第10話  格上との格闘は、お互いの命を奪い合う殺し合いだと思い知る。(その2)



 周りに気を配りながら急ぐ雫斗達のフラグはまだ終わっていなかった。探索者協会に向かう道半ばで左側の山間の木々が不自然に揺れる、気が付いた百花が立ち止まろうとするのをやめさせる「百花!!、走れ!!」雫斗が叫ぶ。


 怪我人と子供を抱えての戦闘は避けたい、逆に雫斗は立ち止まり百花が使っていた木の枝を片手で構えて、ポケットから石を取り出す後続が後ろを通り過ぎるのを感じながら揺れる木々を見つめる。


 林の中から豚顔の巨体のオークがこん棒持って出てきた、オーガじゃないだけマシだが雫斗達にとって強敵には変わりない。 走って行く集団を目で追っていたオークが威嚇の咆哮をあげる。


 「グオオオオーガワァン!!」威嚇の咆哮が途中から情けない咆哮へと変わる、雫斗の投げた石が顔面に命中したのだ。鼻から血を流しながら石を投げてきた雫斗を睨み付ける。


 「お前の相手は俺だ!!。こい!!」と気合いを入れる雫斗だが倒すことを考えてはいない、皆を逃すための時間稼ぎと、どうやって隙をついて逃げるかを頭をフル回転させて考えている。


 「きえ~ぇ~え」。緊張感漂う空気をぶち壊す様に、情けない気合の声を出しながら、強面君が横合いから木の枝でオークに殴りかかる。


 大方隙を突いたつもりだろうが人間は勿論人型の魔物は側面に急所はない、あえて言うなら脇腹だろうが太い腕に守られている。 案の定肩口を殴りつけた強面君は、分厚い筋肉と脂肪にはじかれてよろける。


 一瞬の静寂の後やばいと雫斗が走り出す、オークに睨まれて硬直している強面君の横からオークのこん棒が振りぬかれる。


 誰もがつぶされた強面君を想像したが強面君が皆が居る方向へと吹き飛ばされてくる、雫斗が強面君の襟首をつかみ、こん棒の振りぬく方向に投げ飛ばしたのだ。


 さすがに無傷とは行かず咄嗟に庇った腕はひしゃげ、あばら骨を何本か折りながらも、とりあえず強面君の命は助かった。


  問題は雫斗だ、自分の体重と同じくらいの人間を無理やり投げ飛ばしたのだ。バランスを崩してオークの前に無防備に立ち尽くしている。


 しまったと雫斗は後悔していた、咄嗟に動いたとはいえ体制を崩して、何の策も無しに強力な魔物の前に立つなんて。


 見上げるとオークが”ニタ~”と笑いながら両手に持ったこん棒を振り上げていた。(これは死ぬな)と人ごとの様に考えながら、この時雫斗に不思議なことが起こる。


 ビタッと時が止まったかの様に静寂が訪れたのだ、空気の流れも周りの気配も雫斗の感覚さえ停止していて、ただ思考だけが雫斗の意識の中で流れている。


 その時ある場面がよみがえる村での稽古の一場面だ、さんざん師匠に打ちのめされ倒れこんだ四人に師匠が静かに語り掛ける、疲れ果て意識も途切れがちだったはずなのに不思議と鮮明に思い出す。


 「良く覚えておけガキども!、命のやり取りに置いて最も大切なのは、技でも力でもない。それはあらがう心だ、絶対的な力の差、理不尽な暴力、助かる見込みのない状況。それでも生きるために一筋の可能性にしがみつけ、運命にあらがう精神力、それだけが命をつなぐ、忘れるな!!。”あらがえ!!”。運命から生をもぎ取れ、”あらがえ”地獄の門を蹴飛ばしてやれ、”あらがえ”それだけが生き抜く道だ。”あらがえ”!!」。


 その時一本の投げナイフが飛んできた弥生の投げナイフだ。雫斗は見て居なかったが、巨漢の恭平が母親を強面君の一行に預け、 弥生もオークに対応するために女の子を無理やり預けた、その時リーゼントの強面君が吹き飛ばされてこちらに飛んできた。


 思わず弥生は飛んできた強面君に駆け寄ったが、「雫斗お!!」と叫んで百花と恭平が走り出したのが見えた。


 オークを見ると、こん棒を無防備の雫斗へ振り下ろそうと振りかぶる途中だった、弥生は咄嗟にポシェットの裏に忍ばせているナイフをオークの顔、いやオークの右目をめがけて投げた。


 当たるとは思っていなかった、だが地道な鍛錬は嘘をつかない。弥生は接近戦は苦手だが投擲や弓には自信があった、格闘も出来なくは無かったが、護身術程度で遠距離戦と介護に重きを置いていたのだ。


 飛んできたナイフが、ものの見事にオークの右目に突き刺さる。その時止まっていた時間が少しずつ動き始める、雫斗はこの場面はどこかで見たことがあるなとぼんやり考えていた。


 ”そうだ、初めて魔物を倒したときの百花の振り下ろされる木の棒だ”。ただ違うのはオークのこん棒をまともに食らうと死んでしまうということは分かる。


 加速度的に物事が動き始める中で思考が冴えてくる。


 ”あらがえ!!”。・・・・後ろはダメだ、こん棒の範囲内だ。


 ”あらがえ!!”。・・・・左右は?、太い腕が邪魔だ。


 ”あらがえ!!”。・・・・残りは前しかない!!・・・前?。右目に刺さったナイフの影響か、オークのこん棒が若干左による、そこに隙を見つけた雫斗はオークの股間をめがけて飛び込む。

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