第17話  ダンジョンの、ダンジョンによる、ダンジョンの為の、お約束?(その2)

 

 そのころ雫斗はおいて行かれて涙目になりながらも、皆を見送った後どうしようかと考える。水中花火でスライムを楽に倒せることは分かった、あまりに楽すぎて疑問が残るが、それは置いといて。


 「ジャンジャジャン!!、此処に取り出しましたる、この付箋紙」。と言葉に出してから”はっ”と我に返る、周りを見回し顔を赤らめながら”まー、いいや”と続ける。


 どうやら、仲間に置いて行かれて精神状態がおかしな方へ向っているようだ。要するに落ち込んでいるのか、それとも無理やり気持ちを奮い立たせて舞い上がっているのか自分でも分からない状態なのだが、本人は気が付かない。


 「このDカード。出したり消したり出来るこの不思議なカード、このカードを検証せずして、ダンジョンを知ることが出来ようか?」


 Dカードを右手に持ち左手に付箋紙を持って、演説をしていたが、声に出すと冷静になってくる。


 ”あほか俺は”、と思い直し前に試した事を思い出す。


 Dカードを取得した時にいろいろ試した、当然出したり消したりできるのだからと、ほかのものでも試した。鉛筆、ペン、消しゴムと学生の必需品に始まり、スマホ、リモコン、物は試しと冷蔵庫。


 ことごとく試したが、当然誰も出来ていないのだから出来るはずもない、仕方なしにずーとDカードと睨めっこをしていると軽いことに気が付いた、いやそもそも重さがあるのか?。


 持っている手から離す事が出来ない為、計量器で測ることが出来ないが、多分普通のキャッシュカードと同じ重さだと思えた。 


 そこでカードよりも軽いもので試そうとお母さんの使っている付箋紙を持ち出してきた、黙って持ち出したが後で返せばいいやとそのまま自分の部屋で実験開始。


 まずはカードより軽いであろう付箋紙をカードに張り付け消してみる、他人が触る事が出来ない事から、心配していたが一応貼り付ける事は出来るが・・・・。カードは消えて付箋紙はひらひらと落ちてきた。


 ”くそう!!”、ともう一度試す、・・・・やっぱりひらひらと落ちてきた。”駄目か”と 何度も繰り返すうちにふと、カードと一緒に一瞬消えるが、それから弾かれた様に現れて、ひらひらと落ちてくる様な気がした。


 それでも何度も何度も試すがどうしても消えてくれない、やっぱり気のせいかとその時はあきらめたが、どうしても気になって仕方がなかった。


 探索者カードを取得して、自由にダンジョンに入れる様になったときそのことを思い出して、試してみようと付箋紙を買ってきたのだが、雫斗自身上手くいくとは思っていない。


 「さて?どうなることやら」とカードに付箋紙を一枚張り付けて、消してみる。”あ~~ら不思議、カードは消えたけど付箋紙はこの通り”とひらひらと落ちてくる。・・・・付箋紙を探すが見当たらない???。


 「えっ?消えた、まさか、どうして?」、とぶつぶつ言いながらグルグル辺りを周り始める雫斗。


  他から見れば怪しい人である、それでも信じられなくてしばらく落ちているはずの付箋紙を探しているが、”カードを出して見ればいいじゃん”と気が付く。


 付箋紙の張り付いたカードを思い浮かべると、出てきましたDカードに張り付いたままの付箋紙が、しばらくカードを持った手をぶるぶるふるわせながら歩き回っていたが、冷静さを取り戻した雫斗はその場に胡坐をかいて座るとふと周りを見回した。


  ”やばいダンジョンの中だ”と思い出した雫斗は安全を確認すると同時にとりあえず落ち着けと、背中のリックを下ろし水の入ったペットボトルを取り出すと水を飲んで気持ちを落ち着ける。


 しばらくして落ち着いた雫斗は消えてしまったカードを出現させる、当然だというように手の中に付箋紙の張り付いたカードが現れる、雫斗はカードに付箋紙をもう三枚ほど重ねて張り付けて消してみる、やはり消える、出して見る、出てくる、何度か繰り返しているとふと別々に出し入れできるかやってみる。


 結論から言うと出来ました、自由自在カードだけだろうが一枚の付箋紙ついたカードだろうが、二枚の張り付いたカードだろうが、付箋紙だけだろうが、イメージどおりに出せることが分かった。極めつけは付箋紙を横にずらしてカードに張り付いるイメージをしても出し入れできたことにはびっくりしたが。


 ついでに言うと手に持っていた付箋紙の束も出し入れできました、慣れてくると他の物で試したくなってきた、隣に置いたペットボトル、消えません ”どうして?”と捕まえようと指が触れるとパッと消えた、すると頭の中にペットボトルのイメージと、ばらばらの付箋紙4つと付箋紙の束のイメージが浮かんでくる。


 ペットボトルを手に持つイメージをすると手の中にペットボトルが現れる、すると頭の中のペットボトルのイメージが消えた、


 ”なるふぉど”、・・・間違えた”なるほど”、手に触れていないと収納出来ないのか?・・・それならともう一度ペットボトルを出現させて(かなり手馴れてきた)、目の前に置き何も触れずに念じる ”消えろ”” 消えない、指先でペッボトルの蓋に触れる、消えた!!、そのまま地面を見つめてペットボトルを置くイメージをする、出てこない人差し指を前に出し蓋に触れているイメージをする、出現したとたん落っこちて地面に転がる、”イメージすると何でもありだな”と思いあれこれ試す。


 結局取り敢えず分かったことは、体に触れていたら何処でも出し入れ可能だったこと、驚いたのは着ているズボンの上にも出すことができた事だ、どうやら着用しているものは体の一部と見なされる様だ、そこで考えた”着ている服も出し入れできるんじゃないかと”、自分の着ている服を収納しようとして、はたと気づいた”こんなところでスッポンポンになったら、変態じゃないかと”ぶんぶんと頭を振ってイメージを吹き飛ばす。


   


 

 ”危なかった!!、もう少しで何かに目覚め・・・ちがう!!!心に傷を負うところだった”。・・・・スッポンポンを回避した雫斗は後はどれくらい入るかな?と周りを見回す。


 目に入ったリックサックこれ位ならと触れて収納・・・できない、なぜ?。”リックサック位収納できないなんてしょぼいな~”と思いながら、リックサックの中身を個別に取り出してに収納に入れ始めた。


 {スマホ入った}、{メモ帳入る}、{ボールペン入る}、入れるたびに、頭の中に入れたものがイメージとして残る。どんどん入れていく、{サンドイッチ入る}、{水中花火の箱入る}、{もう一つの水中花火の箱入らない}。


 ”えええ??これだけしか入らないの”と慌てる重量にして1キロも無いぐらいか?、”ひでえ~使い物にならね~~”。落胆して収納出来なかった水中花火を持っていない手で、リックサックをもち上げ様としてはずみで収納してしまう、いきなり消えたリックサックの重さに、加減できずにバランスを崩して盛大にコケてしまう雫斗。


 倒れたことにパニクッてしまい、慌てて起き上がると処に消えたと周りを探すと、暫くして収納出来たのかと気付いた時、頭の中にリックサックのイメージがあった。肩ひもを掴んだリックサックをイメージ出て来た、もう一度収納入った。


 訳が分からず入らなかった水中花火の箱を見つめる、”そういえばこの箱、百花がいらないって渡してきた箱だ”、思い出してみて腑に落ちた、収納するのに明確に所有者を限定するようだ。


 ”なんちゅう仕様だ所有者を識別するのか? でも考えたら当たり前か、なんでも収納出来れば、窃盗のし放題だもんな~~”と考えを改める。


 取り敢えず仕組みなんか考えても解らないので、収納したリックサックに意識を向ける、リックの中身は何かな? と意識すると入っている物が分かる、タオルを取り出す・・・出て来た、タオルをリックに入れる・・入った、リックを取り出す・・当然出て来た、そのリックから蓋を閉じたままタオルを取り出すイメージ、出来ない。


 さっき収納したサンドイッチをリックの中に・・入らない、リックの上は?出て来た、”なるほどね収納したものは認識の範囲だから中身も分かると、一旦取り出すと認識の範囲外だから中身までは分からない、中に所有者以外の物があると全体を所有物と見なさない”そんなものかと納得した所で、お腹が鳴った。


 リックの上に置かれているサンドイッチを見て腹の虫が泣いた様だ、そういえばお昼を食べていないことを思い出した、収納からスマホを出して時間を見る。


 ”これ便利だわ”と思いながらスマホの画面を見るが、その時ふと考えた、これ時間当たっているのか?収納に入れっぱなしだった事を思い出したのだ。


 スマホのタイマーを10秒間にしてスタート、すかさず収納する「1,2,3,4・・・」、カウントを数えながら10秒経ったぐらいに、頭の中でベルが鳴り響く、「ぎゃやや~~」。


 慌ててスマホを取り出す、震える手でベルを止めて呼吸を落ち着ける。


 ”はあはあは・・・なんて・・音だ”、まだ頭の中で鳴り響いている、気持ちを落ち着けて今度はバイブにしてタイマーセット、スタートして収納する、自分でカウントを数えながら身構える、10秒後振動を感知、取り出してタイマーを止める。


 どうやら時間は変わらないらしい、後で家に帰ってから詳しく確かめることにする、時間は4時を少し回ったところ怒涛の展開に気持ちがついて行かない、サンドイッチを食べながらスマホにまとめていく。


 食べてお腹が落ち着くと、スマホにまとめた事を見ていく、箇条書きに書かれている画面を見ながら、ぼんやりと”タブレットが欲しいな”と考える、書いたり纏めたりするのにスマホは不便だ、後で母親に相談しようと思った。


 後はどれだけの量が収納できるのか?、今まで収納していた物をリックサックに詰め替えて収納をからにする、リックを背負いおもむろに歩き出し、石ころを拾いながら収納に入れていく。


 入りきれなくなったところで出口を目指す、入り口に戻るだけだけど、途中でどのくらいの量を持てたのか確かめたくなった。


 壁際によって全部の石を取り出してみる、「グァララングワラン」と小石が山積みになる、”結構入るものなんだ”と感心しながら山積みの小石をしばらく眺めていると。


 「何をしているのよ!!」といきなり声を掛けられた。「ぎょゎ~~!!」雫斗の悲鳴に声を懸けた本人が驚く「のわぁ~~!!、びっくりするじゃない、脅かさないでよ」。


 百花が怒って言い寄る、「びっくりしたのは僕だよ、急に話しかけないでよ」と怒りをあらわにすると。


 「壁際でボンヤリしているからじゃ無い、ダンジョンで油断しているとひどい目にあうわよ」と百花”こいつ忍び足で近づいたのか?”と雫斗が聞こうとしたとき。


 「この小石の山なんに使うのよ?」と逆に聞かれてしまった、答えようとしておいて行かれたことを思い出した雫斗は、世紀の発見をしばらく黙って居ようと思った。


 「えっと~~、チョットした実験?」挙動不審になりながら雫斗が答えると「小石を山積みにして?!!、何の 実験よ」と容赦のない百花さん。


 「・・・・んとね、この、・・小石の・・山が、なくなるのが。・・どれ位、かかるかな~~って」言い淀む雫斗に百花は疑惑の目を向けていたが、浩三さんが笑いながら「そろそろ行かんかね?」の一言でダンジョンを後にすることになった、うまく誤魔化せたが冷や汗をかいた雫斗であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る