第16話  ダンジョンの、ダンジョンによる、ダンジョンの為の、お約束?(その1)

 百花達3人は恭平の父親の浩三に連れられて3階層へと向かって歩いている、とはいっても完全に舞い上がっている百花が先導している形になっているが、浩三は何も言わず百花に斥候を任せている。


 「じゃー何かね、スライムが簡単に倒せるというのかね?」と浩三が興味を示して聞いてくる。


 「そうなんです、花火に点火してスライムに飲み込ませるだけ、あまりに簡単で拍子抜けしちゃいました、あれならいくらでも倒せますね。だけどスライムでしょうドロップがしょぼくて、百花が飽きてきちゃって今変なテンションなんです」と弥生がこれまでの経緯を話している。


 その百花は先頭をずんずん進んでいく、2階層で出てくるケイブバットを木刀で叩き落とし、ケイブラットを足で踏みつけて、後ろで談笑している3人を気にした風もなく戦車のごとく歩いていく。


 ようやく3層へと到着した、階段の洞窟を抜けると目の前に広がる草原、奥の方に森の木々が群生している、空には青空が広がり雲がたなびいている。


 地上であれば何処にでもある風景だが、ここは地下のダンジョンの中だ、たかだか5メートルほど降りた洞窟の階段の先が、高さ数キロメートルは有ろうかという広い空間だとは、まさしく不思議の国ダンジョンである。


 不思議その1、降り注ぐ日の光、しかし有るはずの太陽は見えず。ご丁寧に雲の影まで再現している、しかも夜や気象の現象で有る雨や霧など地上の天気を事細かに再現する、もちろん四季も同様だ。


 不思議その2、空の高さ。ドローンを飛ばして見たところ上昇限度は100メートル前後、それ以上は進まなくなる何かにぶつかると言うわけではなく、それ以上はいけなくなる見えているのに行けないとはこれ如何に。


 草原に降り立った一行は呆けた顔で周りを見回す、初めてではないがいつ来ても圧倒されてしまう景色だ。


 浩三が皆を見回して、「何度か来ているから分かるとは思うが油断しない事、特に深い藪には魔物が潜んでいることが多い、3層までのダンジョンで熊や豹などの大型の魔物はいないが、キツネや兎を甘く見ると痛い目に合うよ」と注意する。


 「解っているわ、ダンジョンはダンジョンだもの、油断なんてしないわ、それよりトレントなんて初めてだわ、どうやって狩るの?」と百花。


 「そうだね中に入ると危ないから、割と安全な階段下で話そうか」と浩三が車座に座るように促す。


 「ダンジョンの魔物はリポップする、リポップする瞬間を見た人はいないが、これは常識だとされている。なぜかというと子供の魔物が確認されていないからだ、もし子供の魔物が確認されると常識が覆るね、ここまではいいかな?」。浩三が見まわして確認を取る。


 「そうね大体聞いていた事とおんなじだわ」と百花が代表して答える。


 「さてこれからは安全の確保についてだ、君たちはまだ探索者としての立ち位置を確保しているわけじゃない、1年間はノービスつまり探索者としての経験を積むための準備期間だ」それを聞いて百花が鼻を鳴らすが構わず続ける。


 「その期間を終えると中層や深層への探索に行くことになるだろう、その時安全の確保は大事になってくる、見ての通り階段下もしくは階段の上の空間には魔物がいない、今まで階段を使った、つまり降りたり登ったりした後だが挟撃された記録がない。・・それにモンスタートレイン、魔物から逃げる際ほかの魔物にも追撃されて、大量の魔物に追い回されることだが、命からがら階段を上がったパーティーの報告では魔物の階層移動は確認できなかったそうだ、つまり魔物は制約があるのか階層間の移動ができないわけだ、その事からこの周辺は安全だとされている、確証はないが容認されていると言う事かな」と一息ついて皆を見回す、とりあえず真剣に聞いているみたいだ。


 「次は洞窟での安全はどう確保するか、さっきリポップしている瞬間を見た人はいないと言ったが、逆を返せば人のいるところではリポップしないとも言える、洞窟を通ってきて分かるが通路と広間で構成されている洞窟はその広間を制圧すれば、とりあえず安全を確保できると言う事だ」そこまで言ってのどを潤して「何か質問は?」と聞いてくるので。


 「じゃー、入り口を一つに限定できる突き当たりは安全と言う事ですか?」百花が聞いてくる、いい質問だという様に笑いながら「一概には言えないね、例えば移動して来た魔物が弱い魔物なら倒せるからいいが、手に負えない魔物だとどうする?」そう言われて。


 「あっ!、逃げ場がないわ!!」と百花。


 「状況に応じて対応することだね、さてトレントだが、魔物には強みと弱点がある、分かるかな?」と浩三が聞く。


 「スライムの先の尖ったものに弱いことと、打撃に強い事みたいな?」と弥生が言うと。


 「そういうことだ、トレントも火と斧に対して強い嫌悪感を持っている。例えば斧を見せると震えあがって枝を飛ばしてくる、3階層のトレントはモドキと言って枝飛ばしも大したことは無い避けることは簡単だ、しかも6階層から出てくる本物のトレントの様に動ける訳じゃない、枝を飛ばし終えたトレントモドキは無防備になる、そこで顔の額のところにある魔核を壊せば倒せるわけだ、簡単だろう?」、百花達は顔を見合わせる、あまりに簡単に倒せる魔物に、物足りなさを感じていた。


 「ここでは冒険は期待しない方がいい、3層の最強魔物はウルフ系だが単独、多くても2匹でしか襲ってこない、君たちにとって脅威には成りそうに無いな、まー中層の魔物を倒す予行演習だと思って頑張るんだんね」そう言って立ち上がる、臨時の講習は終わったようだ。


 浩三は背中に背負った荷物袋から、クロスボウを取り出して弓を広げて固定する、そして短弓を持っている弥生に話しかける。


 「草原にいるキツネや狸、ウサギといった魔物は警戒心が強い、洞窟の蝙蝠やネズミといった魔物と違って、むやみに襲ってこない。勝機を待ってじっと潜んでいる、しかも弓系の武器には特に敏感だ。だから弓の射程距離では弓の引き絞る音でさえ逃げていく、極力弓は見せず素早く放つことを考えて行動しなさい」。


 「貸してごらん」とクロスボウと短弓を交代して、矢を3本受け取ると片膝をついて、20メートルは離れている丸太を指さして「見ていてご覧」と言うが早いか一本の矢をつがえると、残りの矢は弓の引き手の指に挟んだまま、狙いもつけず、”バシ!”、”バシ!”、”バシ!”と矢を放つ。


 矢は吸い込まれるように一か所に刺さったようだ、「やってごらん」、と短弓を渡された弥生はプルプルと震えている、あまりの早業に自分には無理だと訴えているのだ。


 クロスボウと短弓を交代した浩三は、弥生に今披露した短弓の使い方をレクチャしている、弓の握り方、矢のつがえ方、狙うときの呼吸と放つタイミング、次の矢をつがう時の指の使い方を詳しく教えている、一通り教え終わると少し離れて見守る。


 「最初は何時もどおり狙いをつけて、同じ所に当てるつもりで、ゆっくり矢を矧でいいから」とアドバイスをする。


 多少のぎこちなさは有るけれど、矢は時間をおいて丸太に突き刺さる。


 「よし!。後は鍛錬あるのみ動かない的だけじゃなく、動く的でも練習するように」と浩三さん。


 「動く的?」と疑問形で聞く弥生に「丸太では重いか。・・・枯れた木の枝に藁を巻き付けて、恭平に引かせたらいいよ」と恭平のお父さん。


 「えっ!!、僕が的になるの?」と戦々恐々の恭平君。


 「んん?、長いひもを括り付けて引っ張ったらいいよ、要は工夫だよ」とお前は馬鹿かと、にらみつけるお父さん「あっそうか~~」と安心した恭平だが睨みつけられて落ち込む、体は大きくてもまだまだ子供である。


 クロスボウの弦を張り準備の出来た一行は森を目指して、浩三お父さんを先頭にゆっくり歩き始める。






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