第14話  初のダンジョン探索は、地味がいい(その1)

 敏郎爺さんの家を後にした雫斗達は、今日の予定を話し合いながら歩いている。


 「ねえねえ、せっかくだからダンジョンにいかない?」と百花、雫斗も行くつもりだったから、賛成するが一応断りを入れる。

 「僕も行くつもりだけど、1階層だよ?」「え~~、何でよ」と不満を露わにする百花。 「1階層ってことは、スライム?」と弥生が聞いてくる。


 「スライムってさんざん検証されているんじゃない?、今更何を調べるのよ!」とおかんむりの百花を無視して。


 「検証って言っても自分たちが調べた訳じゃないからね、せっかく自分たちでダンジョンに入れるんだから、とことん調べたいじゃないか」と雫斗が言うと。


 「で、何を検証するんだい?」と興味を惹かれたのか恭平が聞いてくる、弥生も聞く気になったらしい。 一人だけむくれている百花だが、一応何も言わないので雫斗は考えた事を得意げに話し始める。


 「えっへん!、 スライムって叩いても叩いても平気じない?」と雫斗が言うと。


 「そうね、打撃にはとことん強いわね、尖ったものには弱いけどね」と弥生。


 「そう!!打撃には強いスライムだけど、中からの打撃にはどうなのか?と考えたわけなのだよ」と雫斗が掛けていない眼鏡を押し上げる仕草をする、精一杯の秀才のパフォーマンスだが。


 皆の表情は頭の上に”?”マークが飛んでいる。


 「何それ、空気入れでも突っ込んで空気を入れるの」百花の頭の中ではスライムの横で、一生懸命空気入れのポンプを押している雫斗の姿を想像してニヤついていると。


 「それも一つの手だけど、もっと簡単なのがあるわけだよ百花さん」と雫斗が言う、しかし他の面々はポカーンとしている


 立ち止まって、皆を見回した雫斗はボソッと一言。


 「花火」、・・・・・・。そういった雫斗の言葉に一同視線を見合わせて。


 「なるほど中で破裂させるのか、とんだ盲点だな」と恭平が言うと。


 「面白そうね、何使うの?ロケット花火?ねずみ花火?爆竹?」と百花が興奮して話しだす。


 「どれも破裂系だけど、ロケット花火とねずみ花火は移動するから不味いかもね、爆竹は導火線が濡れるとちょっとね、スライムは水の塊だし。でっ、来る前にネットで調べたんだけど水中花火ってのがある」と雫斗が言うと皆は知らないらしく怪訝な顔をする「これこれ」と雫斗がスマホで動画を見せる。


 それはどうやら水中花火の宣伝動画らしく、花火を楽しんでいる家族の映像から始まる、浴衣を着て大きなタライに水を張りその周りで線香花火をしている家族、するとナレーションが。


 「花火は楽しい娯楽です、でも火を使うので危険がつきもの、遊ぶときは大人の人と一緒に楽しみましょう、水の用意を忘れずに。でもこれなら大丈夫」。


 すると一人の男の子が水中花火を取り出し、マッチの横で”シュッ”と擦ると勢いよく点火する、それをおもむろにタライの水の中へ放り込む、すると水中花火は”水の上を”シュ~”と言う音を立てて進み、しばらくすると「パン!!」と大きな音を立てて破裂する、水をかぶった子供たちが「わ~~」と楽しそうに叫んで逃げていく。


 動画を見た皆の反応はいまいちだけど、百花が「地味ね~~」と一言。


  ”地味って言うなし”と思ったけど、雫斗が気を取り直して「どう行けそうじゃない? 一応水の中でも破裂しそうだし」と言うと。


 「そうだな、まあどっちにしても試してみない事には解らないね」と恭平もテンションが落ちる。


 「そうね何事も試してみないと、ところでその水中花火この村に売っているの?」と弥生が言うと。


 「うん調べた、吉川さんが村の売店に何箱かあるって、でもかなり前に仕入れたから使えるかどうかわからないって」。他の面々の反応が薄くて意気消沈気味に雫斗が話す。


  ”じゃ~取り敢えず、現物を見てみよう”、ということで皆で村の売店を集合場所にしていったん家に帰る事にした。


 昼食を取らないといけないし、防具を持って来ていないのでどうしても一度家に帰る必要があるのだ。防具と言っても、厚手の皮のジャッケトと、ズボン。後は肘や膝を守るプロテクターくらいのものだがないよりはましだ。


 一時間後、売店へと集まった皆は店の中へと入って行った。売店といっても、コンビニとスーパーと金物店が一つになった販売所だ、世帯数800人を賄える程度の規模で品数はそう多くはない、欲しい物が無ければ注文販売となるためしばらく待たなければならない、ちなみに電化製品も置いている。


 「吉川さん、今朝電絡した水中花火はありますか?」雫斗はレジのカウンターの中で暇そうに電子新聞を読んでいる、吉川夏美さんに話しかける。


 「あるわよ」と言ってバックヤードに消えた吉川さんは、台車に積んだ段ボール箱3つを運んできた。 そんなに要らないんだけどと思いながらも一応聞いてみる「おいくらですか?」。


 「いらないわよ、使用期限も切れているし、使えるかどうかもわからないもの在庫処分扱いでいいわ。でも何に使うの?、 一応火薬だから取り扱いには注意しないとね」と太っ腹な吉川さん。


 「ダンジョンで、スライム退治?」と雫斗は自信がないので疑問形で返す。


  「そう?、良く分からないけど全部はいらないでしょう?危ないし、うちで預かって置くから、使うときに取りに来て、とりあえず4つあればいいかな?」と段ボールを開けて、小分けされた4箱を取り出すと、カウンターの上に置いた。


 それから”にこー”と笑って「ついでに何か買っていってね」商売上手な吉川さんである。


 雫斗は飲み物とサンドイッチを棚から取り出しカウンターに向かいながら、買い忘れたものを思い出した。付箋紙とライター、火をつける道具を忘れては花火を買いに来た意味がない、ちなみにマッチは此の売店では売って居なかった。取り敢えず確かめられる事はとことんやろうと決めていたのだ。


 レジに戻るとほかのメンバーは買い物を終えていた、雫斗は商品をカウンターの上に出し探索者カードを取り出す。


 「あら、取得したのカードを使うの?。使うのは今日が初めて?」吉川さんが聞いてくる。雫斗がうなずくと、「現金をチャージしていないと使えないけど、もしかして昨日の魔物のドロップ品を換金したの?」。


 どうやら昨日の武勇伝が一人歩きしているようだ、顔を赤らめながら頷く雫斗に吉川さんが。「じゃー、この装置にカードを触れて」多面体の水晶の様なものを示す。


  ”シャリりン”という音とともにレシートが吐き出されてくる「はいこれ、商品とレシートね、あっ!これからは自営業の扱いになるから申告の時に必要な伝票とか領収証とかはちゃんと保管しといてね。じゃーありがとうございました」と吉川さんが商品と一緒にレシートを渡して、店員らしく頭を下げてくる。


 雫斗はお礼を言って商品を受け取ると、リックに詰めて売店を出る。


 皆はすでに買い物を終えて待っていてくれた、百花が悔しそうに「私もカードで払えばよかった」と言ってくる。


 昨日のドロップ品は、ポーションだけは手元において、残りはすべて換金してもらい、4人の探索者カードの口座に振り込んで貰っていた、思いのほか高級豚肉のカードは高値で売れて、4人ともちょっとビビっていたのは内緒だけど、4人で分けても結構な金額になっていた、


 店を出た雫斗はカードを仕舞うと百花に話しかける「フフフ、今朝起きて花火の検索していたら使ってみようと思っていたんだ、それより百花がシートソードを手放すとは思わなかったよ」。


 「あら。私の得物は刀しかないわ、直剣は使いづらいのよ」と爺様の家から持ち出した木刀を起用にくるくる回している。


 恭平はというと錫杖を担いでいるし、弥生は短弓を持っている、武器らしい武器を持っていないのは雫斗だけである。


 ”皆気合入っているな”と思いながらも「1層だとその木刀も使い道がないと思うけど」と言うと。


 「あら!、ダンジョンじゃ何が有るか分からないわよ」と百花さん、確かにおっしゃる通りだ、雫斗達四人は村のダンジョンへと向かうことにする。






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