第11話  格上との格闘は、お互いの命を奪い合う殺し合いだと思い知る。(その3)

 ”ズドォ~~ン”と激しい音とともに叩きつけられたオークのこん棒の衝撃で土煙が舞い上がる。事の成り行きに百花たちは悲鳴を飲み込む。


 「雫斗ぉー!!」。百花がさらに足を運び出していく、こん棒を振り下ろされた後だ、間に合わないのは分かっている、それでも走り出していた。


 二歩目を踏み込んで加速しようとしたとき、不思議なことが起こるオークが突然つま先立ちになったのだ、苦悶の表情を浮かべてこん棒を投げだし、股間を抑えて前のめりに倒れていく。


 雫斗は膝をつき前のめりに座っているオークの後ろに立っていた、何が起きたのか?。覚えていないと言えば嘘になる、雫斗は右目に刺さったナイフで一瞬オークが止まったのを見逃さなかった。


 しかも振り下ろされるこん棒の少しのズレを味方につけた、オークの股間に滑り込んだ雫斗は、こん棒を叩きつけるオークの腰の沈み込みに合わせて”つぶれろ”と念じながら肩をかち上げていた。


 ”ぐしゃっ”と何かが潰れる感触を感じながらオークの後ろに回り込み、つま先立ちで前のめりになった無防備の姿をさらすオークの膝関節へ抉るように渾身のけりを叩きこむ、この一連の動作を雫斗は意識の外でやっていた、つまり体が自然と動いていたのだ。


 まるで現実の出来事では無いかの様に意識の外で自分の行いを見ていた、自分の体なのに自分じゃない不思議な感覚、体が勝手に動くのだまるで他人事のように。


 それを村のくそ爺・・・師匠は無意識の覚醒だという。厳しい鍛錬を得ても到達する事が出来ず、ほとんどの武人が無しえない究極の高みだと。


 散々打ちのめされた挙句、土の上にひれ伏し倒れ込んだ雫斗達に、子守歌の様に静かに話して聞かせていた師匠の言葉だが、良く覚えている。



 倒れていくオークを見ながらようやく意識と体が重なり合う、雫斗はオークの背中に飛び乗り、ついでとばかりに延髄を踏み抜いて加速する。


 オークの延髄を蹴り砕いたつもりなのに手応えがない、オークの背中を走り抜けながら、”みんな逃げろ”と叫ぼうとして、腰だめに短剣を構えた百花とすれ違う。


 「ふぇ!」と変な声を出して雫斗が振り返る。


 雫斗とすれ違った百花は苦悶の表情を浮かべて顔を上げたオークに突進していく、狙うは大きく開けた口、いくらオークが脂肪の塊でも口の中までは付いていないはず。


 「やあー!!」と気合い一千、突きこんだ短剣は牙の半ばを削って口の中へと消えていく。


 しかし刃渡りの半分ほどが牙にさえぎられて止まった、条件反射なのかオークが短剣を咥えて離さない、抜けないと悟った百花が短剣を離して後ろに飛びのく。


 距離を取り警戒する百花と雫斗をニヤリと笑ったオークの顔が一瞬勝ち誇ったように見えた。


 その時「ぐおおおー!」と雄たけびを上げた恭平がこん棒を短剣の柄頭に渾身の力で叩きこむ、牙を切り飛ばした短剣の刃が口の中へと消えていく。


 崩れ落ちるオークの頭。よく見ると首の後ろから剣先が飛び出している、これで動き回られたらオカルトだな~とおかしなことを考えていると、いきなり百花に襟首を捕まえられて思いっきり揺すられながら「何を考えているの!!、死ぬところだったじゃない!」と泣きながら怒られる。


 「まて百花、首がもげる!、首がもげる!!」まだ死にたくないので襟首を掴んでいる手を外させる、それでも百花の怒りは止まらない。


 「あんな奴のために、なんであなたが命を懸けるのよ。あんなの自業自得よ」と弥生の治療で(ポーションを飲ますだけ、気付け程度にはなる)意識を取り戻した強面君を指さす、確かに探索者は自己責任だけど 目の前ですりつぶされる命を見殺しにはできなかった。


 「いや~、つい体が動いちゃって(^O^)/」と誤魔化そうとしたら百花が目を吊り上げて、また襟首を捕まえ様として来るので。


 「分かった、分かったって!!。今度から見捨てる腕がもげようと足が飛んでいこうと今度は見捨てるから」と雫斗が言うと。顔をしかめて「それはちょっといやね」とようやく冷静になる百花。


 その二人に山田君が近づいて来てお礼を言ってくる。「ありがとう柴咲を助けてくれて」どうやら強面君は柴咲と言うらしい。

 「あんな奴でも親友でな、目の前で死なれるとやりき」途中で言葉が止まり一点を見つめる。


 何事かと雫斗と百花が振り返る。今まさに枝をかき分けて赤黒い巨体が出てくるところだ。額に二本の角を生やした筋肉質の巨体、オーガだ!!。


 どうやら百花のフラグは、踏み抜かないと気が済まないらしい。どうする? 雫斗はようやく手にした命が指の隙間から零れていくのを感じながら、一筋の生きる道がないか考える。


 百花の手放したゴブリンソードは、オーガと雫斗達の丁度中間に居るオークの口の中だ、オークがまだ消えていない事で引き抜くには時間が掛かる。


 それよりも果たしてその短剣で倒せるのか?。 雫斗は短剣を拾ってオーガに投げて注意を引き付けて、ダンジョン協会とは反対の道へオーガを誘導することを考える。


 ”オーガと鬼ごっこかシャレにならん”と考えながらタイミングを計る。すると(何をやっても無駄だぞ~)と言うようにオーガが腕を振り上げて咆哮する。


 威圧が半端ない、”身がすくむとはこのことか”と思いながら雫斗は気力を振り絞る。


 すると緑色をした塊が、オーガの脇腹へものすごい速さで突っ込んでいく、不意打ち食らったオーガがたまらず吹き飛んでいく、起き上がろうとするオーガの胸に足を置き顔目がけて至近距離から小銃をぶっばなす。


 さすがのオーガも至近距離からの銃弾の雨は堪えるらしく両手で顔を庇おうとする、肉を裂き指を引きちぎり目をつぶしてようやく全弾打ち尽くすと。


 その人は小銃を投げ捨て、背中の大剣を引き抜くと同時に振り下ろす、庇った両腕ごと切り飛ばして頭蓋骨の半場まで剣をめり込ませた、当然オーガは動きを止める。


 オーガが出てきてから1分もたっていない、凄まじい戦闘力を見せつけたその人は女性だった。雫斗より少しだけ背の高いその女性が合図をすると、いつの間にいたのか二人一組 四名の迷彩服を着た人たちが、林の中に分け入っていく。


 あっけにとられている雫斗達の周りがざわつき始める、どうやら救援が来たみたいだ、命拾いしたことを実感した雫斗達は気が抜けた様に崩れ落ちる。


 オーガを倒した後どこかへ連絡していた女性が、座り込んだ雫斗達に近づいて来て。「救助要請をしたのは君たちで間違いないかね」とその女性が聞いてくる。


 「はい、僕が要請しました」と恭平が答えると。


 「これで全員かね、落伍者はいるかね?」と女性の人。「いえ落伍者はいません、これで全員です」と恭平。


 首を振りながら「信じられん、ハイゴブリン、ハイオーク、それにオーガにまで遭遇してけが人で済むとは、君たち今日探索者カードを受け取ったばかりの初心者とはほんとかね?」と女性の人。


 「はい、今日の講習で受け取りました。あのーハイオークってさっきのオークのことですか?」と雫斗が尋ねると。


 「なんだ気付いていなかったのか?、 ほれ」と女性がオークにとどめを刺した短剣と魔晶石それとドロップしたカードを渡してきた。


 魔晶石はハイゴブリンと思われる物より濃い紫色をしていた。カード3枚の内は2枚はデザインの違う肉の絵だ、それぞれ高級豚バラ肉と高級豚霜降り肩ロース肉と書かれている、もう一枚には中級ポーション×3と書かれていて、いずれのカードにも素材主として”ハイオーク”と名前が載っていた。


 道理で強いはずだ、10階層以上で出てくる魔物で、普通であれば雫斗達が挑んでも、10回やって10回は死んで居るほどの魔物なのだ。最初の邂逅で倒せたのは、運が良いというには言い過ぎるほどの怪物だ。


 「いずれにしても命があるならいくらでもやり直せる、死んでしまえば其れ迄だからな。とにかく歩けるかね?ここはまだ危険だ、早めに探索者協会に帰らねばならない」とその女性が気づかいながら言う。


 雫斗達は初めての命を懸けた戦闘と、助かったことで気が抜けてしまっていたが、歩けないほどではない。


 立ち上がりながらお礼を言っていないことに気が付いた雫斗が「あっ!、助けてくれてありがとうございました。えーとお姉さんが来てくれなければオーガに殺されていたかもしれません。本当にありがとうございました」雫斗がお礼を言うと。


 「おお、私としたことが荒川優子だ。君たちを助けたのは、緊急依頼のクエストだから礼には及ばん」と荒川さん、この後雫斗達は荒川さんとダンジョン対策課の職員に守られて、探索者協会まで帰り着くことができた。


 この後が大変だった、事情聴取と魔晶石の鑑定とドロップ品の売却が行われたが、そこでもひと悶着があった。


 探索者カードを取得したばかりの子供(14歳)がハイゴブリンとハイオークを倒した事を疑問視されて再度の事情聴取受けた、荒川さんの取り成しで事なきを得たが、結構な時間を費やして結局村へ帰れたのは夜中のことだった。

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