライムを倒した後、一旦ダンジョンを出て、時間をおいてから何匹のスライムを倒すと発現するか調べてもらうつもりだ。


 黄色を引いた人は、10匹スライムを倒した後、他の魔物数匹倒して、それからカード収納の発現まで、スライムの討伐回数を記録してもらう。青を引けば当たりだ、そのままスライムの討伐回数を数えながら、発現した回数を記録してもらう。


 「何よこれ!」という百花「せっかく三人もいるんだから、条件を変えて調べたくてね、それと発現の条件は多分だけど、ダンジョンに入ってからスライムの50匹以上の討伐だと思うから、そのことを覚えておいてね」と雫斗がそれぞれの色の条件を説明する、不満顔の百花だったが私が先に引くわと、いっぽんのひもを引く、・・・・見事赤を引き当てた、絶望の表情を浮かべる百花、他は青が弥生、黄色が恭平に決まった。


 すると百花に救世主が現れた「赤の検証は私がしよう」と海嗣父さんが言い出した、すると百花は喜びの表情を浮かべて「おじさま、優しい!!、有難う御座います」と言いながら”キィッ”と雫斗をにらみつける、くじを引いたのは僕じゃ無いのにと、思いながらたじろぐ雫斗だった。


 結局、百花と弥生がそのままスライムを倒して、発現した時の回数を調べてもらうことになった「じゃー条件は覚えたね、収納が発現し終わったら報告しに来てね、それからここに来ながらでいいから、小石を拾ってきてね、収納の容量を計るから、僕はここにいるからね、あっ、あと付箋紙は持ち帰ってきてね、そのまま捨てたらだめだよ」と皆を送り出した。


 雫斗は、最初に収納が発現する人は1時間半くらいかかると予測して、1時間でスライムを打撃だけで倒して、どれくらいの数になるか試してみようと思った、スマホのタイマーを1時間にセットしてバイブにセット、再度確認(頭の中で、鳴り響くベルはごめんだ)収納に放り込む。


 ”さあやるか”と気合を入れて、最初のスライムをターゲット”トオルハンマー”を振り下ろす、26回の振り下ろしで倒せた、呼吸を整えながら次のスライムの狙いをつける、今度は28回、1時間の長丁場を考えて、ペースを抑えているとはいえ、かなりきつい、次のスライム25回・・・。


 10匹目を倒したところでへたり込んだ、時間はどうか?とスマホを出すと40分を超えていた、1時間でギリギリ14・5匹か、50匹となると3時間?いや疲労を考えると、4時間下手したら5時間近く掛かるかも、それを考えると、花火を使ったスライム討伐のなんと優秀な事か、ただ歩いて花火を投げるだけで1時間で50匹以上を倒せるのだ。


 ”これは母さんに頑張って貰うしかないか?”そんな事を考えながら、雫斗は頭の何処かで別の事を考えていた、人間つらい事が有るとどうにかして、楽が出来ないかと考える訳で、収納からいきなり出したらどうだろうと考えた。重い物を振り回すから疲れる訳で、インパクトの瞬間だけ収納から出せばいけそうな気がした、しかも投擲の要領で”加速をつけて収納から出せば威力が上がるかも?”と考えたのだ。




 のそりと起きだし、手ごろな岩に向かって構える、その構えは大上段、呼吸を整え気合い込めて振り抜く、・・・まだ収納から出さない、イメージを少しずつ形にしていく、もう一度構える、右手の小指と左手の人差し指が重なるように、呼吸を見て振りぬく!もう一度と大上段に構える、その時雫斗は爺様に言われた事を思い出していた、”わしの教える剣は、竹刀を持って振るうような小手先の技ではない、人をぶった切る力の業だ、持ち手を離すと刀と一体には為れん、持ち手を重ね腕と刀が一体となることを感じながら降り抜くのだ”。


 その時の雫斗は、この爺様、人を切ったことがあるのか?と思うほどの気迫で言われた、流石に”人を切ったことがあるの?”とは聞けなかったが、その時の爺様が醸し出す気迫は、今でも覚えている、それを思い出した。


 すさまじい緊迫感の中で、弛緩した出来事を事を思い浮かべて、適度な気の張となり、・・・振りぬく、”インパクトおっ!!!”。


 振り抜かれた腕の振りと、加速したまま出現したトオルハンマーのヘッドが岩へとぶち当たる「ガアッン!」すさまじい勢いで岩へと当たるが、岩の固さに弾かれてしまう、もう一度・・・・ 振り抜く、インパクト。


 静寂の中、岩へと打ち下ろす打撃音だけが洞窟に木霊する、しかしその打撃音の前に空気を切り裂く音が混じり始める、それが次第に大きな風鳴りとなっていく。


 そんな中雫斗は無我の境地に入っていく、意識しているわけではない。あえて言えばダンジョンがそうさせたのだといえるが、その時の雫斗は集中して気を張っていただけなのだった。

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