第26話  偶然が有るのは必然で、必然を引き当てるのは偶然なのか?(その3)

 ダンジョンが崩壊して魔物があふれ出た事によって、 地上は破壊尽くされ、数十キロにわたって魔境と化した、大国の首都や主要都市に至っては、戦術核の使用を複数のダンジョンで使用した為か、規模が数百キロに及んだ。


 政治時の中枢である首都の中心部でダンジョンの魔物があふれ出たのだ、その破壊力はすさまじく政治経済はもとより、社会的な活動そのもの影響した。大国が割れたのである。


 ダンジョンが出現するまでは、超大国と呼ばれていたアメリカ、ロシア、中国は、複数の勢力に分かれて覇を競っている最中だ、ダンジョン崩壊の影響で資源と食糧の不足、流通の崩壊によって世界は深刻なダメージを負った、特に食糧や主要な鉱石、エネルギー源を他国からの輸入に頼っていた日本は、深刻な状況に陥ったのだ。


 しかしダンジョンの研究、ダンジョン産の物質の基礎研究を怠らなかった事で、難局を乗り切る事ができた、今世界は技術大国と言われた日本と ドイツを中心にダンジョンから齎される資源に依存する社会構造へと変わっていった。


 「あなた。私、明日中央へ行ってきます、香澄のお世話お願いしても良いかしら?」と悠美が話す「それしか無いだろうね。香澄は心配いらないよ、良子さんもいるしね」と海慈が承諾する。


 「しかし、花火を生産させるのに時間はかかるだろう?どうするんだい」と海慈が悠美に聞くと、おもむろに立ち上がり雫斗が海慈に渡した水中花火を持ってきた、中を開けて一つを取り出すと隅々まで見てから「大した構造じゃないわ、何処の花火工場でも出来そうね、後は利権の問題かしら、・・・他に何か方法は有るの?」と何気なく聞いてきた。


 雫斗は少し考えて「エアーのタンクを身に着けて、管の先をスライムに差し込めたら、空気の力で破裂させることが出来るかも?」と答えると、呆れた表情で悠美が見てる。


 「僕が考えたんじゃないよ、百花だよ」と百花に擦りつける「いいわその事も含めて詰めていきましょう、雫斗手伝って」と自分のタブレットに要点をまとめだした、それから1時間後、海慈を含めた3人で、ある程度まとまった内容を確認していた悠美が爆弾を落とす。


 「雫斗あなた此の事、誰にも言っていないのよね」と悠美、考えなしに雫斗が「うん、誰にも言っていないよ、まだ検証中だしね」と答えると、気の毒そうに悠美母さんが「そう、百花ちゃん達にも?」と聞いてきた。


 ギクッとした雫斗が、冷や汗を流しながら言い訳する「検証もまだだし、解らないこ事も有るし、百花ちゃん達、興味ないって3階層に行くし」と訳の分からない事を言いながら焦っていると。


 雫斗の両方のほっぺを伸ばしながら「早く教えた方がいいわよ、じゃないとそのほっぺの皮が分厚くなるわよ」と脅してくる。


 雫斗にしてみたら、往復びんたでも軽い方だ、正直首がむち打ちになるくらいなら良いほうだと本気で心配していたのだ。


 がっくり肩を落とした雫斗が「明日、百花達と検証してくるよ」と諦めた様に言う。彼は今、断頭台に向かう人の気持ちがわかった気がした、その時救いの神が現れた。


 「明日、検証をするなら私も一緒で構わんかね?」と海慈父さん「是非お願いします」と涙目の雫斗、これで首がつながった。


 「分かった、香澄は午後、君の両親のところに預けて来よう、半日ぐらいなら構わないだろう」と笑いながら言う海慈に。


 「半日で済めばいいけどね」と悠美、悠美の両親の香澄の可愛がり様は尋常でないのだ、香澄を寝かしつけてきた良子さんが。


 「大丈夫でっス、香澄様を洗脳の脅威かッら守ってみせまッす」と可笑しな気勢を上げていた。


 「雫斗、水中花火だけど、段ボール一つは持って行くわよ」と悠美が断りを入。


 「あの花火は僕のじゃないよ、貰った事になっているけど、売店に預かってもらっているんだ」と、暗に所有権は売店が持っている事を伝える。


 「そう分かったわ」と言って悠美は関係各所に配るメールを作成するために、パソコンの前へと向かった。


 肩の荷が下りてほっとしている雫斗に、静かに海慈が声を懸ける。


 「雫斗、君は親を頼っていいんだ、子供だとか、大人だとかは関係ない。家族を、子供を守るのは、親の責務だからね、それを忘れてはいけないよ」。


 「うん分かった、父さん・・・僕もう寝るね、おやすみなさい、良子さん、おやすみなさい」と声を懸けて2階へと上がって行った。


 「おやすみ」、「おやッすみな~さい」階上にと上がって行った雫斗を見ていた良子さんがおもむろに。


 「土ッ曜日ィから、どッとうの、展開でっスね」と良子さんが興奮して言う。


 ”確かに、雫斗が探索者カードを取りに行ってから、物事が回り始めた気がする、・・・・良子さんが言っていた事は、案外的を射ているのかもしれない”、と海慈は思い始めていた。


 雫斗は、寝巻きに着替えると”パフン”とベッドへ倒れ込んだ、深い息を一つ吐くと、気持ちが楽になのがわかる”此れが、肩の荷が降りたって言う事か〜”とじじ臭い事を考えていた。


 しばらく、ぼ〜っとしていると、一連の事が蘇ってくる、スライムを花火で破裂させる事を思い付いた事に始まり、収納できる事の発見とその後の騒動、色々考えても事の起こりは一つしか考えられない。


 ” やっぱりあれが原因だよな〜”と考えた、そうオークとの遭遇戦だ、それを改めて考えてみると、流石に芝居じみてるなと雫斗は思えてならない、百花が予感めいた事を口にした事も、弥生が雫斗の危機にオークに隙を作り出だせた事も、雫斗がオークの動きを封じる事ができた事も、とどめを恭平がさせた事も。


 考えれば考える程、芝居の演出じみて見えてくる、流石にあれは過剰演出だ、オークを何とか倒して” やった”と思ったら、オーガが出て来るなんて、出来の悪い映画を見ている様だ、しかもヒーローがいきなり現れてあっさり倒していく、使い古された演出だ。


 しかし其れは現実に起こった事だ、雫斗は奇跡を信じない。いや少しはそうかな?と思う事もあるが。


 基本、物事の積み重ねがそうさせると思っている、偶然が偶然を呼びそれが積み重なって、奇跡と”思える”現象を引き起こす。


 この水中花火の騒動もそうだ、たまたま斎賀村にいる雫斗が偶然スライムの花火での討伐を思いつく?。偶然製造の終了した水中花火が雑賀村にある?。偶然廃棄処分する筈の水中花火が売店の倉庫に眠っていた?。アホらしいほど偶然が重なっていく、だけどそれが必然になって行くんだよな〜、とぼんやり考えていた。


 雫斗は何か得体の知れないもののレールの上を歩いている、いや歩かされている様な気がしてならなかった。

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