第7話 ダンジョンの誕生はとつぜんに!!(その1)
雫斗達は探索者協会の建物を出ると、帰りをどうしょうかと話し合う。来る時は始めてという事もあり案内アプリを使って、電車とバスを乗り継いできたが、地図によると目の前に広がる、かつては大きな運動公園だったであろう、鬱蒼とした雑木林を突っ切ると駅へとたどり着けそうなのだ。
「どうする?この道を行くと駅に着きそうだけど」弥生が地図アプリを表示させたスマートフォンの末端と、横断歩道の向こうにある雑木林へと消えて行く歩道を見比べている。
すぐそこには''探索者協会前''と書かれたバス停が有るが、いつ来るかわからないバスを待つより、歩いた方が早く駅まで着きそうだった。
「そうだね 歩いて行く?時間もあるし」と雫斗が言うと、「そうだね、行こうか」と全員が歩き出す。
かつては公園内を巡る游歩道が見る影もない、流石に歩道の周辺は伐採されて開けているが、それ以外は延びたい放題に伸びた樹々が絡まって足の踏み場もない。
村の林道を歩き慣れている雫斗達には違和感はないが、都会の街並みにはそぐわない様な気がする。
「何か村の山道を歩いているみたいね~、・・・でも何かいやな雰囲気があるわね。オーガでも出てきそう」百花のいきなりの発言に、雫斗たちは顔を見合わせ百花を凝視する。
「何よ!、ちょっとした冗談よ」いきなり注目されて百花は慌てているが、彼女はフラグを引きやすい。
良い悪いは別にしてこのご時世だ夢やお告げ予知などと言ったものを馬鹿にして、無視して良いはずが無い。この5年間で雫斗たちは色々学んできた、特に百花に関しては、無視すると酷い目に遭うという事を。
何も言わずに道端の拳大の小石を拾う雫斗。太めの木の枝を見つけ軽く振り回す恭平。ポシェットの中を改める弥生。それを見た百花は道端にあった木の枝を拾って軽く素振りをして気合を入れる。
皆の準備が整うのを確認して、雫斗達はDカードを出してパーティを組む。この四人でパーティを組む時には、なぜか雫斗がリーダーになる。
百花は猪突猛進気味で、チームメンバーのすべての状態を見るのを嫌がるので、必然的に雫斗が全体の指揮を執る事になる。
先頭は百花と雫斗が務める、真ん中に弥生を置いて最後尾は恭平と隊列を作り、周りを警戒しながら歩き始める。
「百花が言ったからじゃ無いけど、こうして見ると嫌な感じね」と弥生が言う、確かに気を付けて周りを見ると生き物の気配がない、鳴き声さえ聞こえない。
「これは当たりかもね、生き物が身を潜めている虫の鳴き声も聞こえない」雫斗がそう言うと「私のせいじゃ無いわよ」と百花が愚痴る。
「分かっているよ、誰も百花のせいだって言っていないって」と雫斗、口喧嘩を始める二人を無視して恭平が「やっぱりダンジョン?」と確信をついて来る。
ダンジョンは生成されるとき魔物が湧き出てくることで知られている、浅いダンジョンなら湧き出る魔物も弱いので問題無いが、深いダンジョンになると湧き出てくる魔物も強くなる。
過去にオーガやオークが10数匹湧き出て周りに壊滅的な被害を出したことがある。その時のニュースを覚えていて''オーガ''というワードを百花は出してきたのだろう。
だからといってオーガはないと雫斗は思う、ダンジョンが出来始めて5年オーガがダンジョンの外で確認されたのは、ダンジョン崩壊以外でその一回だけなのだ。
「その可能性が高そうだねどっちにしろそのまま進んで何も無ければ、''気のせいでしたー''ですむしね」雫斗の意見に「そうね気のせいが一番無難ね」と弥生が同意する。
周りを警戒しながら進む雫斗達は当然歩みが遅くなる、そうすると後ろから来る人達に追いつかれるわけで「おめーたち何をしているんだ?」と声をかけてくる人達が出てくる。
百花がちらっと振り向いて”ちっ”と舌打ちする、リーゼントの強面君一行だ、自然と最後尾の恭平が説明する。
すると”ギヤハハハハハ”と笑い出す強面君「おまえら探索者カードをもらってすぐに探索者ごっこか、厨二病が入っているんじゃねぇーかァ〜?」と強面君がのたまう、後ろの何名かもにやにやしている。
確かに雫斗達は中二だが自分の空想に酔うほど現実を否定していない、恭平は立ち止まり強面君を見下ろす。 迫力のある恭平に見下ろされて「なんだよ!!」とたじろぎながら強面君が言うと。
「ふむ、いやなんでもない」と歩き出す恭平。無視することに決めたようだ、こういう手合いは無視するに限る百花と弥生も同じく無視している。
しかし強面君一行は後ろから付いて来て”ギャースカギャースカ”五月蠅く付きまとう、とうとう百花が切れた。
「五月蠅いわねハエみたいに集ってきて、金魚の糞みたいに付いて来ないでさっさと行きなさいよ」。
「へっ、最強パーティー様のやり方を勉強させてもらっているのさ、せいぜい楽しませてくれよな」と強面君が釣れたとばかりにはやし立てる。
「おあいにく様、あなた達とはレベルが違い過ぎて勉強にもならないわよ、ほらササっと行きなさい!!」百花が”シッシッ”とハエを払うしぐさをする。
どうやら強面君一行を斥候代わりに使うつもりの様だ、百花は頭にきているように見えて結構冷静だなと雫斗が考えていると、緩やかに曲がっている遊歩道の先から悲鳴が聞こえる。
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