第4話  スライム討伐と魔物のお話(その2)

  最後に全員が集まって帰る準備をする、点呼も終わり最後に引率の先生が話をする。

 

 「全員揃いましたね。それでは帰る前におさらいです、皆さんが倒したスライムや蝙蝠、ネズミなどは、ダンジョンの外では何もしなければ近づいてきません、村の中ではないと思いますが見つけても近ずかないように、すぐに大人の人に知らせてください。それでは皆さん怪我の無いように帰りましょう」。


 今日の遠足の目的の一つにDカードの取得があるが、本当の目的は年少の子たちに遠目ではあるが、魔物と魔物を倒しているところを見せるというのがある。見ると聞くとでは大きな違いがあることは実際に去年の終わりに雫斗たちが体験している。



 引率してくれる探索者協会の職員がいるとはいえ、いきなりダンジョンの2階層でケイブバットとケイブラットを倒せとは、中学1年には荷が勝ちすぎた。

 取り敢えず一人一匹ずつという最初の予定は予定でしかなく、いきなり十匹程のケイブバットとケイブラットに襲われた。


 パニックた4人は「落ち着きなさい」と言う職員の声をBGMに、全員で戦うという愚策に出た。


 要は目の前に来たケイブバットを持っている”木の棒”で叩き落としたり、ケイブラットを蹴り飛ばしたり踏みつけるだけなのだが、当然連携など出来るわけもなく、でたらめに振り回す仲間たちの木の棒を避けながら、襲ってくるケイブバットやケイブラットを倒すことになった。


 雫斗が最後に覚えているのは、渾身の力で振り下ろす百花の木の棒を、ひらりとかわすケイブバットと、自分の頭に落ちてくる木の棒で、なぜかコマ送りで近づいて来る棒の先端を見ながら衝撃とともに意識を手放した。


 気が付いたのは村のダンジョンに隣接した建物の医務室だ、大きなたんこぶの上に冷やしたタオルを乗せて「ごめんね~^^」とウソ泣きしながらしがみついて謝る百花と、後で笑いをかみ殺しているその他その面々。


 はいはい分かりました。結局ダンジョンで大きなたんこぶをこさえて気を失ったのは雫斗だけで、他はちょっとした擦り傷と打ち身で済んだらしい。


 しかしダンジョンに入る前、しなりのある木の棒では魔物は倒せないと百花が木刀を主張していたのを、ケイブバットではオーバーキルだからと説得した職員に感謝だよね。


 木刀だと今頃お墓の中だったかもしれない。取り敢えずDカードは全員取得できたけど、雫斗はしばらくダンジョンの2階層に軽いトラウマを抱えることになる。


 


 

 ダンジョンの魔物は中と外では性質が異なる。中では弱い魔物でも人に対して鬼の様に襲ってくるが、ダンジョンの外では身の危険に敏感になる。

 ケイブバットやケイブラットは夜だけ活動するようになるし、スライムなど動きの遅い魔物は隠れる様になり、人を避けているようにも見える。


 しかしダンジョンから離れることは無く、その近くで生息しているのだ、何か法則でもあるのかもしれない。


  雫斗は下級生にせがまれて、嬉しそうにDカードを出し入れしている子たちを、何気なく見ていたが、”そういえばこれも不思議の一つなんだよな~” と自分のカードを手に出して改めてみて見る、するといきなり背中に衝撃を受けて転びそうになる。


 「何ぼんやり歩いているのよ!!、転ぶわよ」と悪びれないセリフを吐きながら百花が背中をどついてくる、女の子離れしたバカ力に耐えて何とか転倒を免れた雫斗がジト目を百花に向けると。


 「何よ!」と警戒する百花。今ここで「今どついたから、転びそうになったんだよ~」とすごく言いたい、言いたいがここは我慢だ、言えば口喧嘩になる口喧嘩で勝てないのは分かっているので戦略的撤退だ。


 「僕らの時は大変だったなーと思って」とカードを見せながら話すと、さすがに気まずいのか。「なっ何よ!!ちゃんと謝ったじゃない。たんこぶの分は誤ったわよ」とのたまう、(たんこぶは、余計じゃ~)。


 くすくす笑いながら弥生が助け舟を出す「百花ちゃんも必死だったもんね~、泣いているのか笑いを堪えているのかわからない肩の震え方だったけどね~」と弥生がからかうと。


 「裏切り者~~、違うのよ誠心誠意謝ったのよ、ほんとよ。でもねたんこぶを見ちゃうとね、なぜか肩が震えるのよ^^」笑っているのを白状しやがった。


 「はいはい分かりました、いや分かっていました、僕の存在なんてそんなもんだったんだね」と拗ねて雫斗が言うと。


 「いや~ね~。そんなんじゃないわよ額が割れて血がどばーとなったらさすがに慌てるけど、プププたんこぶじゃ~ね~^^」開きなおって鼻で笑う百花。


 「うるさいやい、血がどばーってなったら傷が残るかもしれないじゃか?」冗談じゃないと雫斗。


 「あら男の子が顔の傷の一つや二つ気にするもんじゃないわ、笑われるわよ」さも当然と百花。


 「なんてことを言うんだ、人の顔を傷ものにするつもりか」と憤慨する雫斗、そんな漫才を始めた二人を生暖かい目で見る弥生。


 「ところで明日の講習、みんなはどうするんだい?」突然天から声が、降りてくる。・・・ぎょっとして三人で声の主を見上げる。そうだった、こいつがいた。


 立花恭平 1メートル80を超える長身で筋肉質、存在感はあるが滅多に喋らない為、居る事自体が自然な、空気の様な安心感のある存在。


 「わ、私は行くわよ資格を取っていて損はないし、雫斗は?」百花が当然だと答える。 


 「僕も行くよ、明日の講習を逃せば三か月後になっちゃうからね」そう雫斗が話すと。「私も行く」と弥生が答える。


  「それじゃー全員行くとして、集合場所はヘリポートで7時集合でいいかな?」。恭平が時間と場所を聞いてくる。


 「そうねそれでいいわ、それにしても不便よねこの村、資格を取るのにも買い物をするのにも、町まで出かけなきゃいけないなんて面倒だわ」百花が不満げにいつぶやくと。


 「仕方ないさ政府はこんな過疎っている村に、税金をつぎ込むだけ無駄だと思っているのさ、まーヘリドローンを飛ばしてくれるだけでもよしとしなきゃ」恭平が肩を竦めてそう言う。


 この村は愛知県の県庁所在地である名古屋市からの距離はそれほど遠くはないが、間に山々が連なっているため陸路では往復に6時間程かかる、その解決策としてヘリコプターとドローンの合いの子みたいなヘリドローンがヘリポートとともに整備されることとなった。


 自動運転の発達とともに空を飛ぶドローンの自動化も進んでいく。その進化とともに、重い荷物は陸上輸送、人の移動と軽い荷物はヘリポートからヘリホートへのヘリドローンによる航空輸送とすみ分けられていたったのだ。

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