第13話  期待の新人と言われてもそれは違うとしか言えない(その2)



  そのころ百花たちは雫斗の母親のお父さん、雫斗のお爺さんの家に集まっていた、雫斗のお爺さんは昔は古武術の道場を営んでいて、今は息子に道場を譲りこの村で余生を過ごしている。


 雫斗のお爺さんは、道場を息子に譲ったとはいえ、まだまだ現役バリバリの元気な爺さんである、学校で週2回ほど放課後に無償で護身術を教えているが、熱心な子供たちはこうしてお爺さんの家に集まってきて、手ほどきを受けていた。


 「すると何かい?、いきなり魔物と戦う破目になったてぇのかい。しかもオーガ迄出てくるたぁ、ただ事じゃなぇなぁ~」縁側で百花達の鍛錬の様子を見ていた雫斗のお爺さん、武那方敏郎が竹刀の素振りを終えて一休みしている百花と、お茶を飲みながら話をしている。


 「そうなのよいきなりの遭遇戦で慌てたわよ、しかも怪我人と子供も抱えているし、オーガが出て来た時には私の人生、これで終わったって覚悟したわ」。


 悲鳴が聞こえてハイゴブリンの遭遇戦から、オーガの出現までを実演を交えて話していた百花が、あー疲れたと言いながら縁側に座りなおして、お茶をすすっている。


 「ほっほー、しかしさすが百花ちゃんじゃ。オーガと対峙して、ぴんぴんしとるとは、悪運いまだ潰えずと言った所かの~」と言う敏郎爺さんに、「それ、ほめていないでしょう?、結局オーガを倒したのは、高レベルの探索者さんだし」と百花がジト目を向けてすねた口調で言う。 


 「いやいや褒めとるよ。オーガを倒したのは別人じゃというが、要請をしたのはお主らじゃろう? 結果としてそれがおぬしらの命を救ったわけじゃ、つまり間違っては居らなんだと言うことじゃ」そう敏郎爺さんに言われて、「そうかしら」、と納得していない百花に。


 「そうよ、あの時百花の予感がなければ、対応できなくて大怪我していたかもしれない、そうしたら今頃全員生きていなかったかもね」弓の練習を終えて休憩しに来た弥生がそう言う。


 確かにあの時百花が「オーガでも出てきそう」なんて言わなければ、雫斗達は警戒していなかったし、ハイゴブリンの討伐に失敗していたかもしれない、その後の展開を考えれば、生還出来たのが不思議なぐらいなのだ。


 「そうね、私があの時オーガの気配を感じたからみんな助かったのね」そう百花が言いながら納得した顔でこぶしを握る、素直な女の子である。


 恭平はというと鉄の棒を振り回していた、爺さんの物置から見つけだした錆びだらけの錫杖を、きれいに磨いて自分の武器にしてしまっていた。


 敏郎爺さんも覚えていないほど昔のものらしい、それを振り回して地面に埋めた丸太に打ち付けている、爺さん曰く撃ち合う瞬間の絞り込みは経験していかないと物にならないらしい。


 愚直に丸太と向き合う恭平は物凄い音を立てて錫杖を振りぬく、確かに最初のころと比べて音に鋭さが増した気がする。


 子供が聞いたなら泣き出してしまいそうな物凄い音も、慣れてくると耳障りの良いBGMになるようで、百花たちはお茶を飲みながら談笑している。


 そこへ雫斗が駆け込んでくる、膝に手をついて息を整えた後百花達のいる庭に入ってくる、それを見た弥生がお茶を入れて手渡してきた。「ありがとう」と答えて冷えたお茶を一気に飲む雫斗に、敏郎爺さんが声をかける。


 「おっ!、英雄様のご登場じゃな」それを聞いた雫斗が思いっきりむせてしまう、悪いことにしゃっくりも誘発して呼吸困難で今にも死にそうになって居る。


 「ゲホゲホ、グゥオワホ、ヒックグヒワック」あまりの苦しさに涙目になりながらせき込んでいると「大丈夫」と百花が雫斗の背中をさすってくれた。 ようやく呼吸を整えた雫斗が爺様に聞く「何それ、何かのお話?」。


 「いぃんにゃ、昨日の大立ち回りを聞いての、さすがわしの孫じゃと感心しておったところじゃ」とからかいながら爺様が言う。


 「よしてよ!、ダンジョン協会で散々からかわれていたんだから、もうお腹いっぱいだよ」と雫斗が不満を口にする。


 あの後ダンジョン発生を聞きつけた、自衛隊のダンジョン探索課の人たちや、魔物駆除に駆り出された探索者の人たちが、雫斗達を見て話をしているのを雫斗はからかわれていると本気で思っていた。


 「おお聞いておるぞ、すごい新人が現れたと期待されているそうじゃの~、さすが儂の弟子どもじゃ」敏郎爺さんが腕を組んで芝居がかったセリフを言うと。


 「やめてよ!、昨日のことで思い知ったよ、僕には向いていない!もう怖い思いはごめんだよ」思い出したのか少し震えながら雫斗が言うと。


 「そうかな、あの立ち回りはすごかった、あのオークのこん棒、・・見切っていたんじゃないか?」いつの間にか近くに来ていた恭平が、少し羨ましそうに言う。


 恭平には昨日雫斗がオーク相手にやった高速の立ち回りは出来ない、そもそも雫斗と恭平では体格が違うため同じ様には動けない、解ってはいても羨ましくて仕方がないのだ。


 雫斗にしても男の子としてがっちりとした恭平の体格は羨望の的だ、だがもしあの時、恭平がオークと対峙して居たら、武器の優劣で倒されていたかも知れない、要するに生き延びた結果がすべてだと敏郎爺さんは思っていた。


 「わからないよ、思い出せないんだ・・・いや違うな。覚えていないわけじゃない、まるで夢の中の様な感じだったよ」雫斗が少し考えながら言うと。


 「心眼が開いたのかもしれんのぉ」ぼそりと敏郎爺様が言う。


 「シンガン?何それ?」と百花。雫斗達も爺様を見る。


  「『心の眼』と書いてしんがんと呼ぶ、普段儂たちが見ている事とは別の見方、感じ方をするということじゃ、敵と相対した時相手の動きから、無意識という感覚の中で、瞬時に予測をして対応する、これは分かるな?。じゃがこれは経験がものをいう、だがごくたまに別の次元から物事が見えてくる、これが心眼じゃよ」話し終えた爺様がズズズとお茶をすする。


 聞き終えた雫斗達はお互いの顔を見回して不思議そうな顔をする、雫斗にしても良く分かっていないのだから当然だが。


 「まー、何はともあれ無事戻ってきて,上々じゃ」と爺様が締めくくる。

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