第15話  初のダンジョン探索は、地味がいい(その2)

 ダンジョンの周りには関連する建物が建っている、受付をするための施設と買取所それに併設されている警備員待機所と、最低限の建物が並んでいる。


 受付の前のホールは空いていて誰もいなかった、カウンターの前に来た雫斗達は受付の人に声をかける「芳野先輩、入ダン受付お願いします」菅原芳野、雫斗達の一つ先輩だ、受験生だが協会の受付でバイトをしている。


 「あら、今日は貴方達だけでダンジョンに? 探索者カードは持ってきた?」参考書をかたづけて芳野が聞いてくる、「はい」と答えてそれぞれのカードを機械に通す。


 「昨日、活躍したのってホントなのね、今日は何階層を探索するの?」と画面のデーターを見ながら聞いてくる。


 「1階層」と言いかけた雫斗の言葉に被せて。「1階から3階層迄取り敢えず回ってみようかと、帰りは5時の予定です」と百花が言い切る。


 「わかったわ、パーティーは組むけど別行動でいいのよね」と芳野先輩が笑いながら受付前のモニターを見ながらデーターを打ちこんでいく。


 「はい、雑賀村ダンジョンへの入場の申請は終わったわ。いつも通りにその水晶玉で確認・・・じゃ無かった。今日は探索者カードで触れて認証してね」と芳野先輩が目で促す、見つめる先は無色透明な水晶玉である。


 探索者カードの取得前まではその水晶玉に手を添えていたのだが、今日は探索者カードが有るのでそれで触れていく様に言われたのだ。


 モニターに映る入ダン手続きの内容を確認して、その隣に鎮座している水晶玉に探索者カードで軽く触れる。すると濃い青みがかった色合いに変化する。


 その水晶は探索者の本人確認の他に大事な役目がある。本来はそれが目的で設置されているのだが、その水晶はダンジョンカードと紐付けられた探索者カードを、所持している人物が本人かどうかを識別できるのだ。


 そのことに目を付けた協会が、ダンジョンの入場から、取得物の換金および討伐した証明、それに探索者の銀行口座への入金と、多種多様な事に応用し始めたのが始まりだった。


 その本来の目的とは。ダンジョンからの帰還の是非を確認する事だった、不思議な事に、この水晶玉は地球上の生物であれば触れると色合いが変わるのだ。


 濃い青から紫を経て濃い赤へと触れる人によって色合いが変わって行く、最初は何のことだか分からなかったが、時を経て感の良い者が気が付いた、濃い赤に近い人ほどダンジョンからの帰還が無いことに。


 それからは、ダンジョンから帰還できるかどうかの試金石(水晶なのに石とはこれ如何に)、別名帰還確認の水晶として重宝されるようになる。


 その水晶玉はダンジョンで産出される、大きな物は別にして小指の先ほどの小さな物は良く見かけるのだ。 雫斗も一度ダンジョンに入ると最低一個か二個は必ず見つけるのだが、換金してもいくらもしないので、ほぼ無視をしている現状なのだ。


 しかしお守りとしては優秀で、ペンダントやキーホルダとして携帯している探索者が大勢いる。階層を跨ぐさい、色合いを見て行くか行かぬかの判断の材料とすることは珍しい事ではない、かく言う雫斗も携帯をしている。


 其々が認証し終えて、色の確認を終えた芳野先輩が許可を出す。


 「OKよ、入ダンゲートの通り方は分かるね、いくら3層ダンジョンだからって無茶しないでね、気を付けて行って来るのよ」芳野先輩に見送られて村のダンジョンへと向かう。


 ダンジョンの入り口は建物でふさがれている、資格のない子供たちが入らない様にするためと、万が一魔物が出てこない様にするためだ。万が一とは魔物が入り口から出て来たことは今まで報告されていないからだ。


 ダンジョンの入り口付近はダンジョンの影響下にある、魔物がダンジョンの外に出てくるのは、リポップしているからだと言われているが魔物が出現する所を見た人はいない、つまり憶測でしかない。


ダンジョンの入り口は扉で閉じられている、扉の横のカードリーダにそのパーティーのリーダー(ソロだと一人)が探索者カードを通すと扉が開く、全員が入ると暫くして扉が自動で閉まるのでそのまま探索に行くことになる。


推奨されるのは、パーティー全員がカードリーダーにカードを通す事、監視カメラがあるとはいえ何かの事情で参加できない人が出るとも限らないので、確認の意味で全員の認証が推奨されているのだが、めんどくさがって省略するパーティーもいる。


 最初にパーティーリーダーの百花がカードを通す、認証された機械音とともにダンジョンを塞いでいる扉が開く、次々と認証を済ませて最後に雫斗がカードを通す、4つのカメラの圧迫感に顔を引きつらせていたが確認の表示にほっと胸をなでおろす。今日、百花がパーティーリーダーなのは途中で雫斗が離脱する予定だからだ。 


 雫斗達はゲートを通るのは初めてではない、何度か大人たちと通っている、非探索者一人につきの探索者一人の付き添い義務が条件としてあるが、薬草採取や鉱石の運搬など大人たちの手伝いをした経験がある。


 しかし今日は雫斗達だけでダンジョンに入る、その為緊張で顔が引きつっていたのだ。無事ダンジョンに入ると百花が頬の筋肉をぐりぐりとほぐしていた、どうやら緊張していたのは雫斗だけではなかったようだ。


 雫斗が「お仲間~~」と頬をほぐしながら笑いかけると、百花は顔を真っ赤にして「ふん!!」と背を向けて歩き出す。



 村のダンジョンは計測されていて詳細な地図がある、雫斗達はスマホに映した地図を頼りに2階層に降りる階段の有る方向から少しそれて進む、


 しばらく行くと一匹のスライムを発見した、ダンジョンの中のスライムは沼ダンジョンの周りにいるスライムの倍近い大きさがある。


 子供たちにDカードを取得させるのに、沼ダンジョンの外のスライムを使う理由の一つだ、最初のスライムの討伐は大きいスライムより小さなスライムの方が、倒しやすいだろうと思ったからだ。


 ブニョブニョと動くスライムを気持ち悪そうに見て「相変わらず気味の悪い動きだわ、塩の塊をぶつけたくなる」と百花。


 ナメクジを連想したようだ、確かにこんな大きさのナメクジなら見たくない、ちなみに塩をかけてもスライムには効かないことは実証済みだ。


 「誰からやる」と雫斗が聞くと。「言い出しっぺは貴方だから、貴方がやりなさいよ」と百花。 「わかった、これで撮っていてくれる?」とスマホを百花に預ける。


 百花がスマホを構えてキューを出す、雫斗は水中花火を取り出してライターで火をつける、”シュウ~~”という音とともに着火する花火、慌て雫斗はスライムの上に投げ捨てる。


 しばらく、もくもくと煙を吐き出していた水中花火は、静かにスライムの中に消えて行った。


 ”あれ~、失敗か?”と思ったとき「ボォフン」、という鈍い音とともにスライムが弾けた、すると”ビチャ”とスライムの残骸が飛び散り、敢え無くスライムは光の粒へと還って行った。


 あまりの成り行きにお互い見つめあっていると「わりと呆気なかったわね」と百花が言いながら撮影したスマホを雫斗に返す。


 「びっくりした!!、こんなに簡単でいいの?」と弥生。「いや~~、思っていたのと違う」と恭平。


 それぞれの感想を言いながら、ごそごそと花火を取り出して歩き始める、慌てて雫斗は「一時間後に、ここに集合だよ地図にマークしていてね」と大声を上げる。


  ピタッと止まった百花がスマホを取り出しながら親指を突き上げて、ダンジョンの奥へと消えていく、弥生もスマホを確認しながら付いて行く、どうやら百花と弥生は一緒に行動するようだ。


  恭平もスマホを見て別の通路へ消えていく、ダンジョンの洞窟は通路と広間の連続で迷路のようにつながっている、魔物は通路より広間の方に固まっていることが多い、皆はあたりをつけた広間に向かっているようだ。


 雫斗も皆と違う広間へ向かう、道すがらスライムを倒しながらニマニマが止まらない。こうも思惑通りにいくとは思っていなかったから久しぶりに気持ちが高ぶっている。


 目的の広場に着くとたくさんのスライムを発見した、人気のないこのダンジョンはスライムが討伐されていなくてけっこうな数が残っていた。


 雫斗は手を合わせてお辞儀をする、「どうぞいいドロップ品に当たりますように」1階層のスライムでもアイテムがドロップする、しかし浅い階層は深層より確率が悪い、それで神頼みではなくダンジョン頼みでお祈りをしているのだ、効果があるかは別にしてそれぐらいドロップしないと聞いている。


 さぁー始めるかと花火を取り出して火をつける、”シュ~” ポイ ”バフゥン”、”シュ~” ポイ ”バフゥン”、と軽快にスライムを倒していると、たまに”パァァァン~~”と大きな音が聞こえてくる。水中花火をスライムの上に置けなくてそのまま破裂させているみたいだ、洞窟の中だとけっこう大きな音が響いてくる。


 そろそろ水中花火が無くなるころ、集まる時間になったので集合場所へと戻っていく、ドロップしたアイテムは初級ポーション×3のカード1つと、スライムゼリーのカード3つまあまあの戦果だ、数を倒せたのがよかったみたいだ一時間で50匹以上はいい出来だと思う。


 ちなみにスライムゼリーは食糧ではない、食べられない事はないが薬とかの材料になるらしい。


 集合場所に着くとすでに全員が集まって雑談していた「ごめん、遅くなった?」と雫斗が言うと、百花が開口一番「飽きた」とご機嫌斜めだ。


 予想していた雫斗は”あはは”と笑うしかない、百花達は3層の草原で狐や兎の魔物を狩りたいのだろう、仕方ないこちらの検証に付き合ってもらったし、行ってみるかと雫斗が考えていると。


 「なんだ、お前たちか」と声がかかる、驚いて振り向くと壮年の大男が洞窟の通路から現れた。


 「おやじ!」「おじさん」と恭平と百花が同時に言う、現れたのは立花浩三、恭平の父親でダンジョンの3層で狩りをして生計を立てている。


 「ものすごい音がするから来てみれば、犯人はお前たちか?」と笑いながら話す。


 「あら!悪戯していた訳じゃ無いわよ、ちょっとした検証よ」と百花が雫斗を見ながら話す。


 「スライムの効率のいい倒し方を試していました、1時間で50匹以上倒せました」と期待を込めて雫斗が言うと。


 「そうか?、それはすごい」と一応驚くが反応は薄い、落胆する雫斗に。「報告だけは忘れずにな、何が収入に成るか分らんからな?」とアドバイスをする。


 「はい、ありがとうございます」と雫斗がお礼を言うと。「ねぇねぇおじさま、3階層へ行くんでしょう?私たちも連れてって」と百花が離脱を宣言した。


 「構わんが、木材集めだぞ?」と斧を見せる。「なんでもいいわ経験になるもの、退屈なスライムよりね?」と百花が鼻で笑う。


 ”くそぅ~~!、世紀の発見をしても教えてやらんぞ”と雫斗が震えていると。「はいこれ」と残った水中花火を、雫斗に押し付けて3人で浩三さんについていった。


 ”ぼっちだろうが、地味だろうが徹底的に1階層をしらべてやるぞ~~!!”とその時雫斗は誓うのであった。

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