第18話 過去を実直に見つめ直せば、自ずと正しき行いとなす。(その1)
ダンジョンを出て浩三さんを交えた一行は、ダンジョン入口の受付に来ていた。カウンターの中には芳野先輩は居なくて、代わりに猫先生が受付カウンターの中で暇そうに欠伸をしていた。
「今晩は、猫先生今日は夜勤ですか?」と百花が挨拶をする”猫先生”はあだ名でたまに学校で教鞭を執っている、その為子供たちにあだ名を付けられた、本人も気に入っているらしく嫌がるそぶりをしない為、あだ名で呼ぶことが多い、本名は雑賀三太郎、”雑賀”はこの村の名前で役所に籍を置く3番目のゴーレム型アンドロイドとなっている。
「そうにゃ、日曜日の夜勤は誰もやりたがらにゃいニャー、仕方がにゃいからミィーが遣ってヤッテルニャ」猫先生は一応普通に喋れはする、どうもゴーレム系のアンドロイドはロールプレイが好きな様で、こういう言葉遣いをする事が多い、教壇に立つときの普通に話す猫先生とのギャップに笑いを堪える生徒も多い。
「ご苦労様です、ダンジョンからの退出届と素材の買い取りと換金をお願いします」百花も笑いを堪えながら要件を話す。
「そうにゃ?、順番に素材を置くにゃ」といいながらカウンターの上の扉をスライドさせる、百花が素材をまとめてその中に入れる、扉を閉めた猫先生がタイプで操作するとこちらに向いたディスプレイ画面に素材の種類と数、そして買い取った時の金額が映し出されている、”O K”、と”N O”枠が出る、”OK”を選択して多面体の水晶に探索者カードを触れると販売と換金が終了する。
時間もかからず全員が終了すると、帰ろうとする雫斗に浩三さんが声を懸ける。
「雫斗くん、報告することが有るんじゃないか?」一瞬、雫斗は何だろうと考える、色々な事が有りすぎて思い出せないでいた。
「そうだった!、スライムの討伐手段で新しい方法があります」。
「おおおお!!、攻略情報かにゃこの村では初めてだにゃ」と興奮気味に話す猫先生。
「これです!」とリックの中から水中花火の箱をドン!とカウンターの上にのせる、「にゃ!、にゃにかにゃ~~?」目を白黒させる猫先生。
「これは水中花火です。スライムは打撃にめっぽう強いですよね?」雫斗の説明に相槌をうつ猫先生「そうだにゃ~~、めっぽう強いにゃ~」。
「そこでこの花火です、スライムに飲み込ませて破裂させます」と雫斗。
「おおお~、どうにゃるにゃ?」と猫先生「こうなります」と雫斗がスマホを見せる。
最初にスライムを破裂させた時の映像を見終わった猫先生が「じみだにゃ~~」と小声で言ったのを雫斗は聞き逃さなかった。
「すっごいにゃ~、大発見かもしれにゃいにゃ~~」と猫先生が大げさに驚いているのを、胡散臭げに見る雫斗。
「えっへん、その映像はこちらに貰ってもいいかにゃ?」と猫先生。
「いいですけど ネットに流さないで下さいね」とくぎを刺す雫斗、映像を加工していないので、本人がバレバレなのだ。
スライムを破裂させた映像を、送信に設定して受信末端の上に置いた、しばらくすると”ピイー”と終了を知らせる合図。
「大丈夫にゃ、この映像は確認用で検証動画は協会がとるにゃ」と言いながら報告書をタイプしていた猫先生が「報奨金の受け取りは雫斗さんだけでいいかにゃ?」と聞いてくる。
「えーと、4人で」と言う雫斗の言葉に被せて「雫斗だけでいいわよね?」と百花。「そうね私たちは見ていただけだし、当然ね」と弥生と、恭平が頷く。
「分かったにゃ」と言いながら報告書を完成させた猫先生が「これでいいかにゃ?」と画面に出力させる。
雫斗は画面に表示された内容を確認して、添付された動画に”協会の関係者以外の閲覧禁止”の文字を確かめた後”OK”をタップする。
「これで終了にゃ、ご苦労様でしたにゃ~~」と猫先生。
「ありがとうございました」3人でお礼を言って受付を離れる、建物を出ると「じゃー、僕たちはこっちだから」と雫斗達とは反対の方向へ歩き始める恭平と浩三さん。
「浩三叔父様ありがとうございました、大変勉強になりました」と笑顔で手を振る百花と弥生、色々と教えてもらったようだ。
しばらくして「じゃー、明日学校で。ばいばい」と弥生が畑のあぜ道へと入っていく、道なりに行くより近道なのだ「ばいばい」と手を振る百花だったが、歩き出すと換金証明の伝票を見ながら、ニマニマしている。
「そんなに良い素材が手に入ったの?」と言う雫斗に黙って伝票を見せる
「う!!」雫斗が換金した値段の三倍近い金額を見て落ち込む雫斗、2時間弱でこの差である前半は、収納の検証に充てて居たとはいえ、後半は石を集めながらスライムを破裂させて歩いていたのだ。
「ふっふっふん!今日は有意義な一日だったわ、雫斗はどうだったの?」と聞いてきたので、収納の発見を思い出して「うん、いい一日だった」と納得した表情で答える。
「小石を集めるのが?」と百花が不思議そうに聞いてくる。
「あ・・あれは、・・世紀の実験なんだ!!りっ、立証されたら世界がひっくり返るんだから」と苦しい言い訳を言う。
「そうなの?、じゃー明日学校で」と気にした素振りも無く家へと帰っていく、素気なく扱われて落ち込む雫斗だったが、気を取り直して家路についた。
家の玄関で靴を脱ぎながら「ただいまー」と声を掛ける、父親とじゃれて遊んでいた香澄が「お兄ちゃん」と言いながら駆けてきて雫斗の太ももに抱き着いてくる。
香澄の脇腹を”わしゃわしゃ”と擽ると”キャッキャッ”と笑いながら身をよじる香澄、しばらく香澄と戯れていると、落ち込んだ気持ちも晴れてくる。
香澄を抱き上げてリビングに入ると「遅かったわね、お昼は食べたの?」と母親が聞いてきた。
「サンドイッチしか食べていないや、お腹空いた~~」と雫斗が言うと「もう少し待っていてね、・・・先にお風呂に入ってきなさい」と悠美お母さん。
「うん、そうする」と香澄を父親に手渡しながら「あっ、そうだ!、母さん今日ダンジョンの攻略情報登録してきたから、明日確認してね」と報告する雫斗。
「そうなの?、解ったわ明日聞いてみるわね」と悠美母さん、悠美はダンジョン協会の雑賀村支部の支部長を兼任している、とりあえず報告だけをした雫斗は、自分の部屋へ向かおうとすると。
「何を発見したのかな?」と海慈父さんが聞いてくる「はいこれ」と言いながらリックの中から水中花火の箱を取り出して、テーブルの上に置く。
ラベルに書かれている文字を見て「水中花火?」と不思議そうに手に取る「そう、それでスライムを破裂させるんだ、簡単だったよ父さんもやってみる?」そう言う息子を見て「そうだな、やってみるか」と気のない返事。
ちらっと香澄を見て、海慈父さんが香澄の手の届かない高い所に、水中花火の箱を片付けるのを見て”そうだよな”と気落ちする雫斗、スライムを倒しても強くなっていく気がしないもんな~~、と考えながら部屋へ戻る。リックサックの中身を片付けて、洗い物と着替えを持って風呂場へと向かう。
脱衣場に入った雫斗は洗い物を洗濯籠に入れて、服を脱ごうとして思い出した”そうだ!、着ている服を収納出来るか試さないと”。収納しようとしてふと周りを気にする、此処ならスッポンポンでもおかしい事は無いのになぜか気恥ずかしい、普段やらない事を試してみる事に、抵抗を感じているのかも知れない。
意を決して着ている服を収納するイメージ(まー、スポンポンになっている自分だけどね)”ぶるるる”地肌に直接外気を感じて、思わず震える、面白いことに頭の中のイメージにはズボンのポケットに入っているハンカチ迄認識出来た、ハンカチを取り出す洗濯籠にポイ、全部の服を収納から取り出そうとして、このままもう一度着け直すことができるのか?と疑問がわいてきた。
一度脱いだ?(収納に入れた事を、脱いだと表現していいものか?)下着を又着け直すのに抵抗はあるが、これも検証だと試みる、・・・・できましたあっさりと、何処も可笑しな所が無いか、見まわして見ながら ”アイドルの早や着替えに革命を起こすな”と変な事が思い浮かぶ。
見た目は大丈夫そうだ。他から見ると可笑しな事をしているな、と思いながらも確認のため脱いでいく、うん後ろ前にも着てないし裏返しても無い大丈夫そうだ、雫斗は安心して風呂場へと消えていく。
リビングでは食事の準備をしながら、悠美と海慈が雫斗の事で話し合っていた。
「あなた、雫斗の事ですけど大丈夫でしょうか?」探索者カードを取得した早々魔物に襲われるわ、ダンジョンの検証を始めるわ、気が気でない様子だ、さすがに息子の前では表情に出さないが、心配でしょうがないらしい。
「雫斗は慎重な子だよ、臆病だと言ってもいい。私はダンジョン探索では無くては成らない資質だと思っている、いざと成ったら立ち向かう勇気もある雫斗は大丈夫だよ」と安心させる言葉をかける。
「雫斗坊ちゃんは聡明な方でッス、この世界で一時代を築くオッ人だと確信してまッス、勇者の素質をお持ちでっス」良子さんが配膳しながら力説する、その前で幼児椅子に座らされた香澄が、目の前を流れて行くご飯を目で追いかけている、お腹が空いている様だ。
「良子さんはラノベ好きだものね、うちの子を評価してくれるのは 正直うれしいけれど、勇者ねぇ?」と悠美が話すと。
「何をオシャイマスかご母堂様、今世の中にはダンジョンという得体のしれない空間が存在しいるのです、魔法という現象も普通になりつつある今、ラノベの世界と何ら変わりは、在りマッセン!」ふんすと!興奮していた良子さんが普通に話して居たが、言葉の終わりに冷静になりおかしなイントネーションに戻っていた。
「そうね、良子さんの言うとおりね」と悠美が頬に手を当てため息をつく。
「どうしたの?」と風呂場から出て来た雫斗が、タオルで頭をふきながら、自分の席に着いて聞いてきた。
「いや、・・・これからの私たちの世界が、ダンジョンとの関わりで、どう変化をして行くのかと言う事を話していたんだ、さあ食事にしょう」と海嗣父さん。
皆が席に着くのを待って「「「いただきます」」」と食事を始める、良子さんはゴーレムで食事の必要が無いため、香澄の介添えをしている。
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