第5話  探索者協会の設立と役割(その1)

 「この様に探索者協会の設立となった訳ですが、設立から4年余り。探索者としてダンジョンに挑まれる皆様の手助けとなる様に、日々頑張ってきた次第で有ります。正直申しますと多々至らない点は有りますが、探索者の生命、財産等を守る事を第一として今日まで活動してきましたが、どうしても未帰還者が出てしまいす」。


 今雫斗達は睡魔という強大な敵と戦っていた。早朝村を出て名古屋市に在る探索者協会名古屋支部で、探索者の資格を得るために講習を受けに来ていたのだが、午前中は探索者協会の成り立ちと役割について、協会の職員から講習を受けているのだ。 


 しかし内容が学校で習う社会科と大差なく、すでに学んでいる雫斗達にとって拷問でしかなかった。

 要約するとダンジョンが出来た当初、各国の政治の中枢がダメージを受けた事と、歴戦の勇者たる軍人が軒並みダンジョンから帰還できなかった事で、初動が遅れる事になる。


 各国は軍隊を中心とした組織(銃火器を持っている)によって魔物の討伐が行われたが、ダンジョン外ではおおむね討伐出来る魔物だが、事ダンジョンに入ると軍人を中心に未帰者が増えていった。


 特に顕著なのは、戦闘を経験している古株の軍人の多くが、帰還できていなかった。疑問に思った軍関係者が聞き取りを行ったのだ。


 しかし帰還できたのは戦闘未経験者と、軍に入りたての新米だけで、脱出してきた当初は錯乱していて、要領を得ない報告ばかりだった為、ダンジョンと未帰還者の関係性を紐づけする情報が少なかった。


 ただ言える事は、戦闘を経験している軍人の多くが帰還できていない事から、原因は戦争に関わった事による何らかの行為によって、ダンジョンからの生還の是非が問われているのではないかと言われるようになった。


 戦争とは、どう大義名分で言いつくろっても、その地域を占領するために、あるいは防御するために爆弾やミサイルといった尋常じゃない破壊力で建物や町を壊滅する行為である。


 そして戦闘とは銃器で人を殺す、傷つける、行為に他ならない。ダンジョンはその行為に否を突き付ける結果になったのだ。


 この日本は自衛隊を中心にして魔物の駆除をしていたが、自衛隊自体が戦闘を経験した事の無い特殊な軍隊と言って良いので、銃火器を使っているとは言っても、他の国の軍隊よりも未帰還者の数はかなり少なかった。


 それでもダンジョンの出来る数に対応するには隊員の数が限られているので、首都圏と主要都市をダンジョンから湧き出して来る魔物から、その周辺を守る事で精いっぱいだったのだ。


 見放された他の市町村は、独自に解決しなければならず警察官や消防士が事に当たる、しかし人員不足は否めず民間人の協力で何とか凌ぐことが出来た。


 かくして自衛隊といった軍隊を管轄している国の政府と、独自に攻略を進めてきた民間人に分かれて、ダンジョンの探索を行う事となったが、意外や意外、銃火器を使っている軍人の方が階層攻略に躓いていた。


  民間人の多くは、銃火器に頼ることなく、鈍器や刃物といった得物で魔物と対峙することを余儀なくされた。要するに肉弾戦を得体の知れない魔物に対して行ってきたのだ。


 日本国内外を問わず、己の肉体だけで魔物に対してきた人達に、次第に変化が訪れる。要するに強くなっていったのだ、力だけではなく、素早さや耐久力、持久力に始まり、観察力や理解力、平常心といった精神面でも向上していったのだ。


 外国、とりわけ共産主義や独裁者といった強権を是とする国家では、虐げられていた人たちを中心に探索者を保護する組織が生まれ、国家と言う権力に対抗するようになってきた。


 当然国家権力に反抗してくる組織に対して、国は軍隊という暴力で抑え込みにかかったが、以前の力の無い民衆とは違い、魔物という怪物を相手に大立ち回りを繰り返してきた人達の集まりを、屈服させることが出来なかった。


 いやそれ以前に、銃火器で脅して来る集団に、素手で立ち向かいボコボコにした後、武装解除の上、下着にひん剥いて開放したり。


 それならと出て来た戦闘車両を尽く使用不能にされては、国家の威信どころか財政面で厳しくなり、交渉と言う話し合いで解決を図るようになっていった。


 日本政府も例外ではなく、民間人が階層を攻略していく事に危機感を感じ、当初すべてのダンジョンを政府の管轄とする政策を打ち出したが、政府内外の反対と現実的に不可能だった事も有り断念した。


 しかし此のままでは不味いと、重く見た日本政府はダンジョン庁を設立して、ダンジョンからもたらされる産出物や攻略情報の囲い込みを図ろうとしたが、民間探索者の強い反発があり右葉曲折の末、探索者協会の設立を認めたのである、要するに保身に走る政府のお偉いさんは信用できないということでもある。


 法整備をして、なんとかダンジョンからもたらされる利益を、税金として吸い上げたい政府と、命懸けでダンジョンからお宝を持ち帰って来る探索者の、利益を守る探索者協会のせめぎ合いが今日まで続いている。


 「ダンジョンの中での事は自己責任とは言え、ダンジョンの発生当初、無差別にダンジョンに入る事が出来ていたため、多くの人が犠牲となり甚だ由々しき事態となりました。そこで協会としてはダンジョン入場の際は規制をする事に致しまして、探索者カードの取得から1年間は準備期間とし、3層ダンジョンもしくは攻略ダンジョンの5層までを条件付きで解放する事となりました。くれぐれもこの様な措置に関しましては、皆様のお命を守る為だと言う事をご理解いただきます様お願いいたします。只今からカード制作のための撮影を行います、この後の予定ですが午後からダンジョンの取得物の取り扱いに関しての説明と探索者カードの配布を行いまして終了となります、長い間のご視聴有難う御座いました」。


 探索者協会の職員の話が終わった様だ。雫斗達は眠気を祓うとともに、凝った筋肉伸ばしながら撮影ブースへ向かうのであった。


 


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