第25話  偶然が有るのは必然で、必然を引き当てるのは偶然なのか?(その2)

 水中花火の製作元が、花火の製造を終了しているという話を大人しく聞いていた雫斗に悠美は続けて言う。


 「それでね、在庫が無いか聞いたらしいの、そうしたら使用期間が過ぎていて処分したらしいのよ、多分他の販売所も同じだろうって。ここの売店に残って、しかも使える状態なんて、奇跡みたいなものらしいわよ」と何となく、売店の在庫管理を咎める口調で言う。


 「そこで、本題なんだけど」と改まった口調で続ける「その製造業者に、水中花火の製造を再開出来ないか聞いてみたらしいの、そうしたら月500ケースを協会での買取を条件にして来たの、それにスライムでしょう、人気の無い魔物だしダンジョンカードの取得として使うにしても、そんなに要らないから要請しない事にしたの、だから雫斗の申請したスライムの新しい討伐手法の評価が上がらないの、ごめんねー」。


 話しを終えて、ズズズとお茶をすする悠美をしばらく呆けて見ていた雫斗だったが、言葉の意味が形と成っていくに従って、事の重大さを感じ始める。


 水中花火が無い?、製造されない?、在るのは売店の2ケースと少し?・・・もし雫斗が水中花火が無い中で、収納の事を発表したらどうなるか考えてみる。


 スライムをハンマーで殴る、無理だ一日で50匹以上を倒せる筈がない。水を掛けて回る?出来そうだけど、条件がダンジョンに入場してからだと補給に行けない。


 待てよ、一日限定じゃ無ければ、数日懸けて殴り倒せばいけるか?しかし時間制限が有れば意味がない。 下手したら気の短い人だと広間一つ爆破しかねない、そんな事に為ったら、ダンジョン崩壊の二の舞だ。


 顔を蒼ざめて、ぶるぶる震えている息子を見て、悠美は最初、評価されない事への不満かと思った、しかし動揺の仕方が半端ではない、異変を感じた海慈も居間に足を運ぶ。


 「母さん、お母さん、お母上、大変です世界の危機です、滅亡の始まりです、ダンジョンが崩壊するかも知れません」。


 わなわなと声を震わせて話す息子に「落ち着きなさい」と海慈が深い低音で話しかける、悠美も「どうしたの?」とお茶を差し出して優しい目で見つめる。


 お茶を飲み両親がいる安心感から、落ち着きを取り戻した雫斗は、静かに話しだす。


 深い息を一つして「これなんだけど」とDカードを見せる、海慈と悠美は顔を見合わせて「Dカードがどうしたの?」と聞いてくる。


 当然だ、自分達も持っているDカードを見せられても、どうしてこれがダンジョン崩壊に繋がるのか意味分からない。


 「このカードの機能を開放するのに、スライムの討伐が欠かせないんだ」悠美が不思議そうな顔で「機能?、どんな機能なの?」と聞いた。


 「これだよ」と言って、雫斗はおもむろにタブレットを収納から出して悠美の前に置く「あら、上手な手品ね、これ今日渡したタブレットじゃないの?」と悠美が呑気に聞いてきた。


 手品と勘違いして普通の反応をする悠美、しかし海慈は空中からタブレットを取り出したのを見ていた、驚いてあんぐりと口を開けてかたまっている。


 「少し汚れちゃうけどいいかな?」と断って収納から籠を出して、大ハンマー、体重計、ダンジョンの小石を次々と籠の中へ入れていく、どうにか驚愕から解放された海慈と割と落ち着いている悠美が聞いてきた。


 「じゃー収納のスキルが有るってこと?」。


 「スキルじゃない思う、しっかり検証したわけじゃないから何とも言えないけど、ただ発動条件にダンジョン入場後の、スライム50匹ぐらいの討伐があるんだ」そう言って、タブレットに書かれている今まで検証してきた事を話した。


 「呆れた、あなたそんな大事な事隠していたの?」と悠美。


 「別に隠してた訳じゃ無いよ、まだ検証の段階なんだ、発動条件も不確かだし、これからなんだ」と雫斗。


 「では、ダンジョン崩壊というのは?」と聞く海慈、まだ雫斗の話したことに意味を良く掴めていない様だ。


 「花火が無ければ、スライムの討伐に時間がかるんだ、気の短い人なら洞窟の広間くらい爆破しかねない、ダンジョン崩壊の引き金に成り兼ね無いんだ」そんな大袈裟なと海嗣は思ったが「日本なら大丈夫でしょうけど、やり兼ねない国なら沢山有るわね」悠美が頭を振りながら呆れた様に言う。


 かつてダンジョン発生当初に、政治の中枢を破壊された国の混乱に乗じて、過激な一派が危険な物なら蓋をすれば宜しいと、戦術核を使用した、威力の低い核で表層部分を破壊したのだ。


 その成功に、得体の知れないダンジョン相手に核の使用を躊躇していた他の保有国も、右へ倣う様に使い出した、あろう事か最初に使用した国が、条件付きで非保有国へ戦術核を売りだしたのだ。


 この日本でも、戦術核を使うかで世論と国会が紛糾した、結局世界唯一の被爆国として、核に対しての嫌悪感から、戦術核を使わない事に決めた。


 そして世界でダンジョンに対して戦術核を使わなかったのは、先進国では日本と、ドイツの2カ国だけだった、その他の戦術核を使わなかった国は、貧しくて購入できなかった極貧国と呼ばれた国々達だった。


 しかし1年後に悲劇が起きた、ダンジョンが崩壊し溢れ出したのだ、地下深くに有る筈のダンジョン深層が、深層にいる筈の強力な魔物が、地上へと雪崩れ込んだのだ。

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